モブ王子学園編②

第65話 魔法師の共同研究①

初デートの次の日、アレクは寝坊してきたサラと朝の鍛錬を行った。


サラはやけに興奮していていつもと比べて隙が多かった。後半は涙目になりながら必死に防御に徹していた。


「くっ!まだまだ修行が足りません!」


鍛錬が終わった後のサラはとても悔しそうだった。


寮に戻るといつも通り湯浴みをしてから着替える。


いつもと同じ生活パターンではあるが、いつもと違うところもあった。


(昨日のアイリーンは美しかったな♡)


アレクはまだデートの余韻に浸っていたのだ。


記憶の中のアイリーンは更に美化されて女神のようになっている。


(また新しいアイリーンの姿絵を用意しないと)


アレクはセバスにデートの時のアイリーンの姿絵を描くようにと頼んだ。


「さて行くか」


アレクは制服に着替えて学園へと向かった。



教室に入るとアイリーンとメリアがいた。


「アレク様♡おはようございます♡」

「アイリーン♡おはよう♡」


今日もラブラブな2人。


卒業までずっとこんな感じなのだろうかとクラスの生徒たちは内心、二人を中心とした教室内の異様な空気に戸惑っていた。


男子生徒たちからは嫉妬の念。

女子生徒からは恋愛に興味関心のある視線ばかり。


恋愛にまったく関心のない生徒たちもさすがに毎日毎日2人のイチャイチャを見せられては堪らないと困っている。


しかしアレクは王族である。アイリーンも婚約者であるため誰も文句を言える者はいなかった。


こうしてアレクとアイリーン以外の生徒たちの嫉妬渦巻く険悪な空気の中で授業が始まる。


ここ最近の変化としてアイリーンもアレクの事を意識し始めたためか、アレクにはいつもよりアイリーンが可愛らしく見えるようだ。それだからか、ここ最近ずっとアイリーンを意識してしていたようだ。


思春期真っ最中であるアレクは時折アイリーンを見てすぐに顔を赤らめて照れてしまうほどに初々しい。


アレクが前世の時には、中学の時にあこがれていた女の子はいたのだがクラスのヒロイン的存在であったためにみんなからも人気があり、話しかける勇気もなくただ遠いところで恋心を抱きながらひっそりと意中の女の子を意識して見ているだけだった。


そんなアレクが今世では超美少女の女の子が婚約者として、いつもすぐ側にいてくれるのだ。なんとも羨ましい話である。


そんなラッキーなアレクのもとにフラン先生が話しかけてきた。


「アレク王子、授業が終わったら私の研究室に来てくれますかぁ?」

「えっ?なんでですか?」

「ちょっと頼みたいことがあるんですぅ」


フラン先生は少し上目遣いで頼んできた。


今日のフラン先生の服は何故か胸の谷間が少し見えてなんとも刺激的だ。実は男子生徒たちの多くは今日のフラン先生の服のせいでまったく授業に集中できていなかった。


アレクも無意識にフラン先生の胸の谷間に目がいってしまいそうになるのだが、隣には超美少女且つちょっぴりメンヘラなアイリーンがいる。


(ここで視線を逸らさないとヤバい)


アレクはなるべくフラン先生に顔を合わせないようにアイリーンの方を見ながらフラン先生と話をした。


「頼み事ってなんですか?」

「アレク王子しかできない事ですぅ」

「それって何ですか?」

「んー、それは後で話しますね」


(いや、今言ってくれよ!)


隣ではアイリーンがニコニコとしながら黒いオーラを放っている。


他の生徒たちはフラン先生がアレクの目の前にいるものだから皆羨ましがっており、


「ちっ!リア充が!」

「爆死しろ!」


さっきから男子生徒の舌打ちばかり聞こえるため、アレクも気が気でない。


「わかりました。アイリーンも一緒で大丈夫ですか?」

「ええ、アイリーンさんも一緒だと良いですねぇ」

「あ、はい、私でよければ参加します」

「それでは後で二人で私の研究室に来てくださいねぇ」


「「わかりました」」


アレクとアイリーンの返事に男子生徒たちは「俺も行きたいなぁ」などと、悔しそうに呟く者が多かった。


アレクも王子でなければ今頃男子生徒たちに呼び出されてイジメられていただろう。


(今世は王子に生まれて本当に良かった)


今世生まれて来た環境に心から感謝するアレクであった。



授業が終わり、アレクとアイリーンはフラン先生の研究室に行った。


コンコン。


「はぁい!入ってくださぁい!」

「失礼します」


アレク達が研究室に入るとフラン先生が沢山の本に囲まれながら何か調べ物をしているようだった。


「先生、一応みんな来ましたけど、何があるんですか?」

「ああ、そうですね。実は二人には新しい魔法の研究をやってほしいと思っていますぅ」

「新しい魔法?」

「本当は昔の魔法の発掘なんですけど、こないだの魔法師選別大会でアレク王子が雷魔法を使いましたよねぇ?異なる属性魔法師たちがそれぞれ魔力を合わせれば新しい魔法が使えるんじゃないかという話になりましてぇ」

「そんなに高度なレベルの魔法の研究をなぜ一年生の私たちがしなければなりませんの?」


アイリーンが質問する。


「実はぁ、こないだ魔塔主様たちが一度やってみようという事になりましてぇ……」



♢回想に入る。


「なんじゃ!!幼女ババア!もっと魔力を出さんかい!」

「ジジイがなんだって!?そっちこそもっと魔力をコントロールしな!そんなにガバガバ魔力出してたら長く保たないよ!」


地属性の魔塔主ドエラエフと風属性の魔塔主であるケーナが喧嘩していた。もともと2人ともあまり仲は良くないのだが、今回の共同研究にもっとも必要な「協力」という文字は 2人の辞書にはなかったようだ。


「何が魔力のコントロールだ!わし程の魔法師ならばどれだけ魔力を出しても尽きる事などないわい!」

「みんなをアンタと一緒にするんじゃないよ!他の魔塔主もいるんだ!魔力を均等に合わせないと魔法が出せるわけないじゃないかい!」

「ホッホッホ、お二人とも元気ですなあ」

「そうじゃのう、わしらももうちっと若かったら元気にやれるんじゃがのう」

「あんたらワシらとあんまり変わらんじゃろうが!!なんならこのババアの方が歳取っとるはずじゃ!」

「アンタ!この永遠の乙女になんて事言うんだい!!魔塔主のアンタがそんなんだから地の魔法師たちは問題ばかり起こすんじゃろうが!!」

「なんじゃとぉ!風の魔法師たちなんか大人しくしとるだけで何もしとらんだけじゃろう!せいぜい夏に冷たい風を出すだけじゃろうが!」

「そんなわけあるかい!風の力を甘く見るんじゃないよ!なんなら昔の魔法師選別大会の時のように魔法での力比べをまたやってやろうかい?」

「ふん!お前さんなんぞに負けるものか!」


回想終了♢



「……という事でぇ喧嘩ばかりで全然研究が進みませんでしてぇ、なんなら若い生徒たちにやらせようという話になりましてぇ」


「……わかりましたけどなぜ一年生なんですか?四年生もいたはずですけど」

「そうですねぇ、四年生は卒業ってこともありましてぇ、自分の卒業研究課題を提出するのに忙しくて断られましたぁ。でも一応上級生の中で火の魔法師と風の魔法師のが来てくれることになりましたぁ」


フラン先生がそう言うと研究室に上級生がノックもせずに入ってきた。


「失礼しますわ!」


オホホホ!


「私が手伝って差し上げますわ!」


なんとローズマリアであった。


この間は急に挨拶してきたしアレクにとってよくわからない女性だ。まあいいかと安易に受け入れるアレクだったが、隣にいたアイリーンとメリアはいきなりのローズマリアの登場に戸惑い、思わず警戒心を表に現していた。


「何故ローズマリア様がこちらに?」

「あら?私は火の魔法師の仲間でも優秀なのよ?卒業研究ももう終わりましたし」


こないだの魔法師選別大会ではクララという女生徒の研究発表をそのままパクったローズマリア。パクられた方のクララはもともと優秀なだけあって涙を流しながら別の卒業研究に取り組んでいる。本当に可哀想だ。


「こんちわっす」


次に入ってきたのは魔法師選別大会に兄妹で出てた兄のほうだ。


「ロイ・フォルスです。どうもよろしく」


意外にも結構適当な感じの人だった。


「あと、地属性の魔法師ですよね」

「魔塔主が喧嘩ばかりしていたら上級生も出にくいんですかね?」

「いやあ、実は魔法師選別大会の優勝者のバリーさんがその後行方不明になった事件がありまして、あとクレメンス先生が王子暗殺の罪を犯して逃亡したこともあり地の魔塔の生徒たちは皆警戒心が強くてなかなか上級生の中で参加してくれる子がいなかったんですぅ」

「え?そうしたら地属性はいないんですか?」

「い、いえ、実はいるんですけどぉ。まだ来てないだけですぅ」


コンコン。


「し、失礼します。す、すみません、ちょっと遅くなりまして」


入ってきたのは以前上級生からいじめを受けていたオレアリスという生徒だった。


その場にいたアレクたちはオドオドしながら謝るオレアリスを見てコイツ誰だっけと首をかしげる。


「じ、実はぁ、この生徒はクレメンス先生に騙されて石化されていたんですぅ。たまたま美術品の整理をしていた先生から連絡がありましてぇ。石化した生徒なんじゃないかって、そして石化解除のポーションを使ったらこの通りもとに戻ったということですぅ」

「あ、あの、オレアリスと申します。今回の研究に参加させていただいて光栄です」


オレアリスはものすごく緊張しており、常に堂々としているローズマリアとは正反対の印象だった。


「さあ、それでは始めましょうかぁ」


いよいよ共同研究がはじまる。

フラン先生とアレク達は魔法の再現のために修練場に移動した。


さすがに研究室でやったら即大惨事である。


「いまから雷の魔法の再現をしますぅ。アレク王子は4人の魔法を見て魔力の調整をしてくださいねぇ。魔力の配分はみんな均等にしてください。もしバランスが悪かったらアレク王子がチェックしてください」


それではやってみましょう!


先にアレクが雷魔法を使う。

そして4人が共同して雷魔法を再現する。


この難しい共同魔法研究は魔法師たちにとって非常に困難な研究ではあったが、幸いアレクが雷魔法を使えるのと調整やアドバイスもできるため、いとも簡単に雷魔法が再現できたのである。


「で、出来た」

「す、凄い!」

「こ、こんなにも簡単にできるなんて……」

「オホホホ!さすが私が協力しただけありますわね!」


皆、素直に驚いていたがローズマリアだけはなぜか自信満々だった。


実はロイとオレアリスは魔力の最大出力は弱いのだが、魔力調整には長けており、他の魔法師たちとの魔力を見ながら調整することが上手かった。


ローズマリアもさすがに大口を叩くだけあり天才肌なのだろう、無意識に魔力を合わせており、アイリーンもまた同じように天才肌であったために今回の魔法はいとも容易く再現できたのである。


「みんな凄いですぅ!!」


フラン先生も大きな胸を弾ませながら喜んでいる。


(い、いかん!あれはトラップだ!)


アレクはフラン先生の胸を見ないように集中する。ここでアイリーンからの怒りオーラを受けたくはない。オレアリスは純情なだけあり、恥ずかしそうにフラン先生から目を逸らした。


(あ、あれが正しい反応か)


俺もこれからあんな感じで対応しよう。

アレクもオレアリスの反応を見て学ぶのであった。

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