第68話 エリクサーの完成
共同魔法を研究することになったアレク達だったが、ガルシアの講義以降は各自の魔法の修練の方に切り替わり、そしてフラン先生の意向もあって共同研究はエリクサー制作の方に移行した。
前回は各属性の魔法使いの生徒たちが魔力を合わせてエリクサー制作に取り組んだものの、途中途中で生徒たちが魔力切れを起こしてしまい結果エリクサー完成ならずに失敗となってしまった。
その後、アレクが合成魔法の実験として花火魔法を使って外で遊んだのだが、突然の巨大な花火の出現により王都は大混乱となる。
アレクはメサーラ学園長と父親であるアレクサンドル国王に呼び出されてこっぴどく説教された。そして説教が終わった後にアレクは元気のない足取りでエリクサーの制作のためにフラン先生の研究室に向かうのであった。
♢
アレクが研究室に入るとすでに生徒たちは皆集まっており、すぐにフラン先生が声をかけてきた。
「あ、アレク王子大丈夫ですかぁ?」
「あ、はい、大丈夫です」
小さい頃から叱られるのには慣れている。国王や学園長からすれば問題児なのだが当の本人はその問題を問題視していないのが問題なのだろう。ただ昨晩の花火魔法は存外に好印象でアイリーンたちは満足気に語り合っていた。しかし、その後アレクだけが説教されたのでこの場にいた者たちはなんとも申し訳ない顔をしている。
「アレク様、私たちのために花火魔法を使ってくださいましたのに、こんなことになってしまい申し訳ありませんでしたわ」
アイリーンは申し訳なさそうに謝った。
「いや、僕がやりたかっただけなんだから気にしなくて良いよ」
「でも昨日の花火魔法は本当に綺麗でしたわ!また機会があればやりたいです!」
「そうだね。その時は父上とメサーラ学園長に一言言っておくよ」
頭をポリポリとかいてアレクは答えた。そんな二人のやり取りをぶった斬るようにフラン先生が会話の主導権を握るべく前に出てきた。
「さあ、アレク王子も来たことですし、またエリクサーの作成に挑戦しましょう!」
えいえいおー!
フラン先生はハイテンションで俄然やる気に満ちている。悲願のエリクサー作成まであと少しなのだ。
気合いが入らないわけがない。
「今回は人数が多いので実験室を借りることにしました。今から実験室に向かいましょう」
フラン先生の後をついていくと実験室と呼ばれる少し広い部屋に着いた。部屋に入ると昔の理科室みたいな部屋には今回の共同研究に参加する生徒たちがすでに待機していた。
そしてその中にアイリーンの兄アランもいた。
「あら、お兄様」
「やあアイリーン」
「お兄様も今回の研究に参加しますの?」
「そうなんだ。フラン先生がどうしてもって言うから仕方なくね」
実際はアランがフラン先生の研究室の前を通った時、たまたまアイリーンたちの声が聞こえてきたためにこっそり扉の隙間から中の様子を覗いていたのである。その時に自分も参加してみたくなったので、みんなが研究室から出た後でフラン先生に「魔力が必要なら僕が手伝ってあげても良いですよ?」と言ってきたのである。
自分が中に加わりたいだけなのだが、プライドが邪魔して素直には言えないアランなのであった。もちろんアイリーンは妹だけにアランの性格を熟知しているので実はアランの方がこちらの仲間に加わりたいだけなのだということをちゃんと理解している。
素直になれない兄を見て、仕方ないと諦めるアイリーン。
(ま、いいですわ。せいぜい干からびるまで魔力を出し尽くしてもらいましょう)
「そうなのですか!お兄様がいるのであれば心強いですわね!」
表向きは喜びつつも、実の兄に対して結構腹黒い事を考えるアイリーンだった。
「それでは始めましょう!」
全員が集まったところでフラン先生が号令をかけた。
今回の共同研究の役割はアレクが全体のバランス調整を務める。そして今回は各属性別に班分けされることになった。
水魔法にアイリーンとアラン。
火魔法にローズマリアとサラ。
風魔法にはロイとメイ。
土魔法にはオレアリスと新たに呼び出された生徒でジョージという二年生が手伝うことになった。
「君は?」
アレクがジョージを尋ねるとジョージは恥ずかしそうに応える。
「僕の名前はジョージといいます。以前アレク王子のお世話をしていたサーシャは僕の姉です。今回は土属性の魔法が必要だとのことで是非お手伝いしたいと思って参加しました」
「え!?サーシャの弟だったの?」
「はい、僕は三男で他に八人の兄弟がいます」
「そんなにいるの!?」
「姉から聞いていませんでしたか?」
「何にも、いつも小言ばかり聞かされてた」
「ははは!それは姉らしいですね」
「まあね、そっかぁ、サーシャの弟かぁ、これからもよろしく頼むよ」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
「そうだ、それ、言葉使いもさ、畏まらなくてもいいよ。ジョージは僕より年上なんだし、普通に話してよ」
「わかりました。いや、わかったよ。アレク王子、よろしくね」
「ああ、こちらこそよろしく!」
アレクとジョージはガシッと握手する。
この時アレクは初めての男友達ができたと内心感動に近い喜びを感じていた。
そして二人のやり取りを見ていたサラもなにやら感極まっているようだ。
「男の友情!!良いですね!」
サラは男の友情モノが大好きだ。
決してBL好きというわけではない。
少年ジャンプのような友情ものが好きなだけだ。サラは目に涙を浮かべて1人で拍手喝采している。
そうしてアレクとジョージは今後、生涯を通しての親友となり、長い付き合いとなっていくのであった。
話は授業に入る。
「みんな、この鍋にゆっくりと魔力を注いでください」
フラン先生の指示に従ってみんなで魔力を注いでいく。
まぜまぜ、
まぜまぜ…、
まぜまぜ……。
フラン先生が必死に混ぜること30分。
「そ、そろそろですかね」
皆、今回は魔力に余裕がある。しかし、なかなか鍋にある液体の変化はない。
「んん、そろそろのはずなのですが……」
フラン先生も首を傾げている。
「あっ!」
鍋の液体が淡い光を帯び始めた。
「で、出来ましたぁ!」
こうして瓶に移した液体を見てフラン先生はカラーパレットに合わせて確認する。
「ん?こ、これはただのエキストラポーションですぅ」
「エキストラポーション?」
「ハイポーションの上位版ですぅ。これはこれで大発見なのですけどぉ、エリクサーではないですねぇ」
フラン先生は残念そうに瓶を見ていた。
アイリーン「何が足りないのでしょう」
その場にいる者たちは黙考する。
しかし誰も答えられず、妙案も浮かばないため沈黙がその場を支配する。
「他の属性も必要なのでは?アレク王子が全属性なのであれば水と火、風、土以外の属性も必要ありうるのではないかしら?」
ローズマリアの発言に皆そうかもと頷いた。
フラン「そうですねぇ、他の属性でいうと光と闇ですかねぇ」
サラ「光?」
フラン「ええ、聖属性ともいわれるのですが水属性のポーションと比べると圧倒的に回復力が高い属性ですぅ。どんな病も治るといわれるエキストラポーションも聖属性魔法から作られているので四属性の魔力で作れると判明しただけでも今回の研究も全く無駄ではありません」
アイリーン「この学園にいるのですか?」
フラン「この学園にはアレク王子以外には…そういえば教会にいますかねぇ、聖女と呼ばれている方が貴重な聖属性魔法の使い手だと聞いたことがありますぅ」
アレク「闇は?」
フラン「これも貴重でしてぇ、たしか毒性魔法を使うファントム君が闇属性の一部を持っていたと思いますぅ」
アイリーン「一部?」
フラン「闇属性でも全てではなくその一部を有した魔法師はいますねぇ、おそらく全ての聖属性と闇属性を有している魔法師は全属性のアレク王子だけだと思いますぅ」
アレク「え!?俺?」
フラン「闇属性はまだまだ謎が多くて解明されていないのですぅ。そもそも使い手が少ないのでぇ」
「「なるほどね」」
ロイとメイは頷いた。
ローズマリア「ならばこの研究はどうされますの?」
フラン「そうですねぇ、今から人を集めても間に合いませんしぃ……そうですねぇ、アレク王子の体の一部を液体に入れてみるのはどうでしょう、ね」
アレク「……え?」
フラン「全属性のアレク王子の体の一部を切り取って液体に混ぜると良いかもしれません」
急に危ない発言をするフラン先生にアレクは距離を取った。
アイリーン「フラン先生!アレク王子に対して不敬ですよ!」
アイリーンがアレクを庇うように前に出てフラン先生を抗議する。
フラン「でもぉ、人類の為に犠牲はつきものですよ?」
アレク「いやいや!体の一部を毎回使ってたら身がもちませんて!いつも体の一部がなくともエリクサーを作っていたじゃないですか!」
フラン先生の異変の妄言にアレクは焦った。
フラン「んー、ですよねぇ、でもぉ、せめて爪とか、髪だけでもぉ、……ダメですかぁ?」
フラン先生が可愛らしく上目遣いで見つめてくる。しかも大きな胸を寄せ上げてアレクに近づいてきた。
アイリーン「は、破廉恥ですわ!」
アイリーンがアレクの前に立ってフラン先生のハニートラップからアレクを護る。メリアやサラ、ロイの妹メイも顔を赤くしていた。
ロイとアランは目を♡にしながら鼻の下をのばして視線はフラン先生の大きな胸に釘付け状態になっていた。
オレアリスは顔を赤くして目を逸らしており、新顔のジョージはロイとアランのようになっている。
アレクはフラン先生の胸を見ることも叶わず、アイリーンの後ろ姿しか見えない。
「……やれやれですわ」
ローズマリアは呆れている。
アレク「わ、わかりましたよ!」
アレクは自棄になって髪を一本引き抜いてフラン先生にわたした。
フラン「あ!ありがとうございますぅ!」
フラン先生は喜んで空の瓶を取り出してアレクの髪の毛を一本入れた後に何やら新しい液体を入れ始めた。
フラン先生は瓶をよく振って出てきた色をカラーパレットを見ながらうんうんと言って調べ始めた。
アイリーン「先生それは何ですの?」
フラン「これはアレク王子の魔法属性を識別する薬ですぅ、とりあえず聖属性反応を調べましたぁ」
アイリーン「どうなんですか?」
フラン「そうですねぇ、やはりアレク王子は完全なる聖属性の持ち主ですねぇ、アレク王子、今度は闇属性を調べるのでぇ、もう一本髪の毛をくださぁい」
アレク「え!?また?」
フラン「はい!お願いしまぁす♡」
フラン先生は嬉しそうにアレクに頼み込む。さすがに断れる雰囲気ではないためしぶしぶと髪を一本引き抜いてフラン先生に渡した。
フラン先生はまた嬉しそうに空の瓶を取り出してアレクの髪の毛を入れ、次の溶液を入れ始めた。
今度は瓶の中の液体が濃い紫色に変化する。
フラン「ここまで完全な闇属性の色は初めてみましたぁ!さすがはアレク王子ですぅ!」
アレク「あ、あはは……」
2本毛を犠牲にしたアレクはあまり嬉しくはなさそうだ。
フラン「それではもう一度エリクサーを作ってみますのであと5本ぐらい髪の毛をくださいねぇ♡」
アレク「ご、5本?」
フラン「はい!5本でぇす!」
うふふと嬉しそうにフラン先生は簡単に頼んでくる。
(こ、この先生は危険だ……)
そのうち髪の毛が無くなるまで実験に付き合わされそうだ。
アレクはマッドサイエンティストのフラン先生に改めて恐怖した。
フラン「さあ!みんな始めましょう!」
みんな気の毒そうにアレクをみながら仕方なく実験に付き合うことにした。
アレクも泣く泣く5本髪の毛をむしりフランに渡す。そのうち10円ハゲになりそうだ。
円形脱毛の王子にはなりたくはないアレクはもうこれで実験が終わってくれと心から祈り始める。
(頼む!これで実験が成功してくれ!)
まぜまぜ、
まぜまぜ……、
まぜまぜ…………。
アレクの真剣な祈りが届いたか、今度はさっきと違う色で液体が光り輝いた。
フラン「こ、これは!」
カラーパレットを見ながらフラン先生は興奮し出した。
フラン「え、エリクサーですぅ!やりましたぁ!せ、成功ですぅ!」
なんとアレクの真剣な祈りが届いたのか、とうとう皆の魔力によってエリクサーが作れるようになったのだ。
アレクの髪の毛によって作られるエリクサーとはなんとも微妙ではあるが、こうして共同研究としてエリクサー作成は成功した。
フラン先生はメサーラ学園長に報告して、ひとまず次の魔法師の会議でエリクサー作成の報告をすることとなった。
そして……。
フラン「今度の会議で報告するのにまたアレク王子の髪の毛を貸してくださぁい!」
フラン先生は泣きながら頼み込んでくる。
アレク「貸せと言われても髪の毛を貸すことなんて出来ませんよ」
フラン「えぇ!また生えてくるから良いではないですかぁ!」
アレク「いや、だからまた生えるまで時間がかかるでしょうが!」
フラン「でも100本ぐらい良いじゃないですかぁ」
アレク「いやいや、100本も抜けませんて」
フラン「私の胸でも何でも触らせてあげますからぁ!」
アレク「…え?」
アレクの髪の毛という尊い犠牲を必要とするも、エリクサーさえ完成させられるのであれば手段は選ばないフラン先生は対価として自身の胸を触らせてもよいという条件を出してきた。
アレクは悩みはじめながら、すでにフラン先生の胸を凝視している。
しかし、
コホン、
「……何を触らせるですって?」
アレクの背後からアイリーンが何やら黒いオーラを放って微笑んでいる。
彼女も今なら闇属性の魔法が使えるかもしれない。いや氷魔法の方だろうか。
アレクは背後に近寄るアイリーンから凍てつくような冷気を感じた。
アレク「……ア、アイリーン!?」
アイリーン「アレク様?先程からちゃんとお断りしていたのに、何故急に沈黙されていたのですか?」
アレク「い、いや、か、髪の毛ならまた生えてくるから大丈夫かなと……」
アイリーン「へえ、……それではこの短剣で切って差し上げようかしら」
アイリーンは腰にある短刀の鞘を抜き、ゆらりと構え出した。殺気に近い重圧を感じたアレクの冷や汗は止まらない。
アレクはもはや蛇に睨まれた蛙のようだ。
アレク「アイリーン!ま、待った!待ってくれ!」
アイリーン「問答無用ですわ!そんなに役に立ちたいならばハゲになるまで毛を差し出すことですわ!」
フラン「そうですぅ♪禿げても大丈夫ですよ♪」
(いや、大丈夫じゃないでしょ!)
アレクはアイリーンの振り回す短剣を必死に避けるのであった。
勘弁してくれー!!!
いきなりの修羅場に遭遇したアレクの悲痛の叫びは水の魔塔の全てのフロアに響き渡るのであった。
この後、アレクの元には学園から正式に、エリクサー作成のため、週に100本ほど髪の毛を提供してほしいという申請書、いや、ある意味、脅迫状みたいな書状が届いたのであった。
アレクはこの時ようやくフラン先生が本当に真のマッドサイエンティストなのだと悟ったのであった。
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