第64話 サーシャその後②

サーシャは実家に戻ると幼なじみのケビンと再会した。


「あっ!サーシャ!久しぶり!」


目の前には幼なじみだったケビンがいる。


もともと子供の頃から容姿は良かったケビンは大人になってとてもハンサムで格好良くなっていた。


サーシャも思わず顔を赤らめる。


「あ、あら、ケビンじゃない。久しぶりね」

「ああ!久しぶりだな。サーシャも本当に綺麗になったな!」

「え!?も、もう!冗談はよしてよ!」

「冗談じゃない。本当に綺麗になったよ」

「え?そ、そうかしら?な、なんか照れるわね」


サーシャはあたふたとして取り乱す。

ケビンは素敵に微笑んだ。


うっ!


サーシャの恋心スイッチはいとも簡単に押されてしまう。


(そ、そんなこと言われたら、と、ときめいちゃうじゃない!)


焦るサーシャ。

まだ失恋の痛手は忘れてはいないはずだ。


しかし、目の前にいるハンサムケビンのお世辞には簡単にのせられてしまうのであった。


そしてその近くでは、


(あんまりくっつくなよ)

(ただでさえ狭いんだから我慢してよ)

(あんまりうるさいと姉様に気づかれちゃうよ?)

(姉様、ケビン兄ちゃんとくっつくのかな?)

(サーシャ姉様もなんかその気になってそうじゃない?)

(なんか良い雰囲気よね!このまま付き合ってしまえば良いんじゃない?)


サーシャたちの背後ではサウロをはじめ、エリザやジェシカなどの兄弟たちがヒソヒソと話しながら所狭しとくっついて2人の様子を眺めているのであった。


失恋したばかりのサーシャではあったが、幼なじみとの再会に思わず心惹かれてしまうのであった。


しかし彼女も素直に喜ぶことは無かった。


(こんなに上手い展開になるわけないわ。ケビンもこんなにハンサムなのに未だに恋人もいないはずがないし)


猜疑心にとらわれたサーシャは思い切ってストレートに質問する。


「ケビンもこんなにカッコよくなっちゃって、こ、恋人はいないの?」


「いやあ、そんな、彼女なんていないよ」


(え!?いない?まさか、こんなにハンサムなのに?)


「どうして?」

「んー、まあ、なかなか良い女性がいなくてね。こんな田舎だとみんな早く結婚するからさ。いつのまにか1人だけ残っちゃったんだよね」

(ケビン、そんな、まさか……、ゲイ、なの?)


サーシャは知っている。そして男同士好きになる人が王都にもいた事を思い出す。


メイドたちの会話で知った情報だ。


とある貴族男性なのだが、容姿が良いのに何故か女性に興味がないと多くの令嬢が不思議がった。(ブライトではない)


ある日、夜の社交パーティーでの事。


噂の男性が人気ひとけのない庭園で護衛騎士と乳繰ちちくり合っていたとの目撃情報があり、それは瞬く間に令嬢たちの間に噂として広まっていった。


そう、その貴族の男性は同姓愛者ゲイなのであった。


貴族令嬢の中にはそうした同姓愛者ゲイの話を好む人が少なからずおり、時折同志を集めてお茶会を開いては特殊な恋愛談義に夢中になっているらしいと昔のメイド仲間が言っていた。


サーシャは思う。


(ケビンほどの男性が女性経験も無くこの歳まで独身でいるなんて……、やはり、……ゲイ?)


「ケビン、ひょっとして、お、男の人が好きなの?」


失恋したサーシャはもはや疑うことしか出来ず、ケビンを同姓愛者として見ている。


「い、いや、なんでそうなるの?僕は女の人が好きだよ?サ、サーシャは恋人いるの?」

「え?私はいないわよ?」

「そ、そっか、サーシャも美人だからとっくに向こうで結婚したのかと思ってたよ。でもサウロからはまだ結婚してないって聞いたから急いで会いにきたんだ」

「え?」

「あっ、あの、ご、ごめん、勝手に変な事言って、ま、またね」


そう言ってケビンはそそくさと外に出て行ってしまった。


「「「「あーあ」」」」


サーシャが背後を振り向くと兄弟達が所狭しと廊下の壁にくっついてこちらを見ている。


「あなたたち何やってんの?」

「姉さんが残念だなってさ」

「そうそう、姉様も素直にならないと」

「ケビンさんかわいそう」

「せっかく勇気出して来たのにね」


兄弟たちから何故か責められるサーシャ。


「なによもう!私の事はどうでも良いじゃない!」

「姉さん、ケビンはずっと姉さんの事を好きだったんだよ」


サウロはそう言って前に出てきた。


「え?」


「子供の頃からケビンは姉さんの事をずっと好きだったんだ。でも姉さんが王城に働きに行ってからケビンはずっと悲しそうだった。それでも大きくなったら姉さんの事は忘れるだろうと思ってたんだけど、ケビンはずっと1人で恋人もつくらなかったんだよ」


「え?で、でもモテたんじゃない?ケビンも結構カッコ良いから女の子たちも放っておかなかったでしょう?」

「まあね、でも誰とも付き合おうとはしなかったんだよね。結局ケビンに言い寄った娘たちはケビンと付き合うのを諦めて他の男たちと結婚していったんだ」


サーシャは驚く。


「あ、あの、その、わ、私のこと、今でも好きだったの?」


「「「「うん」」」」


背後の兄弟たちが皆頷いた。


「今からでも遅くないよ。ケビンに会いに行ったら?」

「え、ええ!?い、今から?」


「「「「うん!」」」」


兄弟たちは同時に頷く。


「あ、で、でも、ゆ、夕食の支度があるじゃない?き、今日はち、ちょっと、ね?」


ジーーー……。


無言で見つめてくる兄弟達。


「うっ、もう!わ、わかったわよ!い、行けば良いんでしょ!」


「「「「行ってらっしゃい!」」」」


「ああ!もう!」


そう言ってサーシャは慌てて家を出る。そしてケビンを追いかけるのであった。


サーシャは走るとケビンが屋敷の前にいた。

運良く彼はちょうど帰るために自分の馬に乗ろうとしているところだった。


「ケ、ケビン!ま、待って!」

「サーシャ?」

「あ、あの、こ、今度、家にご飯食べに来ない?」

「え?い、いいの?」

「ええ、ごめんなさいね。せっかく来てくれたのにあんまり話も出来なくて……」

「い、いや、いいよ、でもサーシャも帰ってきたんだったら、またいつでも会えるものね」


ケビンは嬉しそうに話す。


(ああ、やっぱり格好良いわ)


サーシャもようやく素直になったのであった。


「うふふ♡また来てちょうだい」


サーシャの微笑んだ顔はとても魅力的だった。


ケビンも顔を赤らめて照れている。


「ま、また、く、来るよ」

「その時は食事の用意をして待ってるわ」

「サーシャのご飯食べてみたいな」

「こう見えて結構自信あるわよ?」

「それじゃあ楽しみにしてるよ」


「ええ、またね」

「うん、またね」


2人は微笑み合ってその場を別れた。

ようやく来た幸せ。


「うふふ♡」


サーシャはケビンを見送ると嬉しそうに小躍りしながら家の中に戻っていった。

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