第69話 分かりやすい指標



 ここ最近北条姉妹の俺に対する当たりが妙に生暖かいというか何というか、以前と比べてだいぶマシになっているように思う。


 それはまるで喋る生ゴミを相手にするような態度から、ちゃんと最低限は人間として見てもらえているような、そんな感覚である。


 この感じ、ずっと何処かで感じたことあるような、それこそデジャブと言っても良いくらいには懐かしい感じもするのだが、しかしながら俺が前の世界でこんな美女二人と話した事さえ無い事は自分が良く知っている。


 ではどこで類似体験したのか? とここ数日ずっと考え考察もしていたのだが、先ほど「祐也っ! 聞いているのかっ!?」「こらっ! 勝手に祐也さんの家に訪れてその呼び方はやめなさいと言っているでしょう?」と言う姉妹のやりとりを聞いた瞬間、俺は今まで生きてきた中で一番上衝撃的な味アハ体験をしてしまう。


 そう、俺は気づいてしまったのである。


 今考えれば何故その事に気づけなかったのか、『この世界はこういうものだ』と無意識の内に知らず知らずに視野が狭くなっていたのかもしれない。


 そもそもこの世界はエロゲの世界であってエロゲの世界では無いのである。


 そのためゲームのような展開やキャラクター達は存在こそしているのだが、それでもここにいる人達は確かに生きているのだと言う事を本当の意味で理解していなかった。


 それは北条姉妹はゲームのキャラクターではあったのだが、今目の前にいる二人はちゃんと感情がある一人の人間だという事である。


 早い話しがゲームの通りに動く訳では無いという事が頭からすっぽりと抜けてしまっており『この二人の死亡フラグにつながる展開は回避できたからとりあえずは安全である』と安心し切っていたのである。


 そして、そのことを俺は先ほどの姉妹のやり取りでようやっと理解できた。


 二人が俺の事を下の名前で呼んでいる・・・・・・・・・・という事に。


 何故俺は今までこの二人はゲームのキャラクターなのだから主人公以外に好きになる異性はいない・・・・・・・・・・・・・・・・・と思い込んでいたのか。


 そして、このエロゲのメインヒロイン二人である北条姉妹は他のヒロインと違い攻略しやすくなっているのだが、その中で主人公の名前を変えずに公式の名前でプレイすると『主人公を下の名前で呼び始めると惚れている証』と言う一つの分かりやすい指標があるのである。

 

 そして今、俺の目の前で喋っている北条姉妹は俺のことをいつの間にか下の名前で呼んでいるではないか。


 確かにこれはある意味では完璧に二人からの死亡フラグをへし折ったのだと思える事ができるのだが、それとは別に主人公である東城に殺されるフラグが跳ね上がっている気がするのだが……。

  

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