第73話 手書きのメモを彩音に渡す

「そんな演技をしなくても俺だけはお前の事を分かっているから、別に演技なんかしなくても良いんだぞ。 他人の目が気になるというのなら人通りの少ない場所へ移動してもいいぞ?」

「……一体さっきから何の話をしているの? 言っている意味が全く理解できないわよ? そもそも私は洗脳なんかされてないし」


 俺の説得も空しく彩音は知らない体を貫いて来る。


 それはきっとこの教室に西條がいるからであろうが、だからと言って西條と彩音が離れた所を待つというやり方ではこの三日間で無理だという事が分かった。


 実は約三日前から彩音が西條から離れて一人になる所を待っていたのだが、結局一度たりともその時は訪れなかった。


 だからここで西條に聞かれない方法で彩音に俺の意思を伝えるしかないと考えた結果、手書きのメモを彩音に渡す。


 そして彩音はそんな俺を訝しむような目線を向けながらも渡したメモを開いて読み始める。


 因みにメモに書いた内容は『次の連休どこか二人で遊びに行かないか?』という内容である。


 流石の西條も彩音にGPSを体内に埋め込むような事はしてないだろうというのと、これならば西條の手が届かない場所で話す事が出来るうえにデートもでき、彩音のストレスも西條の目がない事で解消されと、正に良い事尽くめである。


 そのメモを読んだ彩音は俺の方をキッと睨みつけると自分の席に座り筆記用具をとりだして俺への返事を書いてくれているようである。


 しかしながら睨まれた時はびっくりしたのだが返事を書いてくれるというの事は、あれは周囲の目と、西條の目を誤魔化すための演技だったのだろう。


 流石彩音だ。 俺まで騙してしまえる程の演技力があるだなんて知らなかった


 そして俺のメモの返事を書いてくれたのだろう。 渡された紙を開いてみるとそこにはメモというよりかはどちらかというと手紙レベルの文字数が目に入ってくる。


 そこには『東城、アンタって最低ね。 婚約者がいる相手に二人で出かけようだなんて誘ってくるとか常識のかけらもないの? しかもクラスメイト達が見ている中で。 そんな常識のない、浮気を誘ってくるような人だったとは思わなかったわ。 申し訳ないのだけれど、流石に浮気を平気な顔で誘ってくるような相手とは今後の付き合い方も考えさせてもらうから。 あと、次の休日は西條と犬飼さん、そして妹である莉音と一緒に裕也さんの持っている別荘で過ごす予定だからどのみち無理ね。 というか何で妹がくるのかしら? ここ最近妙に莉音が裕也さんに馴れ馴れしいのよね。 裕也さんは私の婚約者だという事を一度しっかりと言い聞かせる必要があるようだわ』と書かれているではないか。

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