第73話 なぜこんな面倒くさいことに
アレクとサラの朝稽古にジョージとオレアリスが加わり、そしてアイリーンとメリアも加わった。
さすがに五人で朝稽古をするのには寮の空き地では少々手狭になったため、みんなで相談し合った結果、学園の修練場を使おうということになった。
当然の流れではあるが、その場にいる全員の意向で王子であるアレクからメサーラ学園長に直接頼んでほしいということになった。しかしアレクはなんとなく面倒くさそうな顔をしていたので、アイリーンは仕方なく、わたくしも一緒に行きますわと言ってアレクを説得した。
そうしてアレクはアイリーンと一緒にメサーラ学園長に修練場を使えるよう頼みに行くのであった。
♢
メサーラ「あら、最近大人しいと思ったら今度は何か企んでいるの?」
アレク「いきなりの言いがかりはやめてくださいよ」
メサーラ「なら何か用事でもあるの?」
アレク「朝稽古で修練場を使わせていただきたいのですが、ダメでしょうか」
メサーラ「ダメではないけど……修練場の朝稽古では上級生が先に使っているから下級生はなかなか使えないのよ。ただ貴方は王族だから表立って文句を言う者はいないでしょうけどね」
アレク「へえ、上級生も朝稽古をしているのですね。僕たちも参加して良いのですか?」
メサーラ「貴方が良ければね。多分手合わせを望む生徒が多いかもしれないわね」
アレク「あ、ああ、そういう事ですか。確かに五人で朝稽古するにはちょっと厳しいかもしれませんね」
アイリーン「何が問題ですの?」
アレク「この前剣術大会で優勝した後に大勢の上級生たちから手合わせを申し込まれまくってさ。それが嫌でしばらくの間は魔法の授業の方に行ってたもんなぁ……」
アイリーン「なるほど、そういうことなのですね」
アレク「どうしようか」
アイリーン「アレク様が他の上級生たちも手合わせされている間は、私たちは隅っこで訓練してましょうか?」
アレク「それだと何のために頼んだのか意味ないよね」
アイリーン「そうですわね」
アレクとアイリーンはうーんと言って悩んだ。
メサーラ「だったら上級生で騎士団コースリーダーのカインに頼んでみたらどう?」
アレク「ええ!?嫌ですよ!」
メサーラ「あら、そんなに毛嫌いしてもいつかは貴方の部下になるのよ?今のうちに躾けておいた方が良いんじゃないかしら」
アレク「躾けてって……、そもそもアイツとは関わりたくないんですけど」
メサーラ「将来王様になるのは誰だったかしらね」
アレク「やればいいんでしょう?やりますよ、はい、やりますよ」
アレクはめんどくさ過ぎて今度はヤケになった。
アイリーン「アレク様、なんならカインがこの世からいなくなれば良いのでは?」
さらにアイリーンが危ない発言をしてきた。
アレク「いや、そこまでは……」
アレクはアイリーンの過激な提案に若干引いてしまう。
アイリーン「あんなのはいてもいなくても変わらないではありませんか。いえ、むしろこの世界にいない方が王国にとっても都合が良いのかもしれませんわ」
アイリーンの力説に思わずアレクも「そうだね」と言ってしまう。
アレク「いや!そうじゃない!さすがにそこまでは望んでいないよ?」
アイリーン「そうですか?もしアレク様がお望みであればいつでもおっしゃってください。私たちで何とかしますので……」
アレク「いや、望んでないから!」
メサーラ「はあ……、君たちは変わらないわね。私も忙しいのよ。用件が終わったのであれば後は自分たちでなんとかしなさい。話は以上よ」
メサーラ学園長に追い出された二人は仕方なく教室に戻るのであった。
教室に戻るとサラとメリアが二人を待っていた。
サラ「どうでしたか?」
アレク「いやあ、どうやら上級生が使っているらしいんだよ。とりあえずカインを説得すれば使っても良いってさ」
メリア「それなら諦めて今までのところで我慢しましょうか」
アイリーン「あら、カインさえいなければ良いではありませんか。簡単なことですよ?」
アレク「さすがにそれはな……、しゃあないな。ちょっと頼んでみるか」
メリア「アイリーン様が頼まれるのでしたら即了承すると思います」
アレク「それは僕が嫌だ!あいつにはアイリーンと接点を持たせたくない!」
アイリーン「アレク様、ちょっと私、実家に行ってきますわ」
メリア「アイリーン様、それは……」
アイリーン「大丈夫よ。いつも寮にいるでしょうから密室にしておけば問題ありませんわ」
アレク「アイリーン?何言ってるの?」
アイリーン「なんでもありませんわ」
アイリーンはしれっと
アレク「まあ、ちょっと後で修練場に行ってみるよ」
サラ「私も一緒に行きたいです!」
アイリーン「あら、それなら私たちも一緒に行きますわ」
アレク「ああ、わかったわかった、それじゃあみんなで一緒に行こう」
そうして結局のところアレクたちは残るジョージとオレアリスも含めて五人で修練場に行くのであった。
♢
アレクたちが修練場に行くと、案の定カインたち上級生が大勢で稽古していた。
カイン「おお!アイリーンじゃないか!どうしたんだい?こんな所にまで僕に逢いに来てくれたのかい?」
カインは夢でも見ているのか何か変なことを言ってきた。
アイリーン「私たち五人で朝の稽古をしたいのでここを使わせていただきたいのです」
カイン「もちろん大歓迎だよ!君と毎日顔を合わせられるのなら喜んでこの修練場を貸し出そう!」
アイリーン「それなら五人でここを使わせていただきますわね?」
カイン「それならみんなで朝稽古しよう!」
アイリーン「いいえ、私たちは五人だけで朝稽古をやりますの。あなたがたは別で稽古なさってくださいな」
カイン「それならば此処は使わせないぞ!?私達と一緒にここで稽古することが此処を使うための条件だ」
アイリーン「あら、あなたにそんな権限などありますの?先生に了解を得られるのであればあなたの承認など必要ありませんわ」
カイン「ここは上級生が優先的に使用出来るんだ。それは昔から決まっていることだから先生に言っても無駄だよ。だから僕たちと一緒に稽古するのであればここで稽古することを許可しよう」
アイリーン「はあ、埒があきませんわね。時間の無駄ですわ。アレク様、もう上級生は放っておいて良いのではありませんか?」
アレク「そうだね。まあ、こんなに拗れるのであれば、以前のところで稽古しようか」
カイン「よし、アレク王子!貴様が俺と試合をして勝てば此処を使わせてやろう!」
アイリーン「アレク様、あの不届者を懲らしめてくださいな」
カイン「ふん!横恋慕王子が!今度こそ勝ってアイリーンを手に入れてみせるぞ!」
アレク「誰が横恋慕だ!こっちは既にアイリーンと婚約しているんだ!お前なんかに言われる筋合いなどない!」
こうしてアレクが何も言っていないのにもかかわらず、勝手に話が面倒くさい方向へと進んでいく。
アレク「ハァ……、これなら五人で頼みに来た意味ないよな」
アレクがそう言うとジョージとオレアリス、そしてアイリーンの隣にいるメリアとサラも苦笑いしていた。
カイン「なんならそこの二人とも手合わせしようか?よし!3対3で勝負して勝ち数の多い方がここを使うことが出来るということでやってやろうじゃないか」
さっきからカインは勝手に話を進めていく。しかも弱そうなオレアリスを見てから言ってくるあたりが狡賢い。どうせ3対3であれば文句を言われないだろうし、もし自分が負けても残りの二人が勝てば大丈夫だと考えたのだろう。
「それなら俺もやろうか」
カインの後ろにいた上級生のひとりが出てきた。
「兄上……」
それはサラの兄であるセドリックであった。
剣術大会以降、久しぶりの登場である。
「面白そうだな。俺も出よう」
こちらも久しぶりの登場。以前アレクに負けて剣術大会では2回戦で敗退したダレンだ。
おそらく読者は誰も彼のことを覚えてはいないだろう。
アレク「サラも出れば良いんじゃないか?」
サラ「そうですね。是非私も出させてください」
アレク「あと一人は誰にする?」
「俺も出ていいか?」
隣でジョージが手を上げた。
アレク「ジョージか。よし、それなら3人でやるか」
アイリーン「アレク様!頑張って!」
オレアリス「サ、サラも頑張って」
ジョージ「メリアさん!俺も頑張るからね!」
メリア「はいはい、ジョージさんも頑張ってください」
ジョージはちょっと嬉しそうにメリアに話しかけるとメリアは面倒くさそうに答えた。
こうして流れのままに何故か試合する事になってしまうアレクたち。今思えばアイリーンを連れていかなければこのようにはならなかったかもしれない。
しかし、ジョージとサラは朝稽古の成果を出してみたいとさっそく木剣を手に持ち、早く手合わせしたいとばかりにウズウズしているようだった。そんな二人を見たアレクは仕方なく木剣を手に持ち、カインを懲らしめるべく上級生たちとの試合を受け入れるであった。
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