第9話 俺は俺だ

 恐らく、初見であれば間違いなくの奇襲は成功しただろうが、奇襲は奇襲だからこそ成功する訳で、予め知っていれば成功するなどあり得ない。


「西條祐也ぁぁぁぁあああっ!! 貴様よくも北条と婚約しやがったなっ!!」


 そして奇襲を仕掛けてくる張本人であり、このエロゲの世界で主人公でもある東城圭介が教室の中(廊下側からは死角)で俺がやって来るのを待っていたのだろう。


 その東城圭介が怒りの籠った怒声を上げながら俺へ殴りかかって来る。


 それでもさすが主人公と言うべきか、そのイケメン具合は憤怒の感情に染まっても尚損なわれない程のイケメンである。


 背は高くすらっとしており、国民的男性アイドルグループの王子様的ポジションに余裕で抜擢されてもおかしくないルックスに少しばかり嫉妬しそうになる。


 そして話を戻し、このシーンは本来エロゲでは主人公の怒声と奇襲にビビり、反応できなかった西條が殴られるという描写なのだが俺は予めその事を知っている為警戒しており、そして当然のごとく東城圭介によって奇襲され殴られると分かっていれば身体が硬直する事もなく、殴られる事も当然ない。


 ちなみに俺は、実は西條祐也はワザと東城に殴られたのではないかとも、少なからず思っている。


 というのも、俺の中でこの西條祐也という人間は不器用を煮込んで作ったような人間でると現時点で既に判断している為、それ程の人間ならばそれくらいの事(ワザと殴られる)はしてもなんら不思議ではないと思ったからである。


 そもそもキャラクター設定で幼少期から自分の身を守るために格闘技(キックボクシング)を習っているという程の人間が、奇襲をされたといっても素人である主人公のパンチを避けられないとは到底思えない、という事もある。


 恐らくはエロゲでの描写はあくまでも主人公視点だからこその描写だったのでは? というのが俺の一つの答えであり、あながち間違っていないとも思う。


 しかしながら、効果不幸は俺はそこまで不器用を拗らせた人間でも無ければ、殴られるとわかっていてハイそうですかと殴られるような人間でもない。


 殴られると分かっているのならば、避ける。


 当たり前だ。


 痛いのは嫌に決まっているし、それらを好む様な特殊な性癖でもないのだから。


 そして俺は東城圭介の繰り出す出鱈目なフォームのパンチを、キックボクシングで培った経験で軽く避ける。


「おぉ、身体は動くもんだな」


 そしてこの一連の流れ、綺麗に東城圭介のパンチを避けることが出来たことに一番びっくりしていたのは俺であった。


 どうやら今まで西條祐也として培った技術も、経験や知識と同様に失われる事なく、しっかりとこの身体にも刻み込まれているのだろう。


 知識も経験も技術も引き継いだ今の自分は、果たして西條祐也として言えるのか言えないのか。


 泥人形問題や、どこで○ドア問題を突き付けられている様な感覚にあるのだが、俺は俺だ。 西條祐也ではない。

 

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