第75話 修練場での試合②

ジョージとダレンの試合の結果はジョージが勝利をおさめた。


次はサラとセドリックの番だ。


「はっ!」


サラは持ち前のスピードを活かして突撃すると連打のように剣を振り続ける。


セドリックは冷静に剣を合わせて防御に徹していた。


カァン!

カァン!

カァン!


「はっ!」


サラが気合いを入れて剣を横薙ぎに振るとセドリックはそれを受け止める。


しかし、


「うぉ!」


セドリックがサラの剣を受け止めきれずに押し込まれた。よほど強烈な一振りだったのかセドリックの剣を持つ手がビリビリと痺れている。サラもアレクほどではないが成長しており、力押しの剣を振るようになっていた。


セドリックは冷や汗をかきつつ、妹を見くびっていたと顔を顰めている。それほどにサラの一振りは強烈で意表を突いた攻撃だったようだ。


「よしっ!」


アレクはガッツポーズをする。

オレアリスもサラの強さに感動したのかポロポロと涙を流していた。


「サラさん……」


オレアリスはもはや女神を見るような目でサラを見つめている。


「よく成長したな」


セドリックも嬉しそうに微笑んだ。


「でもな、成長したのはお前だけじゃないぞ?」


今度はセドリックが突進してきた。


「くっ!?」


今までの攻撃スタイルを変えたセドリックの猛攻撃にサラも戸惑いながらなんとか剣を受けている。


カァン!

カァン!

カァン!


「そらそら!もうへばったのか?」


サラも必死にセドリックの攻撃を受けるがだんだん間に合わなくなってきた。


スピードでは負けた事のないサラがセドリックのスピードに追いつけないのだ。


「くっ!」


今度はサラが不利になってきた。

形勢逆転だ。


「サラさん!頑張って!」

「サラ頑張れ!」

「サラ!頑張りなさい!」


サラは皆の応援を聞きながら懸命に剣を受け止める。


はぁ、はぁ、


今度は一気に疲労感に襲われたサラはキツそうに顔を顰めている。


「いいぞ!サラ!」


セドリックも楽しそうだ。


カァン!

カァン!


もはやセドリックの一方的な攻撃を受けるしかできないサラはずっと悔しそうだ。


「サラ!基本を思い出せ!お前の親父の剣はそんなに弱いのか!?」


アレクが大声でアドバイスする。

サラはハッとした顔でアレクを見て微笑んだ。


「アレク王子!ありがとうございます!」


アレクのアドバイスのおかげか、防御一辺倒だったサラの動きにも変化が生じてきた。


「はぁ!」


サラは気合いを入れてセドリックの猛攻撃を力強く跳ね除けていく。


カァン!


スピード勝負に出たセドリックだが、やはり一つ一つの攻撃は大した事がない。当然ながらセドリックよりも力のないサラでも一刀を狙って力づくでも跳ね除けることが出来れば反撃のチャンスが出てくるのだ。


「はああ!」


サラはセドリックの剣を跳ね返し、続いて返す刀での一撃で攻撃する。


サラの木剣はセドリックの脇腹に当たった。


「うっ!」


セドリックはうずくまって脇腹を抑える。


「セドリック!何をやっている!」


カインは焦った。

上級生2連敗などあってはならない。


セドリックもやれやれと深く呼吸をして息を整えた。


「ふぅ……さて、やるか」


セドリックは再び剣を構えるとサラを観察するようにジッと見つめた。

サラも剣を上段に構える。


「せいっ!」

「はあぁ!」


二人は互いに前に出てかち合うように剣を振った。


二人にとっては剣の早い方が勝ちだとばかり相手よりも早く剣を振ろうと今までにない最高の一振りを目指した。


セドリックは下から剣を振り上げる。

サラは上から剣を振り下ろす。


セドリックの剣がサラの持ち手に当たった。


「あっ!」


サラの剣は吹き飛ばされてしまう。

セドリックはサラの首筋に剣を当てようとした。


「まだだ!」


サラはセドリックの剣を両手で挟むように受け止めた。そして体術を使って無刀取りのようにセドリックの剣を組み伏せて奪ってしまう。


「それまでっ!」

「サラすげえ!」

「良くやった!」


サラは茫然と座り込みセドリックの剣を落としてしまう。


「わ、私は、兄上に勝ったのか?」


セドリックは立ち上がり、サラに向かって微笑む。


「サラ、強くなったな」


「あ、兄上……わ、私……」

「最後のは凄かった。さすがに驚いたよ」

「あ、ありがとう、ございます」


サラはポロポロと涙を流して喜んだ。

セドリックもクスリと笑ってサラの頭を撫でている。


まさか自分が妹に負かされる日が来ようとは。


本来ならば悔しいところなのだが、セドリックにはサラの成長がとても嬉しかったようだ。


「それじゃあ、朝の鍛錬に此処を使ってもいいぞ」


セドリックはそう言ってサラの木剣を持ってきた。


「ありがとうございます」


そう言ってサラも木剣を受け取る。


「結局カインの出番なかったわね」


アイリーンはボソっとメリアに語りかける。


「そ、そんな……」


カインは信じられないと膝を地につけてわなわなと悔しがっていた。


まさかの上級生2連敗。


カインは自分がアレクと闘うものだと思っていたので、まさかの出番なしになるとは考えてもいなかった。


(これでいいのかな。カインのヤツ諦めてななさそうなんだけと)


アレクはヒソヒソとアイリーンに話しかける。


(たとえ諦めていなくても、あんな公然の場所で堂々と宣言したのですもの。いまさら覆りませんわ)

(ならもう帰る?)

(そうですわね、そろそろ夕方になってきましたし……)


「これで終わってたまるかぁ!!」


カインはわなわなと震え出し、いきなり大声を張り上げてズカズカと前に出てきた。


「アレク王子!!俺と勝負だぁ!」

「え?なんで?もう俺たち勝ったから勝負はついたよね?」

「そんなわけあるかぁ!!最後の勝負だぁ!」


ぷちっ、


アレクの中で何かがキレる。


「いや約束は約束でしょ?それにいくら上級生とはいえ俺は王子なんだけど、アンタのその態度は何?舐めてんの?」


普段のアレクとは違う雰囲気が漂う。

何やらお怒りモードに切り替わったようだ。


カインは少しビビりだした。


「い、いや、しかし、これで負けを認めると上級生としての威厳が……」


「そっちから条件を持ち出したわけだろ?なんで勝手に決めてんのさ。アンタら将来、騎士団に入ったら誰のもとで働くのかわかってんのか?」

「し、しかし……」

「ああ、そこまで言うならやってやろうか。そのかわりどうなっても知らないぞ?」


アレクのキレモードにみんな静かに見守るしかないようだ。この小説は不良ヤンキーものではなかったはずだ。


アレクの心の中では「こいやぁオラァ!!」「フザケンナァコラァ!!」などとメンチを切っていた。


「あ、あのアレク様?」

「アイリーンも見ていてくれ」

「は、はい♡」


いつもと違いアレクが逞しく見えてしまったアイリーンは止めるどころか急に恋モードに切り替わってしまう。


メリアも心配になった。


「アイリーン様いいのですか?」

「ええ♡大丈夫ですわ♡」


(全然大丈夫じゃない……)


修練場全体が急に不穏な雰囲気になってしまった。


しかし、この状況を先に打破したのは意外にもジョージだった。


「あ、あのさ、俺、勝負には勝ったけど本来の実力なら先輩には到底敵わなかったはずなんだよな。だから朝の稽古でも出来れば先輩たちと練習してもいいかなって……」


ジョージの提案に乗っかるのようにサラも同意する。


「わ、私も、兄上にはかろうじて勝てたが、正直言って全く勝てた気がしなかった。私も出来れば先輩達のもとで学びたいと思う」


二人のフォローにセドリックやダレンもまんざらでない様子で頷いてくれる。


「そ、そうだな、後輩と一緒に鍛錬するのも良いな!」

「あ、ああ、俺もそう思う」


もはやカインとアレク以外は話をまとめようとしてくれている。


さあ二人はどうする?


「よし!対決だ!」


カインは木剣を構えた。


(え?なんで?)


さすがにこの流れでそれはないだろうとこの場にいた者全員が思いを一つにしていた。


「はあ……なあ、みんな、このバカをちょっと静かにさせたいんだけど、いいか?」


アレクも面倒臭そうに木剣を構える。


「あ、先輩たちと朝の鍛錬を一緒にやることには俺も賛成ですからね。ちょっとこのバカインの相手だけしてやりますんで」

「あ、はい、どうぞ」


皆カインから距離をとってくれた。


アレク「それじゃやってやるよ」

カイン「お前もなんぞに負けん!」


結局、二人は対決することになった。


時間はもう遅くなっており窓の外は夕焼けによって赤くなっている。


この場にいる全員が二人の試合が早く終わりますようにと願っていた。

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