4-3 牛乳グッズ、そして友情
翌日、私はひとり、商店街にある雑貨屋を訪れた。そう、牛乳グッズを買うために。これまでちゃんと意識したことがなくて知らなかったけど、探してみると意外と牛乳に縁のあるグッズは存在するみたいだ。
定番アイテムのキーホルダーやTシャツを始め、牛乳の匂いがする消しゴムに、牛乳パックをモチーフにしたクッションなど、そのラインナップは多岐にわたる。ただ、種類がそこそこあるが故に、どのグッズを買うべきなのか、非常に悩ましいところではあった。
当然、軍資金には限りがある。これぞ、というグッズを慎重に吟味しなければ……。
そうしてしばらくの間、様々な店舗を渡り歩きながら、いろいろな商品を見て回っていると、ふと通りすがりにあるガチャガチャが目に入った。
歩み寄ってよく見てみると、それはミニチュアのビン牛乳をモチーフにした、カプセルトイのようだった。
――これだ!
私は一瞬で心を奪われた。
この造形、色合い……デザインのすべてが完璧だ。これは手に入れるしかない。
……一回100円か。全部で五種類あるから、運が良ければ500円で収まるな。
私は、自分でも気づかないうちに財布から100円玉を取り出し、無意識のうちにガチャガチャの機械に投入していた。
そしてゆっくりと、回転式のレバーを回す。すると、ゴトンという音とともに、カプセルが一つ落ちてきた。
私はそれを手に取り、カプセルから中身を取り出す。出てきたのは、手のひらサイズの小さなビン牛乳。スタンダードな白い牛乳だった。
なんて可愛らしいんだろう。
そして、想像していたよりもずっと精巧な作り。
作った人には、頭が下がります。
ひとしきり、出てきたカプセルトイを眺めた後、私は再びガチャガチャの機械の方に目を向けた。
残り四種類、コンプリートせねば。
そして、私は再び100円を投入する。
……最初は順調だった。五回引いた時点で被りは1。コンプリートは目前だと思って、甘く見ていた。まさか、最後の一種類がこんなにも出ないなんて……。
これまでに出てきたのは、スタンダードな白い牛乳、コーヒー牛乳、いちご牛乳、フルーツ牛乳の四種類。あとはシークレット牛乳だけなのに、なぜこうも出てこないのか。
もう何度、このガチャガチャを回したかわからない。財布の中のお金的に、これがラストチャンスだ。
私は祈るような思いで100円玉を入れた。これまで以上にしっかりとレバーを掴み、少しずつ回転させていく。そして、落ちてきたカプセルを手に取り、慎重にその球体をひねった。カパッという音とともに、私は一度目を閉じる。
――どうかお願いします、ミルクの神様!
そしてゆっくりと目を開け、カプセルの隙間から中身を確認した。
「――で、それが戦利品というわけですか」
翌日私は、小浦氏と彩田氏にコンプリートしたカプセルトイを見せびらかす。
「全種類手に入れるのに、だいぶお金使っちゃったよ。特に、このレインボー牛乳がなかなか出なくてさー。牛乳ガチ勢の私としては、中途半端では終われないから粘りに粘ったね」
私は、最後の最後に引き当てたシークレット枠のレインボー牛乳を、これみよがしに二人に見せつけた。
「わかりみが深い。こういうのって、謎の使命感で無性にコンプリートしたくなる不思議」
小浦氏は、非常に共感している様子で大きくうなずいていた。
「私もクジで景品が当たる系のやつは、しげぴょんのが出るまで何回も引いちゃうなあ。おかげで、ほかのメンバーのグッズがダブりで大量に手に入って、ちょっと持て余しちゃうのも、あるあるだよね」
「そうなんだよ。私もスタンダード牛乳がこんなに取れちゃって、どうしようかと思ってさ……」
私はポーチの口を開いて、昨日ダブりまくった牛乳のカプセルトイを二人に見せた。
同じ種類のやつをいくつか持っててもいいんだけど、さすがにここまで大量にはいらないんだよねえ……。
「そうだ、じゃあその牛乳と私のしげぴょんグッズ、交換するっていうのはどう?」
彩田氏は、自分のカバンにつけているしげぴょんのキーホルダーをこちらに差し出した。
「えっいいの? ほかのメンバーのならともかく、しげぴょんのなのに?」
「安心しなされ、これは割とすぐ手に入るグッズだからさ。まあ友情の印ってことで、どうっすか? もちろん小浦氏も」
「それは妙案ですな。僕のアニメキーホルダーも、ぜひもらってやってくだされ。はいこれ、白野氏、彩田氏」
小浦氏も、このグッズ交換に積極的に参戦してきた。
「小浦氏もいいの? 貴重なアニメグッズを。しかもこれ、小浦氏お気に入りのサムライ少女のやつなのに」
私の心配をよそに、小浦氏は淡々と語りだす。
「大丈夫だ、問題ない。こんなこともあろうかと、僕はお気に入りのグッズに関しては、『観賞用』、『保存用』、『布教用』と、三つ買うことにしているのだよ。つまり、今二人に渡したやつは、それぞれあと二つずつ持ってるんだなあ、これが」
さすがは小浦氏、オタクの鑑だ。こうして私たち三人は、それぞれの持っている推しグッズを交換した。
彩田氏からもらったアイドルのキーホルダーと、小浦氏からもらったアニメのキーホルダー。そのもの自体は、私にとって当然興味はないものだけど、何か二人との絆ができたような気がしてすごく嬉しかった。
――これは何があっても一生大切にしよう。私はそっと心の中で誓った。
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