11-10 不都合な真実

「……また、ダメでした。今度こそいけると思ったんですけどね。……でも、なんでナナセがあんなことを……。だって、ナナセは私のことを救ってくれた親友なのに。まさか嫌がらせをしていた犯人だったなんて……。こんなの受け入れられない……」


「その目で見たものだけが事実なのよ。それ以外は幻想に過ぎないわ」


 未だ現実を受け入れられない私に、乳神様は冷たく投げかける。

 ミルクの神様の話をしてくれた彼女に限って、牛乳をまき散らすなんて、そんなひどいことをするなんて、私にはどうしても信じられないでいた。


「そんなわけない、ナナセはそんな人じゃない。……そうだ、タイムトリップの記憶が残ってたみたいだったし、きっとそのせいであんなふうになっちゃったんだ」


 最後に話したナナセは、タイムトリップ前の記憶が断片的に残っているみたいだったし、それで混乱してあんな行動を取ってしまっていたのかもしれない。


「たしかに、あんたの牛乳に対する強い想いから生まれた乳神という存在に、あの子との思い出が深く関わってるから、影響を受けやすかったのは事実かもね」


「じゃあ、私が何度もタイムトリップを繰り返したことで、ナナセの記憶に影響が出て、それであんなひどいことをするようになっちゃったってことですか? あんなに優しかったナナセが、私のせいで……」


 そうだ、ナナセは何も悪くない。ぜんぶ私のせいだ。

 私が際限なくタイムトリップを繰り返したせいで、ナナセに悪い影響を与えてしまったから、だからあんなことをするようになってしまったんだ。


「思い込みは真実を曇らせるわよ」


「そうだ、きっとそうに違いない……。あのナナセに限って、牛乳をまき散らすなんて、そんなことするはずない……」


 私は自分に言い聞かせるように繰り返した。

 不都合な真実を見つめるぐらいなら、思い込みだって構わない。

 悪いのは全部私、それでいいんだ。


「まあ、そんなのどうでもいいけどね。……それで、あんたはこれからどうしたいの?」


「……やり直したい。こんな世界は受け入れられない。何もかも忘れて、最初からやり直したいです。お願いします、私の……みんなの記憶を消して、もう一度過去に戻してください」


 私はすがるように懇願した。

 こんな辛い記憶はなかったことにして、何も知らなかった頃に戻りたい。

 またひとりぼっちになってしまうかもしれないけど、それでも今よりはずっとマシだ。


「別にいいけど、記憶を消したら、また最初と同じ結果になるんじゃない?」


 言われてみれば、ただ記憶を消して最初に戻るだけだと、私はまったく同じ行動を繰り返してしまって、結果的にこの場所に戻ってきてしまう可能性が高い。


「……それもそうですね。じゃあ、私が入学した日を、入学式の当日に改変してくれませんか? すべては、入学式から一週間後に高校生活をスタートしたことから始まったから……初日から登校できていれば、こんなことにはならないはずなので」


「……同じよ。そんなことをしても、あんたはまた、この結末にたどり着くことになるわ」


「そんなの、やってみないとわからないじゃないですか」


 決めつけてくる乳神様に対して、私は強く反論する。

 たしかに、経路が変わっても似たような結末に行きついてしまうという可能性もあるとは思う。

 でも、そうじゃない可能性だって大いにある。

 未来を予知でもしない限りは、結果はやってみないと誰にもわからないし、少なくともまったく同じ結末を迎えるということはないはずだ。


「わかるのよ、あたしにはそうなる未来がね。……いいわ、だったら見せてあげる。あんたがこれから歩もうとしている記憶を」


 それでも譲らない乳神様は、ゆっくりとこちらに近づいてきて、私に向かって手をかざす。

 直後、まばゆい光に包まれて目を閉じた私の中に、私の知らない遠い過去の記憶が断片的に流れ込んできた。

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