Trip2. 水
2-1 タイムトリップ
「――じゃあ、簡単に自己紹介してもらえる?」
気がつくと、目の前には見覚えのあるクラスメイトがいて、みんなが私の方を見ている。
どうやらここは、私の通っている女子高の教室のようだ。
「
「……えっと、白野ミルクです。よろしくお願いします」
横に立っている担任の女性教師、
……私はなんで、ここに立ってるんだっけ?
そもそも、これはどういう状況?
新手のいじめか何か?
私って、クラスのみんなに名前を忘れられるぐらい、影薄かったのか……。
すると、続けて五十嵐先生から、耳を疑うような言葉が飛び出した。
「みんなよりちょっと、高校生活のスタートが遅れて不安かもしれないけど、すぐに溶け込めるから大丈夫よ」
私はとっさに、黒板の方に目をやる。するとそこには、私の高校生活がスタートした当時の日付が記されていた。
そして私は、再びクラスメイトの方に目を向ける。たしかに見慣れた顔ぶれだけど、改めて見ると、どこか幼さを感じる気がする。そう、つい最近まで中学生だったかのような……。
それにこの場所も、よく見たら一年生のときの教室じゃないか……。
……ということは。もしこれが夢じゃないのなら、きっとそうだ。
――私は過去にタイムトリップしている。
私が席に着くと、授業が始まる前にクラスの委員長決めが行われ、誰も立候補者がいないならと、責任感の強い
これは、私の高校生活初日の流れとまったく同じだ。
とりあえず流されるままに授業を受けながら、私は自分の置かれた状況を整理しようと試みる。
記憶にあるのは、学校帰りに乳神商店に立ち寄って、その店で買った『時空ミルク』を飲んだところまで……。
もしかして、あのミルクには過去にタイムトリップさせる力があったとか?
……いや、そもそもタイムトリップなんて現実的にありえるの?
実際は、あのミルクに入っていた何かよからぬ成分の作用で、妙にリアルな幻覚を見ているだけとか?
……もしくは、考えたくもないことだけど、私はあのとき既に死んでいて、これは死後の世界なのかも……。
聞き覚えのある授業を受けながら、私は稚拙な思考を精いっぱい巡らせてみる。
でも、どんなに考えてみても、論理的に納得できる答えにはたどり着けそうになかった。
まあ、もし本当に人知を超えた何かしらの不思議な力がはたらいたんだとしても、今の私にそれを確かめる術はないんだ。にわかには信じ難いことだけど、この状況はいったん受け入れるしかない。
それに考えてみれば、本当に過去に戻れたというのなら、これはある意味チャンスだ。
友達ゼロで送るはずだった、この先の高校生活をやり直せるかもしれない。
起きてしまったことはどうしようもないんだから、これはミルクの神様がくれた贈り物なんだと、プラスにとらえて生きていこう。
――こうして、私の密かな脱ぼっち計画は始まった。
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