第34話 全く、世話が焼ける
「はぁーー……」
俺はこの現状に思わずため息を吐いてしまうのだが、それを彩音に聞かれたらしいく、彩音は俺の方へ『何よ?』と、少しだけ腹立っているのが分かる表情で語ってくるではないか。
俺はその態度に『誰のせいで俺がこんな思いをしてんだよっ!! そもそもお前は俺が聞いた時ははぐらかした癖に良くそんな態度が取れるなっ!!』と彩音に当たってしまいそうになるのをグッと堪える。
理由や背景はどうあれ、どう考えても周囲のヘイトを集めるような生活態度で過ごした上で金で彩音と婚約した、俺と精神が入れ替わる前の西條祐也のせいであり、彩音のせいではないのだから彼女に当たるのは流石にあり得ないという俺の中の常識が俺の感情を何とかストップさせてくれた。
感情に任せて行動すると大抵いい結果に転がらないのは前の世界でも嫌という程経験してきたというのも大きいだろう。
感情的になってしまいそうな時ほど怒らず騒がず、冷静に状況を判断して最善策を取る。
社会経験が教えてくれた立ち回りだ。
感情的に動けば、昨日の東城圭介と彩音のようにバカを晒すハメにもなる。
「いや、お前の行動が謎すぎて意味がわからないだけだ。 別に無理して俺の元にくる必要も無いし、昨日言った通り恩を感じて返そうとしたり義理立てしようとする必要もない。 そのままお前の実家で過ごしてもらって構わないし、だからと言って婚約を無かった事にしてお前の家族を路頭に迷わせるつもりもない。 自分や妹の分の学費を払う事がキツいのならば、わざわざ俺の顔色を窺うような事をしてまでご機嫌取りのような事をしなくても申してくれればそれも払う。 もう一度言う。 お前は今何でここに居る」
「…………」
そこまで、できるだけ優しい声音で彩音に話してみるのだが、話せば話すほど彩音は泣きそうな、そして不安そうな表情になってくるではないか。
それほど言いたくない、俺に知られたくない事が彼女にはあるのだろうと俺は判断する。
彩音にだって人にはプライドもあるだろう。
それがたとえ大人になてから振り返ってみるとどうでも良いようなプライドだったとしても、今の彼女に取っては俺と婚約する事以上に、これだけは譲れないプライドなのだろう。
いわゆる、彼女の精神が崩壊しないための最後の砦でもあるという事でもある。
全く、世話が焼ける。
「分かった。 話すのが嫌ならば無理に話す必要はないし、話さないからと言ってお前の家族を見捨てたり不利になるような事は決してしないし今話さなかった事で悩む必要もない。 でも、俺に話してどうにかなる事ならば、どうにもならなくなる前に話してくれ。 その時は全力でどうにかしてやる」
そして俺はそういうと彩音の頭を撫で、俺がいると気も休まらないだろうと席を立つのであった。
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