第68話 きっと真っ赤になっている
もうどうなってもいい。 ここで殴られて、つら去られて、欲望の捌け口にされるのも、今の私にはお似合いかもしれない。
そう思いながら目を瞑り次の瞬間訪れるであろう衝撃に備えようと強張るのだが、一向にその衝撃が私を襲って来ず、疑問に思った私は恐る恐る目を開く。
するとそこには相手の拳を握っているアイツの姿がそこにはあった。
「何人生諦めたような表情してんだよ、お前らしくもない」
「べ、別にアンタには関係ないでしょっ!!」
また思ってもない言葉が口から出てしまう。
本当はとても嬉しいし感謝の言葉を言いたいのだが、本当に自分でもこんな女可愛くないと思う。
そんな私にアイツは頭を撫でてくれて「とりあえず間に合ったようでよかった」と優しく話しかけてくれる。
そう、私はこの顔と声にやられたのだ。
校内で見かけるアイツはまるで似ているだけの別人だと言われてもおかしくないほどで、そのギャップは卑怯だと私は思ってしまう。
「あ? お前誰だよ。 今いい所なんだから邪魔すんじゃねえよ」
「お前こそ誰だよ」
「クペッ!?」
そして件のチンピラは奇襲のつもりなのか話しかけている途中で祐也に殴りかかろうとするのだが素人の私が見て大振りなそのパンチは祐也に簡単に左手で弾かれて、そのままお返しとばかりに綺麗なフォームでチンピラの顔面を殴り返していた。
その動作から見ても祐也は裏では格闘技をしっかりと練習しているのだろうなというのが窺えてくる。
何故、表では悪ぶっているのか今まで不思議でならなかったのだが、その理由は今日祐也が泣いていた事に直結するのではと確信するのだが、お姉ちゃんにはこの事を教えてあげるつもりは毛頭ない。
「で、何だって? お前たちは俺の知り合いにどんな事をしようとしていた訳? もう一回教えてくんないかな?」
「ず、ずびばぜんでしだっ!!」
おそらく出鼻を挫かれた時点でチンピラの心は折れたのであろう。
さっきまでの威勢は消え去り怯え切った表情と態度で祐也に謝ると流す鼻血もそのままに仲間を連れてどこかへと走り去って行く。
「まったく、少しは相手を見て喧嘩を…………まぁ……なんだ、怖かったよな」
「こ、怖くなんかないしっ!! うるさいバカっ!! 誰も助けてなんか言ってないしっ!!」
「ははっ、これは酷い言われようだな」
「…………でも、ありがとう」
「え? 何だってっ?」
「何でもないっ!! 私はもう帰るからねっ!!」
「お、おう」
ほんの少しだけ素直になってみたのだけれども、たったあれだけの事で私の顔は自分でも分かるくらいきっと真っ赤になっている事だろう。
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