第3話 所詮は偽物は偽物

 西條祐也の精神が俺になった事を悟られずにエロゲのエンディングである高校卒業までやり過ごす。


 かなり難易度は高そうだが、西條祐也としての知識と記憶は全て引き継いでいる為やれないことも無い、気がする。


 ちなみに今俺の現状が、西條祐也がストレスからくる現実逃避として作り出した第二人格だと仮定して(どうしてゼロから新たな人格が作られるのではなくて俺の精神が転移されたのかは考えたところでわからない為保留するとして)自らの精神を守るための自己防衛本能の結果だとするならば西條祐也としての人格は残っているのではないか?


 そう思い西條祐也という人格の存在を感じ取ろうとして分かった。


 彼は北条彩音と婚約が決まった瞬間に耐えられなくなって存在そのものが消滅していた。


 その結果脳が生命維持の為に新たな人格を作るのではなく、別の世界から連れて来たと……我ながら雑なSFの考察だな。


 取り敢えずその雑なSF物語の考察は後でするとして、彼の最後の記憶と感情を思い出すのにかなり苦労したのだが、北条との婚約が決まった彼の心情は、自分の価値は親、財閥の息子、金であり彼自身はそれらを前にした場合無価値でしか無い事、そして北条彩音も彼ではなく彼についてくる付属部分しか見ていない事が分かった事、そしてどんなに彼が悪ぶろうとも金と財閥と親の権力で踏み潰せる事。


 その事からも彼の今までの悪行はやりたくてやったのではなく、彼自身の生きた証、それが例え世間からは非行や犯罪まがいの行動であったとしても、そして彼自身いけない事だと分かっていても、それでも悪名でも良いから彼が生きているという証を残したかったという強い意志が伝わってくる。


 そして、北条綾音との婚約が決まった瞬間、今までの悪行も無駄だと悟った彼の精神は壊れてしまった。


 今までの悪行を背負って生きていくという事からも、その他何もかもからも逃げた。


 腐ってやがる。


 そう俺は思ったのと同時に激しい怒りを覚えたのだが、彼がどうする事もできなかったように俺もどうする事もできずに西条グループを引き継ぎ、そして将来西条グループに関わる従業員などの自分とは関係ない何千、何万となる無関係な人間達を巻き込むような事を、それこそ不祥事を自作自演で起こしたり素行の悪さを演じてマスコミ各社にリークして西条グループそのものを潰すという事も出来ないだろう。


 所詮は偽物は偽物だ。


 悪に成りきるには心が耐えられない。


「あぁ、だから彼は自殺するし、主人公やヒロイン達に殺されるルートでは救われたような表情をしていたのか……」


 知りたくなかった、ゲームをプレイし終えた時常に感じていた違和感の正体を知ってしまった。


 もはや彼の救いは死しか残っていなかったのだろう。


 恐らく彼は、もう既に狂っていたのだ。

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