12-2 初めてのタイムトリップ
「あたしは乳神、ミルクの神様よ。あなた、過去に戻りたいんでしょ?」
初めて時空ミルクを飲んだ私の目の前に、乳神様は現れた。当時はまだ牛柄の服は着ていなかったようだ。
「いや、ちょっと言ってる意味がわからないんですが……」
「だからね、あたしの能力であなたを過去に戻してあげるって言ってるの」
「そんなことができるんですか?」
「神であるあたしに不可能はないわ。その気になれば、牛乳の色を白から黒に変えることだってできちゃうんだから」
「……今なんて言いました? 牛乳を黒くする? それ本気で言ってるんですか? 牛乳は白いからこそ美しいんですよ。それを黒くしようだなんて、正気の沙汰じゃない。あなた、ほんとにミルクの神様なんですか? さっき過去に戻せるとか言ってましたけど、それもなんだか疑わしいですね」
「いや、さっきのはモノの例えというかなんというか……。そもそも、あたしにそんな大それたことをする力はないです。なんか調子に乗ってすみません。……でも、過去に戻せるのはほんとです、信じてください」
「ほんとに過去に戻れるなら、私は高校入学からやり直したいですよ。もう二度とアマナがあんなことにならないようにしたい。そして、こんな酷いことした犯人を、なんとしてでも見つけ出したいですね」
「その願い、叶えてあげる」
――――超時空超越跳躍航行!
ここから私の長い旅は始まったんだ。
****
「また飲んだの?」
「いやあ、なんかバレー部で全国大会を目指して青春してるうちに、すっかり本来の目的を見失ってたっていうか……。そんなわけで、もう一回戻りたいなあと」
「そんな何度も過去に戻してもらえて当然みたいに思われても、困るんだけどなあ」
「えー、そんな堅いこと言わないでさあ。私とチイちゃんの仲じゃん。ね、お願い」
「しょうがないなあ。じゃあいくよ。超時空超越――」
「あー、ちょっと待った! その超時空超越……なんちゃらってやつ、なんかダサくない? その呪文じゃなきゃダメなの?」
「いや、別にセリフは無くてもいいんだけど、こういうのあった方が、雰囲気出るかなあと思って……」
「うーん、ちょっと言い回しが堅すぎるんだよねえ。どうせなら、もっと可愛い感じの言葉にしない?」
「可愛いかあ……じゃあミルクは、どんなのがいいと思うの?」
「そうだなあ……例えば、ミルクとタイムトリップを組み合わせて、『ミルキートリップ』なんてどう?」
「……それいいかも」
「それじゃあ気を取り直して、いってみよう。リピートアフターミー、ミルキートリップ!」
――――ミルキートリップ!
****
「まさに運命の再会。まさかナナセがあのキバさんで、また仲良くなれるなんて、夢みたいだよー」
「上手くいってたなら、もう過去に戻らなくても良かったんじゃない?」
「そうなんだけどさ、やっぱり例の犯人を見つけないと、私の旅は終われないよ。いっそチイちゃんが犯人をとっ捕まえてくれたら早いのに」
「いや、さすがにそれは……」
「ほんと神様ってたいしたことないよね。タイムトリップ以外で、なんかもっとできないの? 例えば……ほら、乳神っていうぐらいだから、チイちゃんの着てる服を牛柄に変えるとかさ」
「あっ、それぐらいなら余裕だけど」
そしてクルンと一回転した目の前の少女は、一瞬で牛柄の衣装にモデルチェンジした。
「なにその姿、マジ天使!」
「天使じゃなく、神様ね。……っていうか、これコスプレみたいで恥ずかしいんだけど」
「何言ってんの、この神々しい牛柄こそミルクの神様にふさわしいよ。こっちの方が絶対神様っぽいって」
「……まあ、ミルクがそこまで言うなら」
****
「……こんなのって無いよ。まさかナナセが犯人だったなんて。だってナナセは、私のことを救ってくれた親友なのに。なのに牛乳をまき散らすなんて……なんでこんな酷いことを……」
「でもさ、実際に牛乳をまき散らすところを見たわけじゃないでしょ? もしかしたら、あの子が犯人じゃないって可能性も……」
「チイちゃん、気休めはやめてよ。誰もいない教室に牛乳を持って現れて、私の机に向かってたんだよ? 私だって信じたくないけど、あの状況で犯人じゃないわけないじゃん……」
「ミルク……」
「……やり直したい。もう何もかも忘れてゼロからやり直したい。ねえお願い、私の記憶を消してもう一度過去に戻して。チイちゃんならできるでしょ」
「できるけど……記憶を消したら、また最初と同じ結果になるんじゃない?」
「……そうだよね、また最初と同じ、アマナが辛い思いをする結末になっちゃうよね。……そうだ、だったら私は入学式の一週間後に初めて高校に登校することにしてよ。それなら、入学初日にアマナと仲良くなることもないし、きっと同じ道のりをたどることはないはずだから」
「そんなふうに過去の事実を変えちゃったら、これまでの世界は消滅して、もう二度と戻ることはできなくなるよ。それでもいいの?」
「もとより、もう過去に戻るつもりはないよ。タイムトリップは、これで最後にするから」
「……わかった。ミルクがそこまで言うなら、これまでのタイムトリップの記憶は消して、入学式の一週間後に戻してあげる」
「そうだ、最後にもう一つお願い。もし今後また私が時空ミルクを飲んだとしても、もう二度とタイムトリップはさせないでほしいんだ。たとえこの先の私がどんなに辛い状況に置かれていたとしてもね」
「……ほんとにいいの?」
「うん、これでいいんだよ。……じゃあ、これでお別れだね」
「……ごめんね、力になってあげられなくて」
「ううん、十分だよ。……今までありがとね、チイちゃん」
――――ミルキートリップ!
そして私は、あのひとりぼっちの高校生活を送ることになった。
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