モブ王子ー美姫選抜大会編
第79話 学園一の美姫
季節は秋。
ちょうどサーシャが結婚した頃のこと、
サトゥーラ王国の学園では二年に一度、社交界デビュタントに向けての準備期間として学園内で一番美しい令嬢を選ぶという変わったイベントがある。
その名も
伝統ある学園行事の一つであり、名称通り学園一の美姫を選ぶ大会である。
大会の趣旨としては社交界デビュタントを前に、美姫たる令嬢たちの自己PRの場として開かれるというものだ。
出場枠は貴族令嬢だけでなく、見目のよく才知溢れる娘であれば市井の出であっても構わないそうだ。(運良く貴族の目に留まればパトロンとなってくれるという稀有な機会でもあるから)
ただしドレスの用意だけでもお金がかかるため、通常は商人が貴族との新たなコネクションを築くための機会として、自分の娘や気に入った娘を
また貴族の親たちにとっては自分の娘がせっかくの社交界デビュタントしたものの、すぐに壁の花にならないようにと無理に
なぜ異世界にこんなイベントがあるのかというとこれも元転生者である初代国王アルテマの発案であったからだ。
彼はこういったイベントが大好きな王様だった。
アルテマからすれば地球と比べてこの世界は圧倒的に美人が多い。
彼は好色家でもないものの美人が多い世界に来たことで、そのうち誰が一番美人なのかと気になり始めた。
もちろん妻が一番美人だよと言い訳しつつも、もともとミスコン好きだったアルテマは異世界でもそれをやってみたいという衝動に駆られた。
そうして愛する王妃に誤解されないよう宥めつつ、臣下の者たちにはこの世界は美しさこそ善であると主張し、だからこそ美人コンテストが必要だと強引に力説したのである。
臣下の者たちはアルテマ王の提案に戸惑った。今までやったことのない
色々検討して考えた末、王国全体でそのイベントを開催するとなると大規模ゆえ人数が多すぎて無理だという話になった。
臣下たちも正直やりたくないのが本音だったようだが、それは言ってはいけないのでアルテマ王には規模的に無理ですと説明する。
するとアルテマ王はそれならば設立したばかりの学園のイベントでやろうということになり、半ば強引に話を進めた。
こうして臣下たちは渋々了承し、学園で初めての美人コンテストというものを開催することになった。
もちろん最初の開催の時は大変だったようだ。貴族たちも最初はどうして良いかわからずにとりあえずは王の命令に従わなければということで、とにかく自分の娘たちを着飾らせてコンテストに出場させるだけのイベントとなった。
出場した令嬢たちも参加したものの何をすれば良いかわからず、とりあえず礼儀正しく挨拶するだけで終わるという残念な結果となってしまった。最後は当時の学園で一番偉い侯爵家の令嬢が美姫に選ばれるという出来レースで終了した。
そのためアルテマ王はこのイベントをとても楽しみにして意気揚々と観に行ったものの、結果を見て残念そうに帰ったという。
そんな感じで最初は思ったようなコンテストにはならなかったようだ。
しかしそれ以降も大会そのものは無くならず、アルテマ王の意思は引き継がれたのか、次第にコンテストで優勝した美少女が華々しく社交界デビュタントを果たすことができるという流れが作られるようになっていった。
それからというもの美人コンテストは
ちなみに前回の
この世界の社交界デビュタントは平均で12歳から14歳の貴族令嬢が対象となる。
(この世界での12才は日本人の感覚でいうと14才ぐらいに相当する。欧米のロウティーンが日本人と比べて大人っぽく見えるのと同じような感じ)
かつての社交界の女王ローズマリアは今年で卒業する。彼女は既に第二王子のイスタルの婚約者となってしまったため、社交界では新しい時代がやってきたと皆囁いているのであった。
その新しい時代だが、今年の美姫選抜大会の候補の中ではアイリーンが一番人気であった。他にも美しい令嬢たちは数多くいる。彼女たちはいそいそと肌のお手入れや礼儀作法、ダンスなどに力をいれて大会に向けて準備を整えている。
今年は誰が出場して誰が優勝するのだろうかと学園生たちは予想し、賭け事の対象にもなっていたのである。
こうした噂を聞いて、アレクもアイリーンに
「アイリーンも
「私は出場しませんわ」
「えっ!?な、なんで?」
「あんなイベントには興味ありませんもの。既にアレク様の婚約者でありますし、出場する意味がありませんわ」
「あ、そうなの?」
「ええ、それともアレク様は私に出場してほしかったのですか?」
「そういうわけじゃあ、ないけど」
「アレク様が強く望むのであれば出場するのも
「うーん、そうかあ、まあ、アイリーンにその気がないのであれば仕方ないかなあ」
「ならばメリアに出場させましょうか?」
「え?」
「私が出るまでもないと思っていたのですが、アレク様がお望みであればメリアにでも出場させましょうか」
「本人は大丈夫なの?」
「ええ、私の命令ならば従うしかありませんから」
「うーん、メリアが望まないのなら可哀想じゃない?」
「大丈夫ですわ。メリアも良いですわね?」
「……ハイ、ワカリマシタ」
メリアは無表情で応えた。
「それではメリアが
(全然大丈夫じゃなさそう)
アレクは余計な事を聞いてしまったと後悔した。
「そうだ!メリアだけでは寂しいでしょうからサラも出場しましょうか!」
「ええ!?わ、私ですか?」
「ええ、サラも貴族令嬢なのですから出場した方が良いですわ!あなたも着飾ればそれなりに麗しい令嬢になりますから自信持って大丈夫ですわよ?ウフフ、楽しみですわね!」
「ウウウ、そ、そんなあ」
サラはショックで泣きそうだ。メリアはアイリーンが言い出したらもう止められないということでサラの肩をポンポンと慰めるように叩いていた。
(これは前のデートの仕返しです)
(そ、そんなことで、)
(アイリーン様は意外に根に持つタイプなのです。今回はあきらめましょう)
(……ワカリマシタ)
こうしてメリアとサラは仕方なくコンテストの出場を受け入れるのであった。
「それでは帰ってから衣装を決めましょうか!」
自分が出場しないからか、アイリーンに火がついたようだ。
アイリーンは授業が終わった後にとても活き活きとした顔でメリアとサラを伴って寮に帰るのであった。
栄ある学園行事、美姫選抜大会。
急遽出場することになったメリアとサラは主従関係のため、主たるアイリーンには逆らえない。
そんなわけでアレクたちの通う学園では美人コンテストみたいなイベントが催されることになった。
♢
「わたくし、
小さな拳を握りしめて決意を発表しているのはリリアーナ・カリウスという伯爵令嬢だ。くりりんとした大きな瞳の内に秘めた闘志を宿しており、かつてのスポ根野球漫画の主人公のように背後にはメラメラと闘志の炎が燃え上がっている。どうやらリリアーナという少女は可愛らしい容姿に似合わず、かなり熱血のようだ。
ふんわりとした桃色の髪は腰まで伸びており、少し癖っ毛なのかふんわりしている。毛量が多いのか、左右には黄色のリボンで結んでおり、一見すると魔法少女のような外見をしている。
いや、彼女は魔法科の一年生であり、火属性の魔法使いで異世界リアル魔法少女だった。
「リリアーナ、あなたなら優勝できる」
「ええ、カリナ!わたくし、優勝しますわ!」
リリアーナの友達、カリナはリリアーナと同じクラスメイトでオレンジ色の髪をした吊り目の気の強そうな女の子である。カリナもリリアーナはまだ成長途中であり将来有望な美少女であった。
「でもリリアーナ、今まで社交界には全く興味が無さそうだったのに、なぜ今になってコンテストに出場したくなったの?」
「それわね、カリナ、わたくし、なんとしてもカイン様とダンスを踊りたいのです!!」
「え?あの騎士コースの貴公子って有名な、カイン様と?」
「ええ!わたくしカイン様を諦められないの!だからコンテストに優勝すればあの方も婚約してくださるに違いないわ!」
「そ、そうなの?かしら」
「それしかないわ!他に方法があるの?」
「な、無いかも……」
「でしょう!?それならコンテスト優勝!あとお兄様から聞いたところ第三次審査はダンス審査で、パートナーとしてカイン様が選ばれたそうですの!もう運命としか言えませんわ!」
「……そうね。そうかも、ね」
「そうに決まってますわ!」
リリアーナは再び小さな拳を握りしめて決意を示した。友人のカリナはリリアーナの気迫に当てられたのか、じりじりと後方に下がり距離を取って、小さな声でまあ応援してるわねと言った。
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