第35話 ほんと、何なのよもうっ!!
◆
「どうした? 彩音」
「…………何でもないわ、圭介」
「何でも無いわけないだろうっ。 今日お前ずっと心ここにあらずって感じでボケーとしてたぞ?」
「そうね……」
何故だろう。 今朝からアイツの事ばかり考えてしまって好きな異性であるはずの圭介が話しかけてくれているというのに興味が向かない私がいる。
「そうねって、お前なぁ……まさかっ!? アイツに何かされたんじゃないだろうなっ!? もしかして、襲われたのかっ!?」
「やめてよっ!! …………ごめん、急に大声出して。 でも、本当に違うから、それだけは信じて」
「お、おう」
アイツの事は今でも確かに嫌いである。
なのに、圭介にアイツの事を悪く言われた時に何故か腹が立った私がいて、少しだけ自分の感情に自分自身戸惑ってしまう。
「ねぇ……」
「なんだ?」
「もし、もしだよ? もし私が助けてほしい事があって、圭介に助けてほしいって言ったら助けてくれる?」
「……勿論助けるに決まっているだろうっ!! そして一緒に逃げようっ!!」
「逃げる……?」
「ああっ!! ここではないどこかへ逃げて二人で暮らそうっ!!」
「……そうね、それも良いわね。 その時はお願いするわね」
「おおっ! 任せてくれっ!!」
ああ、この人は私の妹や私の両親の事はどうでも良いんだ……。
アイツは……西條祐也は家族全員助けると言ってくれたのに。
それに、逃げるんだ……。
「っ!?」
そこまで考えて私は無意識の内にアイツと圭介を比べている事に気づいて我にかえる。
そもそもアイツと圭介とでは経済的な部分で違うから比べる事自体がおかしな話であるという事は分かっているはずなのに。
それでも、もし逆の立場だったならば圭介は私の家族も助けてくれると言ってくれるのかと考えた時、そうは思えないと思ってしまうし、アイツが圭介の立場でも家族全員助けると言ってくれると思ってしまう自分がいる。
「どうした? 俺何か変な事を言ったか? 言ってしまったのならば謝るが……」
「ごめんっ、何でもないからっ!! 大丈夫だからっ!!」
「今日のお前どこかおかしいぞ? 本当に大丈夫か?」
「大丈夫っ! いやほんと大丈夫だからっ!!」
本当に、圭介の言う通り今日の私はどこかおかしい。
でも流石にその原因が今朝の西条祐介のせいだと言えるわけがないし、その結果アイツと圭介を比べてしまっている自分がいるなんて余計に言える訳がない。
そして、私がこんなに苦しんでいると言うのにこの原因を作った張本人は犬飼さんといちゃいちゃしている姿が目に入ってきて無性に腹が立ってしまう私がいるわけで……。
ほんと、何なのよもうっ!!
こんな事でむしゃくしゃする自分にも腹が立つ。
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