第10話 俺も殺すつもりは無い

 それでも、彼の無念みたいなモノを感じる様な気はするし、彼の身体を依代?として貸りていただいている身としては、できる範囲で俺が苦じゃなければ彼の想いは尊重してあげたいとも思う。


 そんな事を考えられる余裕がある程には東城圭介の攻撃は遅く、そして格闘技を経験しているからこそ大振りかつ、俺の顔・・・に焦点を合わせたその攻撃はあまりにも酷すぎるとしか言いようがない。


 その攻撃は、俺の頭に合わせて攻撃している以上、今俺の頭がある位置から、頭ひとつ分ずらすだけで彼の攻撃は当たらなくなる。


 その為俺はただ、頭の位置を頭ひとつ分後ろにずらし、俺の頭がっあた場所に東城のフックぎみのパンチが空を切っていく。


 そして、やはり無駄に力を入れていたようで、そのエネルギーを殺しきれずそのまま振り切った右拳に東城は身体を持っていかれ、その瞬間俺は軽く東城の足を引っ掛けてやる。


 ただそれだけ。


 頭を少し後ろに下げて、ほんのちょっと東城の足を軽く引っ掛けてやっただけで東城は殴った勢いのまま廊下へ頭から落ち、転がって行く。


「うわ、痛そう……。 明らかにヤバい音だったんだが……」


 ともすれば歯が一、二本程折れていてもおかしくないようなコケ方をしたのを見て、そうなるように仕向けた俺自身が罪悪感を感じてしまう程には痛そうで派手なコケ方をしていた。


「……って、そんな事言っている場合じゃないな。 おい、東城っ!! 大丈夫かっ!? 美咲、とりあえず頭から行ったようだから最悪を想定して救急車を呼んでくれっ!!」

「は、はいっ!!」


 流石の俺も殺すつもりは無い。


 ただちょっと痛い目を合わせて、次からはちょっかいをかけて来ないようにさせよう程度の軽い気持ちでしかなかったにも関わらず、流石にそれで死んでしまっては目覚めが悪すぎる。


「必要ないっ!!」

「いやだが、お前……頭からコケただろ……。 流石に頭は怖いから自己判断ではなくちゃんと医者に診てもらった方が良いと思うが?」

「っるせぇっ!! 黙れっ!! 俺を見下して、情けをかけて、悦に浸って楽しいかっ!! クズ野郎っ!!」

「おい、落ち着けって」


 しかしながら東城圭介は俺に施しを受けるのは嫌らしく、さらに激昂し始めてしまう。


 これでは俺が何を言ったところで逆効果だろう。


「何や何や? ホンマに殴りに行ったんかいな。 チャゲのアスカやないねんから。 あれ程どうせ敵わないから止めとけ言うーたやない。 それに、あのコケ方はホンマにヤバいとウチも思うから、流石に病院行った方がええで。 まだ暴れるようならウチが締め殺してでも病院に連れて行くわ」

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