4-6 そして崩壊へ
私がネットショッピングを始めてから、早一ヶ月ほどが経過していた。
相変わらず親には、勝手にネットで買い物をしていることはバレていないようだ。まあこういうことに無頓着な人だから、それも当然かもしれない。ひょっとしたら、バレても何も言われない可能性すらある。
そんな状況だから、私の中の緊張感も次第に薄れていき、欲しい商品を見つけたら躊躇することなく購入ボタンを押すようになっていた。
たぶんこれまでに買った商品の総額は、私の貯金額を優に超えている。どうせもう何を言われても私には払えないんだから、それならいっそ、とことんまで買いまくった方が得だ。
自分がちょっとまずい思考に陥っていることは重々承知しているものの、気持ちとは裏腹に私の手は止まらないんだからどうしようもない。
そんなある日、私は非常に興味深い商品を見つけた。
『伝説の牛乳 レジェンドミルク』
これは、ぜひとも飲んでみたい。だが、値段を確認してみて、私は驚愕した。
……10万円か、さすがに高すぎるな。
いかに私の金銭感覚がおかしくなりかけているとはいえ、さすがにこれは、即購入とはいかない。ここで躊躇できる程度の冷静さが、まだ私の中には残っているようで、自分でもちょっと安心した。
残念だけど、今回はあきらめよう……としたとき、ふと別の商品も目に留まる。
『究極の牛乳 アルティメットミルク』
値段は……脅威の100万円。
まさか伝説よりも上の、究極が存在したとは……。
めちゃくちゃ興味はそそられるけど、これは手を出す金額じゃない。
私が言うのもなんだけど、さすがに牛乳に払える域を超えてるよ。
……そもそも、伝説の牛乳と究極の牛乳って、いったいなんなんだろう?
とりあえず、商品説明を読んでみることにした。
――伝説の牛乳 レジェンドミルク
世界に数頭しか存在しない伝説の乳牛からのみ搾乳される、まさに伝説の牛乳……。
――究極の牛乳 アルティメットミルク
究極の生育技術により育てられた乳牛からのみ搾乳される、まさに究極の牛乳……。
どっちもなんかすごそうだ。説明を読んでいるだけでワクワクしてくる。若干説明がコピペっぽくて雑な気もするけど、きっと気のせいだろう。
一通り説明を読み終わり、私が画面を閉じようとした、そのときだった。
『あなただけの特別タイムセール!』
――なんだこれ?
戸惑いながらも、私はセールの内容を読んでみる。どうやら、伝説の牛乳と究極の牛乳を同時購入すると、なんと購入金額が半額になるタイムセールらしい。しかもそれは、今から30分間限定のようだ。
どうしよう、これは買うべきなのか?
普通に買ったら、10万円プラス100万円で合計110万円。
それが今なら、半額の55万円で購入できる。
55万円だけで普通に考えれば高い気はするけど、逆に55万円引きと考えると、そうとうお得だ。
むしろ安い気さえしてくる。
うーん……買うなら絶対、今しかない。
そして、この牛乳はこの先の人生でいずれは買うことになりそうな気がする。
……そう考えると、実はもう答えは決まっているのでは?
――もう時間がない。あとは購入ボタンを押すだけだ。
買え! 買っちゃえ、白野ミルク!
『お買い上げありがとうございます』
……買ってしまった。でも後悔はない。それだけの価値のある買い物をしたんだ。気に病むことなど微塵もない。私は謎の達成感に包まれながら、再び目の前の画面に目を向ける。
――すると、驚きの光景がそこにはあった。
『購入者限定のスペシャルタイムセール!』
またタイムセール、しかも今回の対象商品は……。
『最強の牛乳 ストロングミルク』
『最後の牛乳 ファイナルミルク』
『牛乳の中の牛乳 ミルクオブミルク』
それぞれ20万円、30万円、40万円だが、三本同時購入でまさかの半額に!
しかも今から10分間限定のタイムセール!
これは…………安い!
アルティメットミルクの100万円に比べたら、どれも半額以下だし、そこからさらにタイムセールで半額になるってことは……もうめちゃくちゃ安い!
むしろ安すぎるくらいだ!
こんなに安くていいんだろうか!
――そう、私の金銭感覚はとっくに崩壊していたんだ。
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