第12話 夢見る少女
歯車が崩れ始めたのは、二年前だったと思う。
順調だった父の会社が、部下の不祥事がスキャンダルされて炎上し、そこから巻き返す事もできずに赤字転落。
その余波は二年経っても消すことは出来ずに自己破産も視野に入れ始めた所で私の婚約話が出たのである。
その内容は西條家の長男である西條祐也の婚約者となる代わりに北条グループ丸々西條家が吸収するという内容であり、その話が来たのが先月。
そして一ヶ月間準備をすすめて、私は昨日西條祐也と婚約をしたのである。
普通に考えればあんなクズと婚約するなどあり得ないのだが、両親や従業員達の事を考えれば私一人でその人達を救えるのならば、ここで私がこの婚約話を断るのは我儘なのだろう。
それくらいの事は私だってわかる。
私だけが我慢すれば両親や妹も含めて皆んなが救われて、ハッピーエンド。
それで良いじゃない。
それに、もし私がここで婚約を断って両親や従業員達の未来を奪った未来を想像すると、とてもではないがまともな精神で生きていけない。
きっと罪悪感で潰れてしまうだろう。
だからこれでいいのだとそう自分に言い聞かせるのだが、それでも心の奥底では『何で自分が』と思ってしまう。
「それにしても、何時になったらアイツは来るのよ。 私だけ意識しているみたいでバカみたいじゃないのよ……」
数時間前に婚約者同士の形だけの顔合わせをした後、西條はいやらしい目付きで私の身体を上から下までねっとりと眺めた後に、今日は西條家の客室に泊まるように言われた私は、清水寺から飛び降りる程の覚悟を持ってやって来たと言うのに、来なければ来ないで腹が立つ。
あれ程嫌だと思っていたのに不思議なものである。
本当に、何考えているのよアイツ。
私の初めてを奪うのならばいっそ早くヤって早く終わらして欲しいものだ。
確かに初めての行為を夢見た頃もあったのは確かなのだけれども今更恋だの愛だの言えるような立場ではない事くらいは理解している。
そりゃ、本音を言えば初めては好きな人と……東城とって思いはするのだが、一回ヤってしまえばそんな夢見る少女のような理想など無くなるだろう。
……未練は残るかもしれないが、後悔はしない。
だというのに、この私がここまで覚悟をしてこの部屋に来ていると言うのに、結局この日西條祐也は私がいる部屋には来ることは無かった。
◆
放課後。
俺と美咲を乗せた黒塗りのリムジンは某マックの駐車場に停まっていた。
そのあまりの場違い感に思わず写メを撮りたくなるのをグッと堪える程である。
ちなみに美咲は写メを撮っていた。
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