第82話 予選①
いよいよ始まった
司会者のパトリックは結構ノリが良く騎士よりもそっちの方が向いているのではと彼を知っている者たちはヒソヒソと話している。
「それでは最初の美姫候補者たちを紹介しまぁす!」
ノリノリのパトリックが紹介した女の子は5名。
今回の
当然のことながら水着審査というものはなく、ただ個人の特技や好きな事をお披露目するというのがコンテストの主旨となっている。出場者たちはそうしたPRポイントをどこまで審査員に伝えることができるかが鍵となる。
そして審査方法だが、出場者は各々魔力を込められる水晶玉を渡される。
審査員は会場にいるすべての観客だ。
自分の好きな女の子に魔力を送ると水晶玉に魔力が込められる。
水晶玉は魔力の量によって色が変わる。
青→緑→黄色→オレンジ→赤
といった感じである。
そして一番多くの魔力が込められた水晶玉が赤色に近い女の子が次の審査に進むことができるといった審査方法なのである。
そして最初に出てきた5人。
「ポポでーす」
「ユランです」
「マロンです」
「リリアーナです」
「ジェシカです」
司会者はユランの顔を見て「あれ?」と言った顔をしている。
読者の皆さんは覚えているだろうか。
最初の剣術大会でカインに負けた女の子のことだ。
「あ、あのユランさんは三年生ではありませんでしたか?」
「え?なんのことですか?」
ユランはしらばっくれた。
騎士コース三年生で現在15歳のユラン。実はコンテストの出場枠は年齢12歳〜14歳までなのだ。なのでユランはすでに出場する権利は無いのにもかかわらず見た目が幼く見えるから大丈夫だろうと思って出場したようだ。
しかももともとの童顔がさらに幼く見えるようにかつ、いつもより可愛く見えるように丁寧に化粧を施しており、衣装も実年齢よりも少し若い子たちが着る可愛らしいフリフリのドレスを着用しているあたりに
「あの、このコンテストの参加条件は12歳から14歳なんですけど……」
「いいじゃん!ケチ!」
ユランはムスッとほっぺたを膨らまして可愛らしくむくれており、それがなんともあざとく見える。
「ユランちゃーん!頑張ってー!」
ユラン応援隊も健気に応援していた。
「はい!ということでユランさんは失格となります!」
「せっかくローズマリアもアイリーンもいない絶好の
結局ユランは後ろから運営スタッフによって強制退場させられた。
可哀想なユラン。
もともと幼顔のため12歳の頃に出場した時にはただの子供にしか見えず、あっさりと初戦敗退していたのである。
15歳になって本人もまだイケると思っての犯行であったが、さすがに司会者であり同じ騎士コースのパトリックの目は誤魔化せなかったようだ。
結局、予選はリリアーナが一番魔力をもらったようで二回選進出を決めた。
「それでは次のグループです!」
「ケーナじゃ!」
…………。
会場は静まっている。
「あ、あの、ケーナって、風の魔塔におられる魔塔主様ですか?」
「そうじゃよ?」
「あ、あの、このコンテストは12歳から14歳の淑女が参加条件なのですが、」
「わしは永遠の14歳じゃ!もちろん淑女じゃぞ?」
うふふん♡
ケーナは色っぽい仕草をするものの、どう見てもオマセな子供にしか見えない。
司会もケーナをどう扱えば良いのかと困っているようだ。
「……あのう、そういうのはいいんで」
「なんじゃと!?皆ワシの美貌に敵わんから嫌がらせするんじゃな?」
「いや、単純に14歳じゃないからですけど」
「ふん!ワシの魅力に嫉妬しておるからじゃな?永遠の14歳なのじゃからずっと参加しても良いではないか!」
ケーナは完全に開き直っている。
このイベント、もはやコンテストの定番となっていた。本人はなぜか毎回コンテストに出場し、いつも強制退場させられているのもかかわらず、懲りずに毎度のこと出場しているという。今回も出てきたので会場の観客たちは皆微笑ましく強制退場させられるケーナを見送った。
「おぼえてろー!」
ケーナの捨てゼリフが通路に
「そ、それでは気を取り直して、次のグループです!」
「モナです」
「ミミリンです」
「カテリーナでございます」
「サ、サラと申します」
ケーナを除く4人が舞台に立った。
令嬢たちは皆可愛らしく、各人が自分たちに似合った衣装を身にまとっており、そして姿勢をきっちりとしており、その佇まいはいずれも自分たちの容姿に自信があるように見えた。
その中でただ一人、サラだけは真っ赤なドレスを着てとても大人びた雰囲気となってはいたが、その姿はドレスとは対照的にまるで死人のような青白い顔をしており、よく見れば全身をブルブルガクガクと小刻みに震わせていた。
白鳥はいつも優雅に泳いでいるように見せているが、その水面下では実は水掻きである脚をみっともないぐらいにパタパタと漕いで前に進んでいる。
サラも一見すると優雅には見えるもののそのドレスの、特にスカートの中では生まれたての子鹿のようにガクガクと足を震わせており、ある意味その姿はまるで白鳥のようだった。
審査が始まった。
サラ以外の令嬢たちはPRの時間となり、司会者パトリックとテンポよく会話している。
サラはまだまだ気分が悪そうだ。
しかし気分が悪かろうが観客たちは待ってはくれない。
いよいよサラの番がやってきた。
「さあ、それではサラさん自己紹介をお願いします!」
「は、はい!」
サラはびくっと体を硬直させ、観客を見渡すとさらに緊張しはじめた。
「あ、あの、騎士コース、い、一年のサ、サラと、申します、と、特技は、、剣じゅちゅ、です」
「剣、じゅちゅ?」
パトリックはサラに聞き直す。
「い、いえ、剣術です」
「はい、ありがとうございます!それでは他に何かありますか?」
「え?」
「剣術以外に何か言いたいことは?」
「あ……、な、何も」
「そ、それにしてもその赤のドレスはよくお似合いですね!どこで購入されたのですか?」
パトリックが助け舟を出したのか、サラに質問してきた。
「あ、わ、私の、主である、アイリーン様からい、いただきました」
「え!?アイリーンさんから!?素晴らしいですねぇ!それにしてもアイリーンさんはどうして出場されなかったのですか?」
「は?え!?い、いや、なぜかと、言われても、わ、わたしにもわかりません」
「そうでしたか!いや、それにしてもサラさんの綺麗な顔立ちに合った素敵なドレスですね!次の社交界が楽しみです!サラさん!ありがとうございました!」
騎士コースの先輩であるパトリックのナイスフォローのおかげでサラも緊張しながらも無事にコンテストを終えることができた。
「お、終わった」
サラは朝稽古の時よりも疲れた顔で戻ってきた。
「サラ、大丈夫?」
「メリア、や、やっと終わりました」
「お疲れ様でした、それで結果は?」
「え?」
「誰が二回選に進出したの?」
「は、あ、え?」
「水晶玉は?」
「あ!」
サラは水晶玉を手に持つと水晶玉の色はややオレンジ寄りの黄色になっていた。
「あ」
「魔力が込められていますね。サラ、良かったわね」
一応サラにも応援していた連中がいた。
兄のセドリックや朝稽古で一緒だった上級生たちの中にもサラの事が気になっている男たちが割合多く、その他ジョージやアレク、アイリーン、鉄の騎士団の関係者などがサラに応援の魔力を送っていたのである。
そして赤のドレスを着たサラは確かに大人びた素敵な淑女であったからか、他の令嬢たちが子供っぽく見えたようだ。
それだからか、
「それではサラさんが二回選進出となります!」
会場から大きな声援と拍手が送られていた。
「は、はは……」
サラはまた出なくてはいけないことに呆然とする。
「サラ……良かったわね」
「メリア、か、代わってくださいよ」
「私はまだ予選も出ていないんですよ?」
「くっ!」
二回選突破のサラが何故か悔しがっていた。
サラ、頑張れ!
「それでは次のグループです!」
「私の番ね」
メリアは恥ずかしそうにマフラーを取り、舞台へと進む。
「メリア!頑張って!」
サラは緊張しながらもメリアを応援した。
自分より緊張していたサラのおかげか、メリアも少し冷静になれていたのは良かったのかもしれない。
いつもアイリーンの隣にいるため、メリアもとても美少女なのだが何故か目立たないポジションにいる。
しかし、今回のコンテストで彼女の評価は変わりそうだ。
「はあ」
サラも頑張ってたし、私も頑張らないと。
ふだん消極的なメリアも今回は勇気を出して前に進むのであった。
♢
「うふふ!労せず予選突破ですわ!」
リリアーナは小さな拳を握りしめて喜んでいた。
「これもあのケーナ婆のおかげですわ」
リリアーナはケーナと同じグループで出場していた。彼女はフリフリの可愛らしいドレスに身を包んでいる。桃色の髪に合ったパステルカラーの淡い水色の衣装だ。ライバル五人のところ一人勝手に自滅してくれたのである。また他の三人は確かに可愛らしくはあったが、自分の敵では無いと勝利を確信したという。
そしてリリアーナは見事に予選を通過した。
「カイン様!あと少しでようやく貴方様と踊ることが叶いますわ!」
外見は魔法少女。
中身はスポ根で中身ゴリラ。
そんな彼女は現在騎士コース二年生。
この度は騎士コース憧れの大先輩カインと踊れるチャンス到来とあって意気揚々とこのコンテストに参加したのであった。
周囲からは根性ゴリラの夢見る夢子ちゃんと評されている。
剣を持てば持ち前の怪力でばったばったと敵を薙ぎ倒す。しかしそんな実力を持ちながらも前回の剣術大会では憧れのカインと戦うなんて出来ないと言って出場を拒否していた。一応、伯爵令嬢である彼女は貴族令嬢としてカインの前に立ちたいそうだ。
はたして彼女の快進撃は始まるのだろうか。
そしてそんな彼女の行く末を案じるかのように晴天の空の奥に暗雲が近づいていたのであった。
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