8-3 クラス一位
「はーい、じゃあ今回のテストの順位を伝えるわね」
無事にテストが終わり、全ての科目の答案が返却されてからしばらく経ったある日、担任の五十嵐先生が声高々に告げた。
高校に入学して初めて受けたテストの結果発表、それはすなわち、私たちが自分の立ち位置を知る日でもある。教室の中は、独特の緊張感に包まれているように感じた。
うちの学校では、全生徒の順位が貼り出されるようなことはなく、担任の先生から一人一人に自分のクラス順位と学年順位が伝えられる形式になっている。
だから、自分で明かさなければ、基本的には順位を他人に知られることはない……はずなんだけど、なぜだかいつもクラスみんなのおおよその順位が、その日のうちに明らかになっていた。
誰にもしゃべってないはずなのに、いつの間にかみんなの情報が集約されて、消去法的にバレたりするんだよね。
なぜみんな、そこまで躍起になって他人の順位を知りたがるのか。
……まあそんなことは、どうでもいいんだけどね。私は先生から自分の順位を聞いて、小さくうなずく。
――クラス一位、学年でもトップ。
ちょっとやりすぎかなあとも思うけど、今回は町屋さんよりもいい点を取る必要があったから、手加減する余裕はなかった。
私だって、こんなやり方で一位の座を手に入れることに抵抗がないわけではないけど、それでも私は、一度でいいから頂に立つ気分を味わってみたかった。
それに、町屋さんを見下ろしたときの反応を見てみたい気もした。
ってなわけで、今回はちょっくら本気出してテストに挑んでみたってわけだ。
まあこれがきっかけで、今後の高校生活が変な方向に進んだとしても、最悪またやり直せばいいんだから大丈夫っしょ。
どうせミルキートリップは無制限に使えるんだし。
「町屋さん、どうだった?」
私は、とぼけた振りをして町屋さんのもとへと歩み寄る。
「思ったより良かった……かな。白野さんほどじゃないけど」
私たちは、テストの点数をほとんど見せあっていたから、町屋さんは自分より私の方が順位が上だろうってことをなんとなく察しているようだ。
「まあ、クラス二位でも十分すごいよ」
「えっ、なんでわかったの?」
そりゃあ、私がいなければ一位なんだから、当然そうに決まってるでしょ。
「クラス一位は、私か町屋さん以外ありえないんだから、私が一位なら当然町屋さんが二位でしょ」
「それは、買い被りすぎだよ……」
ほんとに謙虚だなあ。でも過剰な謙虚さは、逆に相手を見下してるみたいになることもあるから、注意だよ。
「そんなことないって。これからも、二人でワンツーフィニッシュ決めてこ! 私たちならやれるよ、絶対!」
私は町屋さんの手を取って、まじまじと彼女の瞳を見つめる。
「うん……そうだね」
町屋さんはちょっと照れくさそうに、頬を赤らめながら目線を逸らした。もう、そんな初心な反応されたら、ちょっとキュンとしちゃうじゃん。なんか優位な立場を利用して、イケないことしてる気分になってくるよ。
「やっぱり、あなたたち二人がクラストップツーだったのね。すごいじゃない」
私と町屋さんの間に突然割り込んできたのは、委員長の酒井さんだった。私がいなければ、本来酒井さんが町屋さんに次ぐ二位だったわけだし、やっぱり上位勢が誰なのかは気になってるんだろう。
「まあ私たち二人にかかれば、こんなもんだよ。でも酒井さんだって、クラス三位なんでしょ?」
「よくわかったわね。まあ今回は負けたけど、次は私も負けないように努力するわ」
誇らしげな私に対して、酒井さんはそこまで悔しそうでもなく、特段怒っているわけでもなさそうだった。前回のように、授業をサボったうえで良い点を取ったわけじゃないから、目の敵にされる理由もないってことか。
「私たち二人の牙城を崩そうなんて、百年早いよ。なんたって私たちは、固い絆で結ばれてるからね」
私は町屋さんの肩を力強く引き寄せる。町屋さんは自信なさげに下を向いていたけど、これまではずっとクラス一位だったんだし、どうせ大丈夫だろう。当然ながら、私は余裕だしね。
「あまり油断しないことね。慢心は身を滅ぼすわよ」
そう言い残して、酒井さんは私たちのもとから去っていった。
忠告はありがたいけど、これは油断でも慢心でもなく、確固たる事実に基づく自信だから心配ご無用だ。なんたって、私はこれまで何度も未来を見てるんだから。
私は酒井さんの背中を、勝者の余裕で眺めていた。
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