第74話 さっきよりも長くないか?

 特に後半に至ってはまるで彩音の惚気話ではないか。


 きっと西條が『東城がメモで連絡して来たら惚気話を書くように』と命令していたに違いない。


 そして俺は彩音からもらった手紙を握り潰した後、少しして考えを変えて考察してみることにする。


 あの彩音がわざわざこんな長文で、しかもメモの返事であるにも関わらず長文で手紙で返すという事があるのだろうか。


 たとえ西條からそうやれと言われていたとしても、その彩音のメモ書きに対して手紙と言える文量で返すと言う行動はあまりにも不自然なのである。


 そして俺は一つの答えに辿り着く。


 先ほどの手紙の内容に何でわざわざ西條の別荘へ行く事、しかもご丁寧に次の連休に行く事を書いてあるのか。


 これは当日俺に助けて来て欲しい。 そしてそのまま駆け落ちをして欲しいという事ではないのか?


 そうでなくとも別荘ともなれば西條の実家と違いセキュリティーもかなり甘くなっているだろうし、彩音も一人になれる時間も作りやすいため密会できるチャンスはいくらでもあるはずだ。


 そこで俺に彩音の本心を聞けば良いという事ではないのか?


 そして俺は再度『その連休に行くという別荘はどこにあるんだ?』と単刀直入に書いたメモを彩音に、西條にバレないように渡す。


 ちなみに単刀直入に聞いた理由は、目的地を教えてくれるのならばそれで良し、教えてくれない場合はこのメモでのやり取りですら何らかの方法で西條によって監視されている場合があるという事が分かるからである。


 そして彩音から帰ってきたメモと言う名の手紙には『流石にちょっと気持ち悪いよ? というかここ最近本当にしつこいからこれ以上私と西條の仲を引き裂こうとするのならば本気で怒りますよ? 東條君。 それはそうと先程書いた妹の莉音の件なんだけど、本当に腹が立つのよね。 仮にも祐也さんは私の婚約者であって莉音の婚約者じゃないのにも関わらず、まるで莉音こそが本当の婚約者だと言いたげな態度を取るのよ。 それも腹が立つのだけれども、それでもその程度ならば淡い初恋だと初々しい感じで見れるのだけれども私を毎回ダシに使うのは流石に『それってどうなのかしら?』と思うわけですよ。 毎回毎回「お姉ちゃんを守るために〜」って枕詞を付けては一緒にデートに誘おうとしたり祐也さんがお風呂に入っている時に莉音がその枕詞を使ってお風呂に入ろうとしたり、今回に至ってはお泊まりデートについてくるって言うのよ。 勿論「おお姉ちゃんを守るために」とか言って。 ちゃんと自分の気持ちを言葉にしているのならば良いのだけれども、本心を言えないから私をダシに使って言うというならば流石に私もこれ以上は妹ではなくて一人の女性として叱らないといけないと思っているところよ』と書かれているではないか。


 なんか、さっきよりも長くないか? あと地味に呼び捨てから君付けに変化しているのが他人行儀な感じがして傷つく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る