第4話 二回目の結婚記念日 その2
がっくりと全身の力が抜けた。
せっかく愛する雄也のために、愛情いっぱいの手料理で結婚二周年目を祝いたかった。
それに……。今日は受精確立ものすごく高い日だから。夫婦の営み……えへへへ。多分さ、ものすご、激しいの……。
ああああああぅあ。それもこれも全部台無し。
なんか食欲もなくなった。作った料理にラップをかけて、冷蔵庫に仕舞入れ、テーブルにはプレースマット(ランチョンマットだよ)の上に置かれたナイフとフォーク。それに今日のために買ってきたお高めのシャンパンを注ぎ入れ楽しもうと、新たに購入したスリムシャンパングラスだけが取り残されていた。
ああ、なんかむかつく!!
そりゃさ、仕事だっていうのは分かるよ。お互い仕事してんだし。こんな時だってあるのは分かっている。
それに聞き分けのない子供じゃないし……私はもう大人。
でもさぁ―、結婚記念日だよ。二周年目なんだよねぇ。
その時ふと愛子さんが言っていた「イチャラブもって二年。性欲盛り上がり、もって三年」その言葉が脳裏をかすめた。
いやいやそんなことは無い。そんなことあってあたまるか!!
なんかむしゃくしゃしてきた。二人で飲むために買ってきたシャンパンを手に取り、栓を覆っているアルミをはがし、針金をほどいていく。
ここまでは難なく私でも出来るんだな。でも……これからが問題なのだ!
このコルク栓。きつくてなかなか開けられない。
こういう時に雄也がいてくれれば。ていうかさ、これ開けるの雄也にやってもらおうって思っていたから。まさか自分が開けるなんて思ってもいなかった。
マジ、開かない! 私の力じゃ開かない。
コキュ! あっ! 動いた。ささやかな望みが生まれた。
しかし、そこからはびくともしなかった。コルク少し浮いたかも?
じっと、シャンパンのコルク栓を見つめながら「だめだな」とあきらめた。
その時するっと、手からシャンパンボトルが離れ落ちた。幸いボトルは割れなかった。
これってやばいかも? そのままテーブルに置いて、そっとボトルを眺める。
んっもう。やっぱり飲みたい! もはやシャンパンじゃなくても良くなっていた。
そのまま財布をもって、近くのコンビニにダッシュ!
レモン缶酎ハイ。おつまみに、チーカマとスルメイカ。おやじの飲み会でも始める気か?
帰るなりプシュとプルタブを開けて、一気に一缶を飲み干した。
すきっ腹にきくぅ――――!!
一人むなしく缶酎ハイを飲む、寂しい誕生日。スマホに残された雄也のメッセージを眺めながら、何か今メッセージ送っちゃ迷惑だよね。だって頑張っているんだもん。……多分。独り言のように胸の中で自分に語っていた。
でもなんか寂しい。そして、無性に体が……。これって排卵日だから?
欲しているの?
だけど、自分で慰めたいというところまでは行っていない。
多分ただ寂しいだけなんだろう。
酔いつぶれるようにベッドで一人寂しく寝逝ってしまったようだ。
朝目覚めた時、いつも感じている雄也の温もりは無かった。
そして気が付いた。テーブルに置いてあったシャンパンのコルクが吹っ飛んでいた。
多分飛んだコルクが偶然当たっんだろう。
雄也と私が映っている写真が入ったフォトフレームが割れていた。
「どうしたの今日はやけに落ち込んでいるようだけど?」
愛子さんがそれとなく私に話しかけてきた。
「昨日は結婚記念日だったんでしょ。有給まで取って二人でイチャイチャしたんじゃないの? それとも喧嘩でもした?」
「べ、別に。なんでもないわよ。ただ……」
「ただ?」
言うべきかどうか迷ったけど。
「昨日雄也。仕事で泊まりになちゃったんだ」
「そっかぁ」と表情を変えずに彼女は返した。
ただ、なんか意味ありげに感じたのは、単なる私の思い過ごしかもしれないけど。
今思えば、このあたりから、雄也の様子が変だと気付き始めたのは確かだった。
あの光景を偶然。
私は見てしまった……。そしてすべてが崩れちゃったんだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます