第39話 私の曇った目を覚まさせてくれた。

「やめなさいっ! 西條祐也っ! 何をしているのですかっ!? どうして何もしていない生徒に暴力を振るっているのですかっ!?」

「た、助けてくれ北条っ!! コイツはお前の婚約者だろっ!! 何もしていないのにいきなり殴りかかって来たんだっ!!」


 そして、私が止めに入ると西條にいじめられていた生徒が私の元へと縋り付くように近づいてきて、西條祐也の婚約者である私に西條を止めるように懇願してくるではないか。


 彼のなりふり構っていない必死さと、この状況だけ見れば私が来るまでに何が行われていたかなど聞かなくてもどちらが悪かだなんて馬鹿でも分かるだろう。


 きっとこのボクシング部の生徒の事を『なんか偉そうな態度が気にいいらない』だとかそういったどうでも良い理由で西條祐也は彼に暴力を振るったのであろう。


 まさにクズである。


 しかも相手はボクシング部であるため人を殴るのは御法度であり、殴り返してこないという事を分かりきった上で暴力を振るい、自分の方が上であると悦に浸っているに違いない。


 やっぱり、クズはどこまで行ってもクズだというのが分かったのと同時に、今まで『もしかしたら表向きは悪ぶっているだけで内面はいい人なのかもしれない』と思っていた私の曇った目を覚まさせてくれた。


「あ? お前本当に言ってんのか?」

「あ、当たり前ですっ!! 無抵抗の人間に暴力を振るうのなんて本当あなたって最低な人間ねっ!!」

「は? 無抵抗だ? 最初に……いや、いい。 もういい。 どうでもいいや」

「何がどうでも良いのですかっ!? こんな事をしておいてっ!!」

「はいはい。 分かった分かった。悪いのは俺で良いよ。 後、そこのゴミクズ。 俺に、西條家の御曹司に喧嘩を売るという事がどういう事なのか思い知らせてやるから覚悟しておけ。 明日この学校の校門をくぐれると思わないことだ」

「あっ、ちょっとっ!? どこ行くのよっ!?」


 そして西條祐也はそんな捨て台詞を吐いてこの場所から消えていくではないか。


 去り際に犬飼さんに何かを耳打ちしていたのは少しだけ気にはなったのだが、今はそんな事よりも倒れている二人の事が先決であろう。


 そう判断した私は急いで保険の先生がいる保健室へと走って伝えに行こうとすると、件のボクシング部の生徒に腕を掴まれてしまう。


「な、何をするんですかっ! 早く彼らを──」

「それなら大丈夫だ。 どうせアイツらは死んだふりをしているだけで大した怪我もしていない。 だから逆に大ごとにされると困るんだよ。 なぁ、そうだろ?」

「いやー、本当まさかあそこまで強いとは思いませんでしたよ」

「まさに噂に違わぬ化け物っすね」

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