11-4 こぼれたミルク
それからも、何度かミズキの私物がなくなることが続き、彼女はその度、私に相談してくれた。
犯人はわからないけど、とにかくこの嫌がらせを止めないと。前はたしか、私と一緒にお昼を食べてる間はミズキへの嫌がらせは起こってなかったよね。今回も、もしかしたらそれで嫌がらせはなくなるかもしれない。
――そして昼休み、私は計画を実行する。
「ジャスミン、ちょっといい?」
私が声をかけたのは、お馴染み金髪美少女のジャスミンだ。
消しゴムを貸して以降、彼女とは適度な距離感を保ちつつも良好な関係を築いてきた。本は近すぎても遠すぎても読めなくなる。絶妙なディスタンスを保つことが大事だからね。
「ミルク、どうしマシタ?」
「実はちょっと、頼みがあってさ。その……町屋さんと一緒に、お昼を食べてくれないかな?」
ここで町屋さんをひとりにしてしまうと、また便所飯まっしぐらだ。
かといって、ミズキと町屋さんが一緒にお昼を食べるようになると、今度は町屋さんに嫌がらせの矛先が向いてしまうかもしれない。
そこで私は、ジャスミンと町屋さんを引き合せることにしたのだ。我ながら完璧な作戦だね。
「オフコース、いいデスよ。じゃあミルクも一緒に――」
「ああごめん。私はミズキと食べるから、ダメなんだ」
「……そうデスか、それなら仕方ないデスね」
そしてジャスミンは、教室を出ていこうとしている町屋さんを追いかけて、扉の方へと向かう。
「……ワタシ、ミルクはみんなとは違うと思ってマシタ」
去り際、ジャスミンは悲しそうな声でそう言い残した。
……あれ? なんか思ってた反応と違うかも。
考えてみれば、いくら委員長だからって、さっきの私の振る舞いはなんか偉そうだったよね。
完全に私の都合でコマのように動かして、こんなの友達にする扱いじゃなかった。
……そうか、こういうのが良くないのかもしれない。
以前ジャスミンは、クラスのみんなとの間に壁を感じると言っていた。誰とでもそれなりに仲良くしているジャスミンに限って、そんなことはないと思っていたけど、考えてみれば、彼女はクラスの中に特別仲がいい人がいるわけではない気がする。
だから、みんなに悪気はなくても、時にはほかの友達を優先してジャスミンをないがしろにする場面があったのかもしれない。
さっき私がしてしまったような、そういう些細なことの積み重ねが、彼女の中に猜疑心を募らせてしまっていたのかも。
ジャスミンには、悪いことしちゃったなあ……。
――こぼれたミルクを嘆いても仕方ない。
私は立ち止まるわけにはいかないんだから。
ジャスミンと町屋さんへのフォローは後でするとして、とりあえず今はミズキとお昼を食べるのが最優先だ。
気持ちを切り替えよう。
私は二人が出ていった扉に背を向けて、ミズキのもとへ向かった。
「ミズキ、その後どんな感じ?」
「特に何も起こってないかなー。ミルクが一緒にいてくれるおかげかもね」
ミズキとお昼を食べるようになり、一緒に過ごす時間が増えた頃から、彼女に対する嫌がらせはなくなっていった。
それが本当に私と過ごしているおかげなのかはわからないけど、とりあえずミズキが不登校になる未来は回避できたと思う。
これで、今回の最大のミッションはクリア。
理想の完璧な未来に着々と近づきつつある現状に、私は満足していた。
……でも、本当にこれでいいんだろうか。
ミズキを救った代償として、ジャスミンの信頼は失ってしまった。
それに、町屋さんにも半端に関わってそれっきり。
これは本当に理想の未来といえるのだろうか。
都合の悪い現実から目をそらして、完璧な部分だけを見つめて満足してはいないか。
――こぼれたミルクは、また注ぎ直せばいい。
そうだ、私にはまだやるべきことがある。
今の私だからこそ、できることがある。
私は今一度これまでの高校生活を思い返し、自らに与えられた使命を見出した。
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