第84話 予選③
変装した(オレ)アリスが舞台に出ると会場では一気に大きな歓声が聞こえる。
「あの娘、だ、誰だ?」
「あんな可愛い子、学園にいたか?」
みんな驚いてアリスを観ていた。
パトリックも驚いてしばらくの間、あんぐりと口を開けていたが、アリスがステージの真ん中に並ぶ令嬢たちの隣に立つとハッとなり慌てて司会を進行した。
「そ、それでは自己紹介をお願いしまあす!」
「ア、アリス、です。よろしく、お願い、します」
「おぉと!ここにも照れ屋さんがいますねえ!学園ではどこのクラスにいるんですか?」
「え、と、土の魔塔でオルマリア様の側使いをやっています」
「おーっと!オルマリア様といえば、2年前にあの女帝ローズマリアに決勝で敗北されたんでしたね!で、君はその方の側使いなんだね?」
「え、は、はい」
「皆さん、聞きましたか?いくらアリスちゃんが可愛いからといって勝手に土の魔塔に入り込んではいけませんよ!」
パトリックが上手にアリスのフォローをしてくれる。それからというもの、舞台はもはやアリスの独壇場になっていた。
他の出場者の女の子たちもこりゃ勝てんわと匙を投げている様子。中には「なんで私の出番の時にこの子がいるのよ……」と小さな声で悔しがる女の子もいた。
「うぉーー!!!アリスちゃーーーん!!」
「惚れた!一目惚れだ!!俺と結婚してくれぇーーー!!!」
「愛だ!これが、俺が求めていた本当の愛だ!!」
などと観客たちはさっそく大音量で声援を送っている。観客たちの熱気に押されそうになるアリスはたじろぎながらも手を振り観客たちに微笑むと、さらに声援の音量は観客たちのテンションと共に上がっていった。
そしてアリスがパトリックの受け答えをしている間にアリスの持っている水晶玉の色はみるみるうちに変わり続けており、審査終盤にはすでに赤に近いオレンジ色になっていた。
「さあ、それでは審査をお願いします!」
といっても審査結果は言うまでもなく、もはやアリスの一人勝ちである。
「アリスさんおめでとう!二回戦も頑張ってください!」
パチパチパチパチ!!
「うぉーー!!」
「可愛かったぞぉーー!!」
「この大会が終わったら婚約してくれーー!!」
会場は大賑わいだ。
アリス人気はもはや人気アイドルのようになっていた。審査が終わり、アリスはよたよたと控室に戻る。
「おかえり、すごい賑わいだったわね」
「うん」
「で、やっぱり予選突破したの?」
「うん」
「よかったわね」
「うん」
「ま、頑張ってね」
「……うん」
メイはアリスの反応を見てハアとため息を吐き、それじゃ、また後でね、と言って会場を出て行った。
オレアリスは未だに信じられないと言わんばかりに呆然としていた。
♢
「はあ、それにしてもすごい美少女だったね」
「え?アレク様、何をおっしゃってますの?」
……アイリーンが怖い。
「ま、まあ、サラもメリアも予選突破、一次審査に進出したしね。こ、これもアイリーンのおかげだね!」
アレクはすぐに軌道修正する。
王になるためにも正しい受け答えをするにはアイリーンは良い練習相手だ。
「まあ、そこそこ可愛らしい女の子でしたわね」
しかし負けず嫌いでもちゃんと素直に評価するアイリーンも可愛らしい。
「いよいよ一次審査かあ」
実はアリスの後にも出場者はいたのだが、アリスの存在が強烈だったためか後の女の子たちの審査は可哀想なことに淡々と事務的に進んでいったようだ。
こうして予選が終わり、いよいよ一次審査がはじまることになった。
次の審査は「特技のお披露目」である。
ダンス以外なら剣舞、魔法、なんでも良い。
(ちなみにダンス審査は二次審査から)
出場者の女の子たちは自分の特技のお披露目をすることになった。
サラは剣舞、メリアは魔法だ。(オレ)アリスとメイも魔法のお披露目を選択する。
練習時間は30分、
今度は一人ずつ、お披露目を終えたら控室に戻される。
「はあ、さっきよりも良いのかな」
サラはもうクタクタになっている。
「まあ、胸元を隠せればもっと良いわね」
「それ似合ってますよ?」
「サラもこの衣装着てみたら?」
「私が着たら胸の辺りがぶかぶかになっちゃうじゃないですか!」
「そうかしら?サラも結構成長しているんじゃないの?」
メリアはサラの胸を指差す。
「え!?そ、そんなこと、ないですよ!」
サラは恥ずかしそうに胸を隠してみた。
その近くではアリスがバッチリと二人の会話を聞いており、
(サ、サラさんも結構胸があるんだ)
などと思春期の男の子らしくドキドキと反応を示していた。
(僕のはパット入りだけど)
(オレ)アリスの衣装はもちろんパット入りのものを着ている。
周囲では出場者の女の子たちがサラたちのやり取りを見て、いいなあ、とみんな自分達の胸を比較して羨ましがっているようだ。
賑やかな控室。
誰もが楽しそうに談話している。
しかし、そんな中で打倒アリスのために裏工作をしかけようと画策する令嬢たちが数人ヒソヒソと更衣室の隅っこで話し合いをしていた。
「どうしますの?」
「どうにかしてあの子を落とさないと」
「物理的に舞台から突き落とせば良いんじゃない?」
「それだと私たちの方が失格になるのでは?」
「誰か犠牲になれば」
「なら貴女がやれば良いじゃない」
「わ、わたくしの実家は子爵家ですのよ?そんな事をしたら家から追放されてしまうわ」
「バレないようにすれば良いのよ。ダンスの時に偶然を装ってぶつかれば良いのだわ」
「そうね、タイミングもあるし、あの子が舞台の外側に移動した時に近くにいる人がぶつかれば良いのよ」
「失格にならないかしら」
「司会者と観客たちから見えないようにわたくしたちが庇いあえば良いのよ。混み合って弾き出された感じになれば誰も怪しむ人はいないわ」
「そうね」
「でもダンスは二次審査ですのよ?」
「そこまでみんなで勝ち上がっていきましょう!」
「え?そ、そうですの?」
「ええ、大丈夫ですわ!!」
えいえいおー!!
令嬢たちは内心に不安を秘めつつも、なんとか打倒アリスのための協力体制を作り上げた。
全員が勝ち上がれるかどうかはわからない。ただなんとなく自信のある令嬢ばかりだったのできっと何人かは勝ち上がるのだろう。
自信のない娘は面倒な事に巻き込まれる前にさっさと敗退しても良いかなと考えているものの、その中で自信のある娘は何が何でも優勝せねばと息巻いていた。
その中で一人、優勝を確信していたはずの少女は思わぬライバルの登場によってひどく困惑していたのである。
「な、なんですの!?あの美少女は!」
そうスポ根魔法少女、怪力ゴリラの夢見る夢子ことリリアーナである。
アリスを見るまでは自分の優勝を確信していたはずのリリアーナ(自己評価のみ)であったが、思わぬライバルの出現に困惑を隠せないでいた。
またサラとメリアの露出度の高いドレスを見て、特にメリアの胸を見たリリアーナは自分の胸と比較したがゆえに再び圧倒的な敗北感を感じてしまうのであった。
「ま、負けるものですか!」
その頃、
アリスの登場によって観客たちは色々な思惑が渦巻いていた。
「アリスちゃん、可愛かったな」
「よし、俺、この大会終わったら出待ちしよ」
「なんだって!?抜けがけはズルいぞ!」
「抜けがけなんか誰が決めた!?アリスちゃんはまだ誰のものでも無いだろ!」
「アリスちゃんは俺のものだ!」
「いや、俺だ!」
「よし、誰が先にアリスちゃんと話が出来るか勝負しようぜ!!」
「よし!のった!!」
「俺もだ!!」
いつのまにかアリスを中心に様々な思惑が渦巻いていたのである。当の本人はそんなことなど考える余裕もなく控室で一人、二回選の課題の練習をしていた。
運が良かったとすれば、アリスの存在があまりにも強烈だったためか、サラとメリアはまだ誰からも敵認定されておらず、令嬢たちの足の引っ張りあいという醜い争いに巻き込まれずに済んだことだ。
もちろんサラとメリアは自分たちの意思で勝ち上がる気はさらさら無く、出来れば一次審査辺りで敗退したいと(心の底から)願っている。しかしながら二人ともあまりにも簡単に次の審査で負けてしまうと主人たるアイリーンにまたもや難癖をつけられてしまう可能性があるのだ。
二人は引き際を見誤らぬよう配慮しなくてはならなかった。
さらに言えば「また次の機会に頑張れば良いわ」などと言われ、勝手に次のイベントを約束させられる可能性もあり、アイリーンの遊び心によって再び振り回されるのも面倒なのだ。
その点ではアリスも同じである。
三人ともコンテストで優勝することなどまったく考えてもいない。予選敗退ならずとも、一次・二次審査あたりで敗退すれば何とか穏便に済ませられるだろう、などと考えているだけなのだ。
しかし、三人の安易な考えが思い通りにいくことなど、そんなこと異世界とはいえスローライフ的な物語でなければありえない話だ。
「メリア、頑張りましょう!頑張ってなんとか無難に終わらせましょう」
「そうね。サラの意見に激しく同意だわ。一緒にアイリーン様の機嫌を損ねることなく、無難に終わらせましょう」
「はい!」
ガッチリと手を組む二人。
そして近くでは一人や僕も仲間に入りたいなとブツブツ呟きながら一次審査の準備をするアリスの姿があった。
こうして一次審査の練習時間は過ぎてしまい、いよいよ開幕となる。
「さあ!一次審査の始まりです!出場者の皆様はステージに移動してください!!」
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