第67話 魔法師の共同研究③

魔法共同研究の2日目は王国魔法師のトップに君臨する大魔法師ガルシアの授業だった。


その日生徒たちはガルシアの魔法の詠唱簡略化と複数の属性魔法を使い方について学び、この講義に参加した生徒たちは有意義な時間を過ごした。しかし、実施訓練の途中で時間が足りなくなってしまい、授業は途中で終わってしまったのである。


♢魔法共同研究3日目


この日、ガルシアは他の予定があるということで授業は各自、昨日のおさらいをするようにということになった。生徒たちは複数の属性魔法を使えるようにと皆それぞれ分かれて修練することとなった。


そんな中、すでに他属性魔法を使えるアレクは退屈そうにみんなの魔法を見学していた。


「アレク王子は練習しなくて良いのですか?」


サラがアレクに聞いてきた。


「だって、複数の属性魔法はだいたいやったからね」

「へえ、すごいですね!それならアレク王子の魔法を見せていただけませんか?」

「んー、まあ良いよ」


そう言ってアレクは立ち上がり、魔法を見せることにした。


「ちなみにゴーレムは創れるのですか?」

「ん?ああ、つくれるよ」


そういってアレクは手をかざして地面に手を向けた。


「出でよ!ゴーレム!」


アレクが唱えると地面から土人形のゴーレムがボコボコと出てきた。


「す、すごい!」


サラは感動する。


「アレク様!すごいですわ!」


アイリーンも喜んでいた。


アレク「サラも昨日の続きをするか?」


アレクがそう言ってゴーレムに水の属性を付与させる。


サラ「は、はい!」

ローズマリア「なんか面白そうじゃないですの」


するとローズマリアもアレクたちのもとに近寄ってきた。


アレク「なんだ?ローズマリアも火魔法の練習をするかい?」

ローズマリア「そうですわね。昨日はガルシア様に邪魔されましたし、今日は汚名挽回として私のメガフレアを見せてさしあげますわ!」


相変わらず自身満々のローズマリアだ。昨日説教されたはずなのにまったく懲りていなかった。


アレク「よし!それじゃ皆の分のゴーレムを出そうか!」


アレクがそう言って地面に手をかざすとボコボコと地面から5体のゴーレムが出てきた。


アレク「それじゃ皆ゴーレムに魔法を撃ってみてくれ」


アレクがそう言うとサラ、ローズマリア、アイリーン、メリア、ロイがそれぞれ魔法を放って練習する。ローズマリアとアイリーンは詠唱を簡略し、すぐに魔法を行使した。


ローズマリア「メガフレア!」

アイリーン「ウォーターレーザー!」


二人の魔法がゴーレムに着弾する。すこし遅れてメリアが魔法を行使した。


メリア「ウィンドスピア!」


メリアの魔法イメージがまだ拙いのか、それとも詠唱簡略のせいか、小さな風の矢がゴーレムの胸に突き刺さる。


ロイ「ファイアーストーム!」

サラ「ファイアソード!」


遅れてロイとサラの魔法がゴーレムに着弾する。こうして全員が放った魔法は見事ゴーレムたちに着弾した。


「「「「「「よし!」」」」」


魔法を受けたゴーレムはそれぞれが受けただけのダメージを表すかのようにボロボロと崩れていった。しかしサラとメリアが放った魔法のゴーレムだけは崩れることなく少しの焦げめと傷を負うだけにとどまっている。


サラ「くっ!」

メリア「……ショックです」


二人は他の三人と魔力の差を比較されたかのようで悔しいとばかり顔を顰めていた。


アレク「二人とももう少し時間をかけて魔力を練った方が良いと思う」


臨時講師となったアレクが二人にアドバイスした。


アレク「とにかく魔力を練って最大魔力量を増やすんだ。繰り返し魔力を溜めていくことで魔法の威力も大きくなるし、使える魔法の数も増えるはずだ」


サラ「はい!」

メリア「ありがとうございます」


アレクも臨時ながら先生のようになって二人を教え始めた。意外に面倒見が良いようだ。一方、サラとメリアを教えているアレクを見たアイリーンはなんとも羨ましそうな顔をしている。


アイリーン「アレク様、わたくしにも教えてくださいませ」


アイリーンはアレクに駆け寄ると甘えるようにおねだりしてきた。


アレク「アイリーンはちゃんと魔法ができているじゃないか」

アイリーン「わたくしだってもっと上達したいですわ。サラとメリアだけ教えるなんてずるいですわ。わたくしとても羨ましいのです」


愛しの婚約者にそう言われるとさすがのアレクも教えざるおえない。いかんせん他人に教える経験が浅いためか、少しプレッシャーを感じつつ、アレクはアイリーンの魔法を見てみることにした。


アレク「それじゃ、アイリーンの苦手な属性魔法は何?」

アイリーン「そうですわね。わたくし火属性の魔法が苦手ですわ」

アレク「それじゃ、火以外の属性魔法の練習をした方が良いよ」

アイリーン「なぜですの?」

アレク「昨日ガルシア師匠も言っていたけど水と火は相性が悪いんだ。だから水属性のアイリーンが火属性を練習するよりも他の属性、たとえば風と土かな。その二つの属性魔法を練習した方が良いと思うよ」

アイリーン「そうなのですね。わかりましたわ」


ローズマリア「オーホッホッホ!アイリーン様は火属性が苦手なのですわね!私が教えてさしあげてもよくてよ!」

アイリーン「いいえ、苦手な属性の魔法は練習する必要がないそうなので結構ですわ」

ローズマリア「あら、苦手なものを克服するのも良いのでは?」

アイリーン「そうですわね。でもそれよりはまだすることがたくさんありますので」

ローズマリア「うふふ、でしたら私と合成魔法の練習をしませんこと?」


アイリーン「……なぜ?」


ローズマリア「いずれは王族の妻となるもの同士、今だからこそ力を合わせることも大事かと思いますの。いかが?」

アイリーン「そうですわね。せっかくのご厚意ですもの。応じさせていただきますわ」


ローズマリア「では、よろしいかしら」

アイリーン「ええ、どうぞ、何の魔法にしますの?」


ローズマリア「そうですわね。アレク王子何か良い魔法を考えてくださらない?」

アレク「え?」

ローズマリア「何でも良いですわ。火と水の属性でできる魔法を教えてくださいな」

アレク「そ、それじゃあ、二人が魔力を出している間に僕の方で調整するよ」

アイリーン「ただ魔力を込めるだけでよろしいのですか?」

アレク「そうだね。ただ魔力を込めてほしい。僕が調整するよ」

ローズマリア「わかりましたわ」


そういうと二人は互いに魔力を練り始める。

火と水の属性魔法は相反する属性ゆえに合成魔法は難しい。


それをアレクは見事に調整し、二人の魔力を混ぜ合わせる。そして混ぜ合わせた魔力を行使すべく何の魔法にしようかと考えはじめた。


(せっかくの機会だから成功させてあげたいな)


アレクは相反する二つの属性魔法を混ぜ合わせたあと、すぐに良いアイデアが浮かんだ。


アレク「よし!決めた!それじゃあ二人とも俺に合わせてもっと魔力を練ってくれ」


アレクも魔力を練り出して三人が魔力を融合させていく。


ローズマリア「あら」

アイリーン「すごいですわ」


さっきまで反発していた二人の魔力がアレクの魔力によってうまく混ざっているのが二人にも感じられるらしい。アイリーンとローズマリアは調和した魔力にうっとりと魅了されている。


火属性の赤色魔力と水属性の水色魔力が渦のようになって絡み合い、次第に絡み合った二つの魔力は大きな球体のようになっていく。


アイリーン「綺麗……」

フラン「やりましたね」

ロイ「これは何ですか?」

アレク「よく見ていてください」


アレクたちの頭上には五メートル以上の大きな魔力の球がふわふわと浮かんでおり、淡い二色の光を浴びながら波打つように回転している。


アレク「それでは打ち上げます」


アレクの合図とともに魔力球は空高く舞い上がる。それは何か見たことのあるものだった。


ドッカーーーーン!!


大きく打ち上げられた魔力球、それはまるで花火のように飛び散っていく。

二色の魔力がゆらゆらと舞いながら光って青い空に見事な紋様を描いており、しばらくするとその二色の魔力は空に溶けるように消えていった。


初めて花火を見た者たちは唖然というか呆然となって口をあんぐりと開けたまま真剣な眼差しで空を見つめている。


ロイとメイ「す、凄い!」

サラ「なんと!」

ローズマリア「こ、これは何ですの?」

アレク「ファイアフラワーですかね」


(たしか花火ってそんな言い方だったよな)


正確にはfireworks(ファイアーワークス)である。(発音はファィルヮァ(ル)クスらしい)


ローズマリア「これは何の意味がありますの?」

アレク「そうだね、それじゃあちょっと夜にもう一度やってみようか」

アイリーン「え?」

ローズマリア「私、夜には屋敷に帰りませんと」

アレク「それじゃ、俺がローズマリアの分の魔力を練るよ」

サラ「わ、私も一緒に参加させてください!」


サラも仲間に入りたそうだ。

他にもロイやメイも仲間に入りたそうな顔をしている。周囲からじっと見つめられてアレクはなんとも落ち着かない気分となる。


ローズマリア「アレク王子、みんなで出来る魔法はまだありませんの?」

アレク「んー、そりゃ色々あるけどね」

メリア「では、私も一緒に参加させていただきます」


結局、夜の花火はメリアやロイ、メイが参加することになった。


「それじゃあ、皆で出来る魔法の研究を再開しましょうか」


フラン先生がそう言い出してきた。

そう、もともとそういった趣旨でやり始めた授業だったはずだ。いつの間にか違う授業になっていた。


「そうしたら、んー、とりあえずエリクサーの作成をやってしまいましょうか?」


アレクがフラン先生に提案する。


「そうですねぇ!それじゃあぜひやりましょう!」


もともとエリクサーの作成はフラン先生がやりたがっていたため、アレクの提案に喜んだ。そうしていったんフラン先生の研究室に移動することになった。


相変わらず散らかったフラン先生の研究室は足の踏み場もない。ゴミゴミした部屋を見たアレクたちはここでやるの?といった顔をしている。


「ここ狭くないですか?」

「そうですねぇ。それじゃあアレク王子と各属性の生徒四人でエリクサーを作りましょうか」

「あれ?四人で良いんですか?」

「はい、おそらくですけど、火、水、土、風以外の属性は必要ないと思われますぅ」


フラン先生がそういうのでアイリーン(水)、ローズマリア(火)、ロイ(風)、オレアリス(土)の四人が研究室に残り、他の生徒たちは外で待つことになった。


「それではやりますかぁ」


フラン先生がそういうと薬草の入った液体を持ってきた。まだ魔力の込められていないポーションの素材の原液である。


「それではぁ、魔力を込めてみてください」


フラン先生の号令に従って、皆魔力を込め始める。当然魔力の量に偏りがあるため、そこはアレクが補うように補佐した。

皆が魔力を込めている間、フラン先生がひたすらポーション原液を混ぜ合わせる。


まぜまぜ、

まぜまぜ…。

まぜまぜ……。

まぜまぜ…………。


ひたすら混ぜ続けること30分。


「も、もうそろそれ限界ですわ」


ローズマリアが魔力切れになりそうだ。となりではアイリーンも険しい表情をしていた。


「僕もそろそろ限界です」


オレアリスも言い出した。


「オレはまだ大丈夫かな」


ロイはまだまだ平気といった感じだ。


「も、もうそろそろですぅ、みんな頑張ってくださぁい」


フラン先生も必死で混ぜ合わせている。


「も、もうダメ」

「ぼ、僕も……」


ローズマリアとオレアリスは離脱する。仕方がないのでアレクは器用に土と火の属性の魔力だけを補った。


「わ、私もそろそろ限界です」


アイリーンも限界に達した。


結局、ロイ以外はみんな脱落してしまう。そしてエリクサー作りは三人の魔力切れが原因で途中で中断せざるおえなかった。


「これ、外で待っているみんなで交代しながら魔力を込めたらどうですか?」


ロイが提案する。


「そうですねぇ。それじゃあ明日は交代でやってみましょうかぁ」


結局今回は準備不足のためにエリクサー開発は途中で中止となり、一番期待していたフラン先生も仕方なくあきらめるのであった。



その日の夜。


アレクとアイリーン、そしてサラとメリアはさっきの修練場の外に集まっていた。


アレク「それでは続きをやりますか」

アイリーン「私とアレク様の二人でよろしいのですか?」

アレク「いや、サラとメリアも魔力を込めてほしいかな。三人の魔力の状態を見て僕が魔力を補うよ」

メリア「ただ魔力を込めるだけですか?」

アレク「そうだね、メリアとサラは魔力がまだそんなに大きくはないから僕の方で補うよ」


サラ「わ、私が火属性をやるのですか?」

アレク「サラ、ファイアソード使ってたじゃないか」

サラ「いや、私はてっきり自分の属性は風かと思っていたものですから、今までも魔法の鍛錬はしていたのですがどうしても風魔法がうまく出せなくて失敗ばかりだったのです。」


アレク「え?なんで?」


サラ「父は風属性なのです」

アレク「親が風だからといって子供も同じなのかなあ」

アイリーン「これは両親のどちらかに似るらしいですよ?サラは火属性なのでしたら、お母様が火属性なのでは?」

サラ「そ、そうですね!よく考えたらそうかもしれません」

アレク「え?サラは母親の魔法属性知らないの?」

サラ「ええ、父と母は傭兵だったそうで、母は有名な魔法師らしいのですが、色々な魔法を使っていたのでおそらくガルシア様のように複数の属性魔法を使っていたのではないかと思っています」

アレク「だったらもともと火属性の魔法師だったのかもね」

サラ「そ、そうですね。昨日もガルシア様から風の属性ではなく火属性を試すように教えられまして、練習したら上手く出来ました。やはり私は火属性なのですね」


メリア「あのう、そろそろ良いですか?」

アレク「あっ、ごめん。それじゃ始めようか」


こうしてアイリーンとメリア、サラは花火魔法のために魔力を込め始めた。アレクは三人の魔力をまとめながら混ぜ合わせて少しずつ融合させていく。


火と水が上手く融合し、風の力で渦巻き状になった魔力は球体の中でぐるぐると渦巻いており、前回よりも大きな魔力球が出来上がる。


「よおし、そろそろかな」


アレクがそう言うと大きくなった魔力が光だして空高く飛んでいく。


ヒューー〜!!


ドンっ!


ドンっ!


ドンッ!!


大きな花火が暗闇の空一面に拡がり、そして次々と打ち出されては王都の空一面を照らすように光り出す。


アイリーン「綺麗……」

サラ「す、すごい!」

メリア「これがファイアフラワーなのですね」

アレク「成功だ!みんなよく頑張ったよ!」


綺麗な花火、fireworks(ファィルヮァ(ル)クス)を観た者たちは感動と達成感で胸が満たされているようだ。


その日の夜、王都では真っ暗な夜空に突如として大きな爆発音と共に巨大な炎が空に何度も出現したということで民衆たちは大騒ぎになった。


「な、何事だ!」

「敵襲か!」

「こ、これは、天変地異か!」


などなど、様々な憶測が飛び交い王都は混乱状態になる。当然、その情報はメサーラ学園長の耳に入り、また国王の耳にも入った。


その後、魔法師たちによって火花の出た方角や位置などを調べられ、経路を逆算すると、どうやらその時現場にいたアレクたちが犯人であるとバレてしまったのだ。


次の日、


「アレク王子?昨晩の事件はあなたの仕業なのですってね?」

「アレクよ、お前はまた何か仕出かしたらしいな」


アレクはメサーラ学園長と国王の二人に呼び出され、またもや説教されるのであった。



花火騒動の日、

ローズマリアは期待に胸を張って踊らせて、屋敷の一番高い見晴らしの良い場所で外の景色を見ていた。


「ああ、私も一緒にファイアフラワーの魔法をやりたかったですわ」


ローズマリアは帰宅時間が決められていて夜の外出は夜会以外は禁止されている。

実は昔から皆が寮で生活しているのも羨ましかったのだった。


「あの魔法は何だったのかしら」


アレクの指示のもとアイリーンと一緒に込めた魔力でできた魔法。

そしてただ空中で爆発しただけの魔法。


夜には何の魔法かわかると聞いて興味を持ったローズマリアではあったが、門限を守らなくてはいけないために本当は残っていたかったのだが寂しそうに帰り、今も窓から学園の方を見ていた。


「あ、あれは!」


ローズマリアが窓を開けて空を見ると美しい花火が何度も打ち上げられていた。


「き、綺麗ですわ……」


ローズマリアは美しい存在ものが大好きだ。

夜空に光輝く花火をみながらウットリとするのであった。



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