第75話 神様仏様西條様

 そしてこの長文に若干引いてしまっている俺がいる。


 もしかしたら西條の罠かもしれないというのに、ここで彩音を『そういう奴』というレッテルを貼って見るのはあまりにも浅はかであると言わざるをえないのだが、それでもどことなく文面から面倒臭さを隠し切れていない気がするのだ。


 そもそも人の話を聞かない上に聞いてもいないのに惚気話を永遠と書き綴るというのは、流石にどうなんだ? と思ってしまうのは致し方ないだろう。


「くっ、西條の奴考えやがったな」


 それでも、この文面は彩音からのSOSが暗号として隠されているという事がわかっているからこそ俺は、送られてきた二通の手紙を何度も読み直す。


 この文章の多さこそが彩音の苦しみの大きさであるのは間違いないのだから。





 ウチは最低の女である。


 そもそもウチの初恋は絶対に叶わないと分かりきっていたし、どうしてそんな勝ち目の無い相手を好きになったのだろうと自分でも思う。


 そんな時、とうの昔に諦めていたのにウチの好きな人が好きな人であり、ウチの親友でもある女性が半ば強引に婚約を別の男性としてしまったのである。

 

 その時ウチは親友である女性が半ば強引に婚約させられた事よりも、ウチの好きな相手に対してこれからアピールできる、この恋を諦める必要がないんだという嬉しさの方が優ってしまっているのである。


 この事に気付いた時、私はいかに自分が最低な女であるのかというのを気付かされたのである。


 しかも、いざウチの好きな相手にアピールできるとなった時になかなかアピールする勇気が持てずに尻込みしてしまう。


 もし、ウチの気持ちがバレた時に今のこの関係が壊れてしまうと思うとどうしても一歩踏み出せないのである。


 そんな時にウチの好きな人が、一緒に考察して欲しいとウチを頼ってきてくれたのでこれ幸いと放課後なら時間が空いているという取っ手つけた理由で彼と二人っきりの状況を作り出す。


 今の私にはここまでが限界で、これ以上は勇気が出ない。 本当に情けない。


 そして意中の彼が悩んでいる原因である、彼が好きな人が渡して来た手紙を渡された。


「……………………何やってんねん彩音」


 何だろうか、これもう絢音は西條にメロメロやないか。 しかも若干メンヘラ臭がするのは気のせいだろうか?


 これならばもう彩音に対して一切の気を使う必要が無くなったという事ではないか。


 どういう手管を使ったのか分からないのだがナイス西條っ!!


 神様仏様西條様である。

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