11-7 ミルク先生再び

 その後、なんだかんだでジャスミンはオタクグループ、町屋さんはギャルチームと上手くやっているみたいで、お昼もそれぞれのグループ内で一緒に食べているようだった。やはり、私の見立てに間違いはなかったらしい。


 これで目下の懸念事項は取り除かれた。とはいえ、完璧な理想の未来の実現に向けて、やるべきことはまだまだたくさんある。


 さてと、じゃあ数多ある選択肢の中から次に攻略すべきお相手は……当然決まってる。

 そう、いよいよ私は約束を果たしに、あの人物のもとへと向かう。

 いろいろあって、ずいぶん待たせちゃったけど、今行くからね、ナナセ。


 そして放課後になり、教室から出ようとしている彼女に話しかけようとした、そのときだった。


「ねーミルク、ちょっと来てくんない?」


 私を引き止めたのは、バレー部員のミドリだった。今回はあまり積極的に絡んでなかったけど、相変わらずのフランクさには、もう驚かない。


 まったく、これからナナセと大事な話をしたかったんだから、邪魔しないでよね。

 とはいえ、委員長としてクラスメイトのことを無視するわけにはいかない。

 私がミドリについて行くと、そこにはお馴染みのバレー部女子の、ムギとウメコがいた。


「ほら、ミルク先生を連れてきたよ」


「ごめんね、ミドリが無理やり。ちょっと、勉強教えてほしくて」


「別にいいけど、私のこと暇だと思ってる?」


 冗談交じりで言ってみたけど、今の私は割と普通に忙しいんだよ?


「ごめんね、やっぱり委員長の仕事とかで忙しいよね……」


 ムギにそんな申し訳なさそうな顔されたら、断るわけにはいかないよ。彼女にはこれまで何度も助けられてるし、彼女の天然さにもいろんな意味で救われてる。ここで見捨てることなんてできない。


「大丈夫、このミルク先生に任せなさい。絶対ムギを補習にはさせないからね」


「ありがと~、助かるよ~」


「えっ、ムギだけなの? あたしもいるよ、ミルク大先生ー!」


 しょうがないなあ。ミドリにもそれなりに世話になったし、ついでに助けてあげるか。前に怪我させちゃったこともあるし、その罪滅ぼしってことで。

 こうして私は次のテストまでの間、バレー女子たちと一緒に勉強することにした。




 そんなこんなでテストも無事に終わり、ミドリもムギもなんとか補習は免れた。まあ私が勉強を教えてるんだから、当然の結果だけどね。


 そして今度こそ、私はナナセに秘密を打ち明けることを決意する。

 ようやくまた、ナナセとの楽しい日々が始まるんだ。

 だが、そう思っていた矢先のこと。


 ――私の教科書がなくなった。


 もしやと思って下駄箱を確認すると、そこになくなったはずの教科書が入っていた。もちろんボロボロの状態で。

 これは……最初のタイムトリップで、ミズキと初めて仲良くなったときと同じ状況だ。おそらく、いじめのターゲットがミズキから私に移ったということだろう。


 これはある意味、都合がいいかもしれない。

 この状況を利用して、犯人を見つけ出してやる。そうすれば、もう二度と見えない敵に怯えなくて済む。

 みんなが安心して高校生活を送るため、犯人を特定することが私の使命だ。


 ……それまでは、ナナセと仲良くなるのはお預けかな。

 私と関わって彼女にこの問題が飛び火することになろうものなら、私は自分が許せなくなるだろうからね。




 しばらくの間、私のシャーペンや消しゴム、体操服なんかがなくなる被害が続いた。


「白野さん、最近調子はどう?」


 そんな私の状況を知ってか知らずか、教室で酒井さんが声をかけてくる。


「まあそれなりかなー」


「委員長の仕事、大変じゃない? 何か困ったことがあれば、力になるわよ」


 委員長でもないのに、クラスメイトのことをそこまで気にかけられるなんて、尊敬しちゃうね。


「ありがとう。実は最近、物がなくなることが多くてさ。犯人がわかんなくて、ちょっと困ってるんだよねー」


 私は努めて明るい口調で打ち明けた。実際そこまで深刻に捉えてもいないしね。


「そうなの? 言ってくれれば、私が何でも貸してあげるわよ」


「ああ、それは大丈夫。シャーペンはミズキに借りたし、体操服はミドリが貸してくれたんだ。消しゴムも小浦さんがアニメのやつなら三つ持ってるからって布教用のをくれたし、こないだなんて、なぜか靴紐がなくなってたんだけど、有来さんに聞いたら切れたとき用の予備があるからって貸してくれてさ。案外どうにかなるもんなんだよねー」


 今回改めて実感した。やっぱり持つべきものは友達だよね。みんなの力を合わせれば、解決できない問題なんてない気がしてくるよ。


「……そうなのね」


「正直、この程度なら酒井さんの手を煩わせるほどじゃないよ。やってることがぬるいっていうか、私にはノーダメだね。それに、私には牛乳がある。これさえあれば、私には何もいらないからさ」


 私はあえて余裕綽々な態度で、手にしていた牛乳を酒井さんの目の前に掲げて見せた。


「たくましいわね。でも、ほんとに辛いことがあったら、いつでも言ってね」


「そうするよ、ありがとう」


 とは言ったものの、私は酒井さんに頼るつもりはない。

 もともとは、忙しそうな彼女の手を煩わせるのは申し訳ないという気持ちからだったけど、今はそれとはまた別の理由からだ。

 もしかしたら、もう少し泳がせれば犯人を特定できるかもしれない。

 確証はないけど、私には犯人の目星がついていないわけでもなかった。

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