5-6 小さな疎外感
「あっれー、クラムじゃん。珍しい!」
放課後、バレー部の練習に来た茶田さんに向かって、ミドリはフランクに声をかけた。茶田さんのことを「クラム」と下の名前で呼ぶのは、私たち四人の中でもミドリくらいだ。
「珍しいとは失礼な! 最近はけっこう顔出してるんですけど?」
けっこう顔を出しているとはいっても、茶田さんを部活で見かけるのは、せいぜい週に二日ぐらいのものだ。ましてや、練習に最後まで参加せずに途中で帰宅することもよくあり、当然朝練にも参加していない。
そんな感じなのに、なんなら毎日練習している私よりバレーが上手いっていうね……。
いるよね、こういう要領がいいタイプの人って。ほんと、才能がある人は羨ましいよ。
「そういえば、次の大会もうすぐじゃん? あたしも、今度こそレギュラー入りいけると思うんだよねー」
茶田さんは、なぜか自信満々だ。でも、実力的には絶対にありえないってこともないんだよね。少なくとも、私よりは可能性がありそうなのが悔しい限りだ。
「そういう減らず口は、ムギを倒してから言うんだね」
そう言いながら、ミドリはムギを目の前に引っ張ってくる。
「えぇ、わたし戦いたくないよお……」
「ぐぬぬ、こんな可愛い子を盾にするとは卑怯な」
緊張感のない三人のやり取りを、ウメコは黙って横目で見守っていた。私には、彼女が静かに闘志を燃やしているように見えた。
大会メンバー入りへの壁は想像よりも高いようで、それ以降もしばらく、私とウメコは控えメンバーにすら選出されなかった。ちなみに、それは茶田さんも同様だ。
当然ながら、メンバーに選ばれるのは三年生が中心で、残りの席を二年生と有望な一年生が奪い合うんだから、私たちなんかに手に入れられるはずがない。
私たちの学校は、未だ全国大会出場を果たせぬまま、夏の大会が終わり三年生は引退した。
――そう、ついに私たちの世代が主役になる時が来たのだ。
これで私もレギュラー入りできるかも……と思いたかったが、嬉しいのか悲しいのか、今年の一年生は実力者揃いで、二年生を追い抜く勢いでどんどん頭角を現してきた。
この分だと、私やウメコの大会メンバー入りは厳しそうだなあ……と思っていた矢先、なんとウメコが大会メンバーに選ばれた。
同じリベロというポジションで、実力者の三年生が引退したこともあるが、やはりウメコ自身の努力が実を結んだ結果といっていいだろう。
「ついにやったね、ウメコ」
「ウメコちゃん、おめでとう」
レギュラー組のミドリやムギは、ウメコのメンバー入りを心から喜んでいるようだった。メンバーに選ばれなかった部員の中には、悔しさを滲ませる者もいたが、ウメコが部員の誰よりも練習熱心なことはみんな知っていたから、選ばれたことに納得はしていた。
私もそれは同じだ。ウメコが選ばれても文句はない。……だけど、心から祝福できない自分もいた。
実力的に私が選ばれないことは理解している。それなのに、なんでこんな気持ちになるんだろう。なんで期待してしまうのだろうか。
私だって練習してきたのに……そんな思いが、どうしても消えなかった。
ウメコが大会メンバーに選ばれたあたりから、私は次第に朝練に行かなくなっていった。私なりに頑張ってきたつもりだったけど、結局ウメコの頑張りの方が上だった。
ムギの身長やミドリの情熱に勝てないのと同じで、結局努力できる才能には敵わないんだ。それなら、ほどほどに努力して、もしダメでも自分が惨めにならない落としどころを探すべきだろう。
そんな感じだから、部活の時間以外に四人で過ごすときにも、私はなんとなく後ろめたい気持ちになっていた。ミドリもムギも、ウメコだって私への接し方は今までと変わらなかったけど、それでも自分で勝手に居心地の悪さを感じてしまっていた。
部活に真剣に取り組む三人と無難にこなしている私。
大会メンバーの三人とメンバー外の私。
……小さな疎外感はどんどん積み上がっていき、やがて私たちを隔てる大きな壁となっていった。
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