第36話 我慢の限界に近づいている

 ただ言える事は、私は今まで西條祐也の表面しか見て来なかったという事なのだろう。


 だから私は西條祐也の婚約者としてしっかりと見定めて行こうと、そう思うのであった。





 ここ一週間近く彩音の様子が明らかにおかしい。


 その原因は彩音が西條祐也と婚約してからなのは明らかである。


「西條の野郎……」


 考えれば考える程西條祐也を殺したくなる程の怒りと憎し身と嫉妬を感じてしまう自分がいる。


 更に彩音の妹の莉音からの連絡では彩音は婚約したその日から西條のいる家で寝泊まりをしているというではないか。


 婚約といえどもまだ二人は結婚をしているわけではないのである。


 であるのになぜ彩音は毎日西條の家に泊まらなければならないのか。


 そもそも彩音は西條の事を心の底から嫌っている事を俺は知っている。


 いや、嫌っているという表現では生ぬるいかもしれない。


 それ程の嫌悪の対象がいる家へ何で毎日彩音が泊まりに行っているのか。


 その理由を想像するだけで死にたくなるし、本当に西條の事を殺そうかと何度思った事か。


 しかし俺はその湧き出てくる様々な負の感情をグッと堪える。


 なぜならば一番辛いのは、そんな嫌悪の対象から毎晩求められているであろう彩音であるからである。


 本人である彩音が家族のためにとグッと耐えているのに、本人ではない俺が耐える事ができないなど、彩音にどのような顔をして会えば良いかわからないではないか。


 それにもし彩音を助ける事ができたその時に見せる顔がない。

 

 だから俺は今まで耐えて来た。


 しかしながらここ最近の彩音は心ここに在らずといった感じでボケッとしている事が明らかに多くなり、更に気がつけば彩音が西條祐也の事を目で追ってる姿をよく見るようになった。


 前はそんな事は無かったのに俺が声をかけても無反応の時が増え始めたのもそのぐらいからである。


 心配して大丈夫かと聞いても「大丈夫だから、心配しないで」としか返さないし、ここ数日に至っては西條事を悪く言うようならば怒り始める始末である。


 一体、西條祐也は彩音に毎晩どんな事をしているのか気になって仕方がない。 そう思うと共に俺の中の憎悪と彩音の事を好きにできているという嫉妬心が日に日に膨らんできており、彩音よりも先に俺の方がもう我慢の限界に近づいているのが自分でも分かる。


 むしろ最近では彩音は俺が怒るのを待っているのではないか? 自分では行動に移せない何かがあるのではないかとすら思い始める始末である。


 しかしながら、そう考えるとしっくり来るのも事実なわけで……。


「助けてほしいなら助けてほしいと早く言ってくれよ……彩音。 俺もう耐えられねぇよ……」

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