8-5 教えてミルク先生

 一緒にカラフルーティーに行った日を境に、私は連日のように町屋さんを街へ連れ出すようになった。

 ギャル時代に遊び回っていたおかげで、オシャレなカフェやセンスのいい雑貨屋さんの場所など、この街のあらゆることは手に取るようにわかっている。私は勉強のときと同様、すっかり先輩面をして、昔取った杵柄をブンブン振り回しながら、町屋さんにあれやこれやと教示した。


 私に付き従ってくれる彼女は言葉少なで、表情からも心のうちは読み取れなかったけど、たぶんそれなりに楽しんでくれていたように思う。

 そんな毎日が続く中、すっかり気が緩んでいる私たちを、一気に現実に引き戻すイベントが迫っていた。


 ――そう学生の宿敵、テストだ。

 各部活動も休止となり、全校生徒が勉強に励むよう促されるテスト週間。さすがの私たちも、街で遊び回っているわけにはいかない。

 今日からは真面目に勉強に取り組むとするか。……となると、やっぱり図書室かな。


「ねーミルク、ちょっと来てくんない?」


 放課後の教室で、重たい腰を上げようとしていた私に、突然声をかけてきたのは、バレー部員のミドリだった。彼女とは、今回ほとんど話していなかったのに、仲が良かった頃と同じくらいのフランクな接し方で驚く。

 私が彼女について行くと、そこにはお馴染みのバレー部女子の、ムギとウメコがいた。


「ほら、ミルク先生を連れてきたよ」


「ごめんね、ミドリが無理やり。ちょっと、私だけだと手に負えないから、勉強教えてほしくて」


 ウメコは、自由奔放なミドリとムギに、孤軍奮闘で勉強を教えるのに苦労しているようだ。


「別にいいけど、なんで私? たぶん酒井さんとかの方が、教えるの上手いよ?」


 委員長の酒井さんは頭もいいし、こういう世話焼きも進んでやりそうだ。


「いやいや、クラストップのミルクこそ適任だよ。それに酒井さんは、いろいろ忙しそうだからさ」


「えー、なんかそれだと、私が暇みたいじゃーん。……でも、その通りだからしょうがない!」


 ミドリの言葉に対して、私は冗談めかしてそう言ったけど、本心では酒井さんよりも私を頼ってくれたことが純粋に嬉しかった。


「うんうん。ミルク先生がいれば、ムギも補習にならずに済みそうだね」


「えぇー、わたしだけなの? ミドリだって、前回ギリギリだったよね~?」


 以前私がバレー部員だったときに、一緒に勉強したことがあるからなんとなくわかる。たしか、この三人はバレーボール一筋で、勉強の方はそこまでって感じだったな。

 何に対しても努力家のウメコはともかく、ミドリとムギはけっこう成績やばかった気がする。補習になったら部活に出られないからって、テスト週間にひいひい言いながらみんなで勉強してたのが、昨日のことのように思い出されるなあ。


「私が来たからには、誰も補習にはさせないよ。大船に乗った気持ちでいたまえ」


 私は気分よくポンと自身の胸を叩いた。


「お願いします、ミルク大先生!」


 そんなこんなで、私は久しぶりにバレー三人娘の輪の中に加わった。




「神様仏様ミルク様ー!」


「ほんと、ミルクちゃんのおかげだよ~」


 テスト週間に私とみっちり勉強した甲斐もあって、ミドリもムギもなんとか補習は回避できたようだ。


「そういえば、ミルクはどうだったの?」


 ウメコに尋ねられ、私は自慢げに胸を張る。


「舐めてもらっちゃあ困るよ。私が一位以外の成績を取ると思う? 神をも見下ろす存在の、このミルク様が!」


 私は勝ち誇ったように、大袈裟に高笑いした。


「ウメコ……ムギだけに留まらず、とうとうミルクからも見下ろされてるよ」


「だから、わたしは見下ろしてないってばー!」


 このやり取り、なんか懐かしいな。私はバレー部員だった当時のように、すっかりこのグループに馴染んでいた。


 一緒にテスト勉強をしたことがきっかけで、私は昼休みにもバレー部三人娘に混ざって教室でお昼を食べるようになった。

 以前は、部活のレギュラー争いでいろいろあって、私はこのグループにいられなくなったけど、今回は大丈夫かもしれない。

 このグループは居心地もいいし、またここでやり直せるならそうしたい。

 ――きっと今の私なら、上手くやれるはず!


 ……そういえば最近、町屋さんはお昼どうしてるんだろう? こないだのテストでは、順位を落としてたみたいだから、ちょっと心配だなあ。

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