第83話 予選②
それでは次のグループです!
メリアは舞台へと移動した。
目の前には大勢の観客がいる。
観客席の真ん中あたりにアイリーンとアレクがいた。
(あそこにいるのね)
メリアはアイリーンを見た。
メリアを見ているアイリーンはとても嬉しそうだ。
主であるアイリーンの頼みで仕方なく今回の
自分から出たいとは露ほども思わないため、メリアにとって今回のコンテストは単なる罰ゲームのようにしか感じられない。
(早く終わらせたいわね)
サラは騎士団の応援があったから二回戦に進出したのだろう。
そうであれば自分に応援してくれるのは主であるアイリーンとアレクぐらいだ。
メリアは最初から初戦敗退を目論んでいる。
だからこそ気負いもなく淡々と自己紹介として話をするのであった。
「メリアさんですね?どこの所属ですか?」
「魔法科一年です」
メリアは愛想悪くしないといけないとばかりに不機嫌な顔で、司会者パトリックの質問にも必要最低限の範囲で答えることにした。
「どちらからいらっしゃったのですか?」
「辺境伯様の領地から、です」
「どうしてこのコンテストに出場されたのですか?自分の意思ですか?」
「いいえ」
「誰かの推薦ですか?」
「はい」
「誰ですか?」
「私の主人です」
「それは誰ですか?」
「言わなくてはなりませんか?」
メリアは不機嫌な顔でパトリックを睨んだ。
そしてメリアの冷たい視線にパトリックは怯んだ。
「い、いえ、無理に答えなくも大丈夫ですよ」
「そうですか、それならこれで終わりです」
「あ、ありがとうございます、メリアさんでした!」
拍手と共にメリアは終始ツンとして観客に冷たい視線を送りながら颯爽と舞台を去った。
(これで終わりね)
これだけ愛想悪くしておけば予選突破なんてとても無理だろうとメリアは考える。
そして、
「それでは二回選への進出はメリアさんに決定です!」
「はえ?」
いつものメリアらしくない気の抜けた反応。
「やったー!」
「メリア良かったわよ!」
遠くでアイリーンとアレクが喜んでいる。
(な、なんで……)
自分が選ばれたのだろうと不思議がるメリア。
しかし、組み合わせも良かったのか、メリアは5人の中でダントツのプロポーションと気品を醸し出していたのだ。
メリアの衣装も素晴らしく似合っていた。
少し胸もとが開いた衣装のそのふくらみと谷間が彼女の女性としての成長をしっかりと現している。
そして観客である男子たち(アレクも含む)のほとんどがメリアのそのふくよかな胸元に釘付けとなっていたようだ。
またメリアのおとなしく気品のある佇まいはどこか大人びており、とても立派な淑女のように演出されていた。
またメリアの冷たい視線すら男たちには気位の高い高位貴族の令嬢のような女性の気品として伝わっていたようで、会場の男たちはすっかりメリアに魅了されてしまったようだ。(とくに綺麗な女性に虐められたい趣向の男たちは熱心になってメリアに投票していた)
これでアイリーンのプロデュースが当たったという証明がなされたと言っても過言ではない。
「な、なぜ」
他の令嬢も綺麗な娘ばかりだったのに…………。
メリアはサラの隣でガックリと項垂れている。
メリアもサラも自分達のポテンシャルには気がついていないようだ。
だからだろうか、二人の主であるアイリーンは二人の勝利によって益々図に乗るのであった。
♢
「とうとう、始まりましたわね」
「エリザベス様、そろそろ、ご準備を」
「ええ、大丈夫よ。今行くわ」
ウェーブかかった艶のあるエメラルドグリーンの長い髪が光に照らされて、彼女が歩く度に艶やかな髪と肌は人を惹きつける。
エリザベスはわずか14歳ながら、見た目は20歳と言われてもおかしくないほどに大人びた姿をしている。胸の大きさや腰のくびれ、ヒップなどのプロポーションの素晴らしさは側から見て全く14歳には見えない。
彼女の名はエリザベス・デリアート。
土魔法の使い手であり、現在魔法科二年生。
勿論のこと、
出場するや否や、会場には歓声の声が湧きあがり、彼女は見事に進出を果たしたのであった。
「エリザベス様、お疲れ様でございます」
「お水をちょうだい」
「はい、かしこまりました」
エリザベスは控え室に戻ると従者から水の入ったコップを手渡される。
「ありがとう」
ごくり。
ふうっ、
水を飲むエリザベスの唇が艶やかに光る。
水を飲むだけなのになぜか色っぽく見える14歳のエリザベスはほうっと息を吐いた。
「ふう、芋娘ばかりのコンテストだなんて、本当に、たかが知れているわね」
(どうせわたくしが優勝するだけなのに……ああ、面倒……はやく終わらないかしら)
14歳にして早熟なのか、傲慢なエリザベスは自らの勝利を一切疑うことはなかった。
♢
「はあ、いよいよ次か」
ロイの妹、メイは
「なんで私なんかが出なくちゃいけないのよ」
ロイのせいで!
メイは兄のロイに後で八つ当たりしようと決意する。
「だいたい、お父様から言われて断れなかったって、出される私の身にもなってよ!」
メイは勝手にヒートアップしたのか一人でブツブツと文句を言っている。
メイの隣にはオレアリスことアリスが緊張して待っているようだ。
メリアもアリス(オレアリス)も思いは一つ。
「早く終わりますように」
それだけだ。
「それでは次のグループです!」
会場からパトリックの声が聞こえてきた。
「それじゃ先にいってくるわ」
「頑張ってね」
メイはアリスをジーっと見てため息を吐いた。
「あなたに言われたくないわね。あなたを見てると本当に自信が無くなっちゃうもの」
「え、そんな、ご、ごめん」
「単なる八つ当たりよ?気にしないで」
そう言ってメイはスタスタと演台へと向かって行った。
控室ではアリスが一人寂しく待っているのであった。
「あれ?」
アリスがふと先を見るとサラとメリアがいたのに気がついた。
「サラさんも出ていたんだ」
(サラさん綺麗だな。隣のメリアさんも美人だし、サラさんの赤いドレスも似合ってるなあ)
恋する男の娘アリスはサラに見惚れている。
(いいなあ)
片想いも拗らせるとただの憧れ。
サラとお付き合いしたいとか、デートしたいとか、そんなことも考えずにただサラに憧れているだけのオレアリス。
しかし今回のコンテストでサラの人気は着実に高まっている。オレアリスにとって逆境になるのは間違いないだろう。
そんな妄想に耽るオレアリスの隣にいつの間にかメイが戻ってきていた。
「ただいま」
「え!?お、おかえり、は、早かったね」
「ええ、おかげさまで」
「ど、どうだったの?」
「ええ、おかげさまで二回選に進出することになったわ」
「お、おめでとう!そ、それは良かったね」
「おめでたい?そうよね、本当におめでたいわよね」
メイは納得がいかないとばかり、拳を握りしめている。
「ど、どうかしたの?」
「ええ、審査のメンバーというか、実家の父が家の人たち全員連れてきていたのよ。わかる?この恥ずかしさ!身内で票を固めたというこの私の身にもなってよ!さっきの大人っぽい人と比べられたら、……もう、ホント、嫌で嫌で仕方がないわ」
壁をバンバンと叩き、腹を立てるメイ。
確かに可哀想だと思う。
アリスもどう声をかけたらよいかわからなかった。
「た、大変だったね」
「もう早く終わらせて帰りたかったのに!」
もはや涙目のメイ。
それはそれで結構可愛らしいのだが、オレアリスも乾いた笑いしか出なかった。
それでは次のグループです!
「ほら、あなたの番よ」
「えっ!?あっ!本当だ!」
「まあ、あなたなら第一次審査進出は確実でしょうけど、頑張ってきなさい」
「うん、あ、ありがとう」
「まあ、負けたら私の代わりに出てほしいくらいよ」
「まあ、お互い、頑張ろうね」
「はあ……早く行った方がいいわよ」
「うん、行ってくる」
こうして(オレ)アリスは舞台へと走っていった。
♢
「何よ、あの胸の大きさは!本当に同い年なの?」
動揺を隠せないほどにわなわなと震えているのは、魔法少女のような風貌ながら実は騎士コース二年生のリリアーナだ。メリアの豊かな胸部を思い出したあとに、自身のいまだ成長半ばの慎ましい胸を見てその比較に際悩み、そしてあまりにも理不尽だと呟きながら到底受け入れられない現実に対して愕然としていた。
リリアーナの周囲では予選敗退した幾人かの令嬢たちがメリアの
リリアーナは周囲の令嬢とは違い、そこまでメリアを侮蔑する気もなく、メリアのスタイルの良さと自身の体型との比較をしながらも、とうてい覆すことのできない胸囲の差にうんうんと唸りながら現実逃避をしていた。
「ううん、本物かしら、もしかして、詰め物?だったら、どうなの?うーん、でもあの谷間は詰め物では、ないかも、わたくしも……いえ、いきなり胸が大きくなるなんてさすがに無理かもしれないわ」
しかしリリアーナは精神的に強いようだ。
次からは自分もこっそり、少しだけパットの厚みを足そうかと画策するのであった。
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