6-2 カレー作り

「それで、私たちは何をすれば?」


 とりあえず私は、この場を引っ張ってくれそうな堀さんに投げかけてみる。


「まずは野菜を洗って、切るところからだね~」


 そう言って堀さんは、テーブルの上に置かれた野菜を指し示す。そこには、ニンジン、ジャガイモ、タマネギが数個ずつ、雑然と置かれていた。

 三人で分担するなら、どれかを選ぶことになるか。この中で一番難易度が低そうなのは……どれだろ? 料理しなさすぎて、まったくわかんないや。


「じゃあ、わたしがニンジンやるから、白野さんはジャガイモ、魚田さんはタマネギをお願い」


 迷っているうちに、堀さんに勝手に分担を決められてしまった。

 まあいいや、どれでもそんなに変わんないっしょ。

 どうせ洗って切るだけなんだし。


 そして私たちは、それぞれ担当の野菜を手に取った。

 まず私は、土の付いたジャガイモを流水で洗う。さすがにここで洗剤を使うほど、私はバカじゃない。

 そして……ここからどうすればいいんだ? 一応、堀さんに聞いてみるか。


「あの、堀さん。ジャガイモって、どうやって切ったらいいかな?」


「うーん、なんかごろっとした感じならオッケーだよ。ちょっと大きめでも、煮込んじゃうから大丈夫だと思う」


「ああ……うん。ありがとう」


 けっこう雑な答えが返ってきたな。

 もうちょっと具体的なアドバイスが欲しかったんだけど、理論より感覚派なのかな。

 とはいえ、「なんちゃら切り」とか言われても逆にわかんないし、それはそれで困るか。

 ……まあ深く考えず、適当でいいってことだよね。


 とりあえず、私は皮のついたジャガイモを真っ二つに切ってみる。そして、半分にしたジャガイモの切り口を下にして置いてみた。

 よし、これで平らな面ができたから安定するな。次は皮を切り落とすか。

 私は、ジャガイモの側面に包丁を入れていく。皮と一緒に、けっこう本体も多めに持っていかれたけど、まだ食べるところは残ってるし大丈夫……なのか? 

 ……まあいいや、残りのジャガイモも切らないと。

 そして私は、黙々と作業を続けた。ほか二人もそれぞれの持ち場で順調に野菜を切っていることだろう。




「……それで、これはなんの冗談かな~?」


 穏やかな声色だけど、堀さんの目は笑っていない。私たちの目の前には、適度な大きさに綺麗に切りそろえられたニンジン。そして、極端に小さくなったジャガイモとタマネギがあった。


「いやー、ジャガイモの皮を切り落としたら、食べるとこがほとんどなくなってさあ。それで、そこからさらに切っていったら、こんなに小さくなっちゃった……みたいな?」


「その……私……タマネギの皮……どごまで剥げばいいのがわがらなぐて……気づいだらごんなごどに……ごめんなざい……」


 ミズキは、泣きながら堀さんに謝っていた。一応言っておくと、ブチ切れた堀さんに脅されてビビっているからではなく、タマネギの催涙効果のせいだ。


「まさか二人の料理スキルが、ここまで絶望的だったとはね~」


 返す言葉もない。私もさすがに、ここまで下手な自分にドン引きしてるし。


「まあ人にはそれぞれ、向き不向きがあるからしょうがないんだけどね~」


 堀さんは、終始変わらず穏やかな口調で、私たちにしゃべり続ける。


「……それで? このままじゃカレー作るのに食材足りないよね~? 二人はどうしたらいいと思う?」


「……追加の食材を取ってくる?」


「だよね~。……で、誰が行く?」


「行きます! 行かせていただきます!」


「わ、私も!」


 私とミズキは、逃げるように材料の置いてある場所へと向かった。

 ……堀さんをこれ以上怒らせるのはやばい。

 普段穏やかな人ほど怖いって言うし、私たちマジで泣かされることになるかも……。

 今さらになって、私はご飯係に挙手しなかったことを後悔していた。

 ……たぶんミズキも同じ気持ちだと思う。

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