Trip5. お茶
5-1 女子バレー部
「――じゃあ、簡単に自己紹介してもらえる?」
――牛乳は恐ろしい。
強大な力は扱い方を間違えると、時に身を滅ぼす結果になる。そうだ、私が破滅したのは、牛乳のせいではない。単に私が、牛乳と釣り合うだけのレベルに達していなかっただけだ。牛乳のことをよく理解していると思っていた私が、実は一番牛乳のことを甘く見ていたのかもしれない。まずは、私自身が牛乳と付き合うに足る人間になろう。もっと努力して、私の中の牛乳レベルを上げていかないと――。
「白野さん、自己紹介お願い」
担任の五十嵐先生の甲高い声に、私の思考は遮られる。とりあえず、今回の方針は決まった。
――まずは、撒き餌をすることから始めよう。
「白野ミルクです。よろしくお願いします。……それと、部活はバレー部に入ろうと思っています」
――健全なる精神は健全なる肉体に宿る。
部活動に勤しむことで、私は肉体を鍛えるとともに、牛乳と対等に付き合うに足る精神を醸成する。それこそが、今回のタイムトリップの目的だ。私はいつにも増して、意欲に満ちていた。
昼休み。そろそろ、撒き餌にターゲットが引っかかる頃合いだ。
「ねえ、白野さんってバレー部に入るんだよね? あたしたちもバレー部に入ったんだー。よかったら、一緒にお昼食べない?」
はい、かかりましたー。ちょろすぎるな。上手くいきすぎて、恐いぐらいだよ。
「うん、一緒に食べよう」
こうして私は、このクラスのバレー部員三人と一緒にお昼を食べることになった。
「こっちの背が高いのがムギで、こっちのちっこいのがウメコ、で――」
「このうるさいのがミドリね。よろしくー」
「うるさいって何よー」
既に名前も顔も知っているクラスメイトから自己紹介されるのは、これで何度目だっけ?
この三人とは、これまでほとんど話したことはないけど、クラスで一番背の高いムギと一番背の低いウメコという取り合わせは、否が応でも目についていた。ちなみに、ウメコ評でうるさい人ことミドリの背丈は、平均並みの私よりやや高いくらいだ。
「ミドリさん、ムギさん、ウメコさんね。よろしく」
「ミドリでいいよー。あたしもミルクって呼ぶね」
「うん、わかった。よろしくね、ミドリ」
こうして私は、ミドリ、ムギ、ウメコで形成された女子バレー三人娘の輪に加わった。
「まだ入学して一週間ぐらいなのに、三人は仲良いんだね」
「あっ、わたしとミドリは中学から一緒なんだ~。ウメコちゃんは、高校に入ってから知りあったんだけどね」
ムギとミドリは同じ中学だったのか。なんとなくそうなんじゃないかと思ってはいたけど、はっきり確認したことはなかったな。
まあ、長い間同じクラスにいたとはいえ、これまでまともに話す機会もなかったから当然だけど。
「そう考えると、この短期間でこんなに溶け込んでるウメコはすごいね」
「いやいや、私がっていうより、ミドリがガツガツ来るから、拒否れなかっただけよ」
「だって、ウメコもバレー部に入るって言ってたから、話しかけないわけにはいかないじゃん?」
どうやらウメコも、私のようにバレー部に入ることを公言した結果、ミドリに捕まったようだ。
……私は自己紹介の撒き餌でミドリを釣り上げたつもりだったけど、実は私の方が捕食されていたのかもしれない。
そういえば、以前ぼっち生活を送っていたのが嘘のように、今回は拍子抜けするほどすんなりグループに混ざることができたな。高校生活を繰り返すうちに、私もクラスでの立ち回り方が多少なりとも身についてきたってことかな?
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