第61話 はじめての喫茶店デート
とうとう休みの日がきた。
アレクはセバスの指導のもとにデートのノウハウを教わっていた。
数多くの魔法と剣技を覚えたアレクであったが、デートに関しては全くのど素人。セバスのアドバイスも理解したかしてないかよくわからない反応だった。
とりあえず恥ずかしくないような服装にと髪型のセットや香水などセバスも張り切って準備するのであった。
「こ、これで良いのかな?」
「ええ、アレク様よくお似合いですぞ!」
セバスは涙を流しながら喜んでいる。
セバスの気遣いか、お世辞もあるが平凡な容姿のアレクが見栄えよく見えるところにセバスの本気度が窺える。
アレクも「行ってきます!」と意気揚々と出掛けて行った。
実は寝不足のアレク。
前日は緊張のあまり全く眠れなかったそうだ。
セバスはそんなアレクを励ましながら見送るのであった。
♢
アレクが待ち合わせの場所に向かっている時、アイリーンはまだ洋服を選んでいる最中だった。
本来着ていくはずの服が、当日になるとあまりお気に召さなかったようで、他のドレスも含めて色々と試しているようだった。
「あのう、そろそろお時間ですが……」
「わかっていますわ!でもこんな格好では……」
メリアは驚いていた。
いままでは何を着ても似合っていたアイリーンは常に自信に溢れており、このように服を選べないことなどなかったからだ。
「本当にアレク様に懸想されているのですね」
「えっ!?そ、そう見えるかしら」
「はい、アイリーン様とても可愛らしいです」
「もうっ!今はそれどころではなくてよ!はやく服を選びませんと」
そう言ってアイリーンは沢山ある洋服をひとつひとつ真剣に吟味するのであった。
♢
待ち合わせの時間から1時間が過ぎた。
もはや緊張し過ぎて時間のことなど忘れていたアレクだったが、さすがに少し遅いかなと次第に心配になってきたようだ。
「まさか、アイリーンに何かあったのか」
急に心配するアレク。こういったマイナス思考は気をつけないと次第に悪い方悪い方へと悪い事ばかり考えてしまうのだ。
「あまりにも可愛い過ぎて、悪い奴らに誘拐されていたらどうしよう」
アレクの脳内では妄想が進み過ぎており、そうなったらその誘拐した奴らを皆殺しにしてやるとかなり危ない方向にまで行ってしまっているようだ。
既に現実に起きているかのようにアレクは誘拐犯を撲滅するための方法まで考えていた。
「アレク様♡」
アレクが危ない妄想のなかにいるとき、
ようやく天使の声が聞こえてきた。
「アイリーン!?」
ぐはっ!!
アレクは振り向くとアイリーンのあまりにもの美しさに言葉を失った。既に魅了がかかっていたはずだが、なぜか一瞬にして黒目の中が♡になっている。
思えばアイリーンと最初に会った時はすぐに気絶して倒れていたのだ。ただの魅了で済んでいることを考えれば大した進歩だろう。
アイリーンは可愛らしく手を振りながら、テッテッテッと小走りでアレクのもとに駆けつけてくれた。
「お待たせしましたわ。ちょっとお洋服選びに時間がかかってしまいましたの」
「全然大丈夫♡」
アイリーンの洋服は少し背伸びしたような大人っぽい雰囲気の落ち着いた感じの服装だった。
しかもアイリーンの顔をよく見ると少しお化粧をしているようで、ただでさえ美しいのだが更に美少女っぷりに磨きがかかっていたのである。
これがアイリーンの本気だった。
「アイリーン♡その格好よく似合うよ♡」
「ありがとうございますわ♡」
(頑張って選んだ甲斐がありましたわ)
アイリーンはホッとする。
ただいつものアレクならばアイリーンがどのような服を着ても喜んで「良く似合う♡」と言っていただろう。
しかしアイリーンの本気はもはや神がかっていたようだ。
(ああ、なんて可愛いんだろう)
アイリーンの超越した美しさによってもう少しでアレクの意識は天国に行くところだった。
「それでは行きましょうか」
今回のデートだが、本来ならば男性であるアレクが先導するべきである。しかし、あらかじめアイリーンの方で既にデートプランが出来上がっており、アレクが口を挟むことも出来なかった。
悲しくも今回のデートにおいてアレクは男気も見せることもできなかったようだ。
そして情けなくもアレクはアイリーンの言うがままについていくだけであった。
「ここですわ!」
アイリーンと一緒に来たお店は王都女子に大人気のフルーツパフェというデザートを出すお店だった。どうでもいい情報だが初代アルテマ王もフルーツパフェをこよなく愛していたらしい。
ちなみにお店の名前は「フルパ」である。
「ここのデザートが有名ですの!」
甘いものが大好きなアイリーンはずっと前からここに来たかったらしい。しかし一人では勝手には行けないらしく、今回のデートで必ず行くと決めていたようだ。
裏事情として、アイリーンが王都の屋敷で静養している時にこの店の存在を知ったようだ。甘味大好きのアイリーンはどうしてもこのお店に行きたかったのだが、ずっと家族に反対されていたらしい。
それでも諦めきれずに内緒でメリアを誘ったものの、側使いであるメリアにもあっさり断られたので強引に今回のデートを企画したのであった。アレクに懸想しているのも事実だが彼女のスイーツ愛はそれに勝る。
ついでにデートと言えば体裁もつく。
ということで、つまりここがアイリーンにとっての今回のデートの目的であり本命なのであった。
店内に入ると見たことのある女子が二人いた。
ユランとアリスだ。
「げっ!?」
「カエル王子じゃん!」
剣術大会で戦った二人はその後仲良くなったそうで時々二人でデザートを食べに来るそうだ。
こちらもアイリーンと来たところを目撃されたのでお互いになんか気まずくなっていた。
(あれ、美少女アイリーンじゃん!)
(あれが学園の男子に一番人気のアイリーンなの?)
(アイリーンが入る前はローズマリアが一番だったらしいよ。アイリーンはまだ一年生なのとあのカエル王子の婚約者だからみんなまだチャンスがあると思っているみたいよ)
(へぇー、でもデートに来るぐらい仲が良いのよね?)
(……そうみたいね)
二人はヒソヒソと話している。
そんな二人をよそに「丸聞こえなんだが……」とアレクは困惑していた。
アイリーンとアレクは店員に誘導されて席に座る。
「特大いちごパフェを三人、いいえ、二人分お願いしますわ!」
もはやこれがデートの目的なのかと思うほどアイリーンは意気揚々とデザートを注文するのであった。
「はい、かしこまりました」
注文を受けた店員はさっそく厨房に入って行った。
「ここのいちごパフェが美味しいらしくて一度食べに行きたかったのですの」
アイリーンが可愛い。
機嫌の良いのがもっと良い♡
アレクはただアイリーンを見ているだけで幸せだった。
「お待たせ致しました」
店員が持ってきたのは超特大のいちごパフェだった。
パフェの高さは30センチほどある。
いちごは見ただけで10個以上。
パフェの器は20センチ程だが、その上には10センチほどそびえ立つようにツノの立った生クリームがのっており「え?これ食べ切れるの?」とアレクが不安に感じるほどの量と愛が詰まったスイーツだった。
「いただきまぁす♡」
アイリーンは「美味しい!」と幸せそうにパフェを頬ばる。
そんなアイリーンをアレクは見ているだけで幸せだった。
「さあ、アレク様も一緒に食べましょう?」
デザートスプーンを渡されて巨大なパフェを食べはじめるアレク。
「いただきます」
アレクは一口パフェをほおばる。
「美味しい!」
確かに有名なだけある。
アレクも夢中になってパフェを食べ始めた。
初デートのはずなのだが、二人は会話もせず無心になって巨大パフェを食べている。
しばらくして、
「あ、甘い……」
さすがにアレクも半分ぐらいから生クリームの甘ったるさに嫌気がさしてしまいスプーンが止まってしまう。
恐る恐るアイリーンを見てみるとあっちのパフェの残りはすでにあと少ししか残っておらず「美味しいですわー」と至福の表情で平らげようとしている。
一体彼女のお腹のどこに入ったのかと思うほど変化のなさに驚いた。
「あら?アレク様どうなさったの?」
「うん?いやあ、ちょっとお腹がいっぱいになってきちゃってさ」
「そうでしたの?それなら私がいただきましょうか?」
「えっ?いやっ!さすがにそれは」
「あら、嫌ですわ、こんなはしたない事を言ってしまい申し訳ありませんわ」
「いいんだよ、僕も頑張って食べるから」
「そうですわね。それじゃあ私ももう一ついただこうかしら」
「え!?」
「本当に美味しいですわね♡ここのいちごパフェ♡」
ウフフ♡
すごく幸せそうなアイリーンを見て今度は少し怖いと思ってしまったアレクだった。
アレクとアイリーンの初デート。
それはアイリーンにとって念願の特大(巨大)いちごパフェを食べるという、そしてアレクにとっては無事完食するというミッションから始まった。
(あれ1人で2つも食べれんの?)
(ちょっとヤバくない?あれ確かカップル2人で一緒に食べるパフェだったよね?)
(そうそう、カップル2人でひとつのパフェを仲良く食べるのが流行ってるって聞いてた)
(アイリーン1人で2つも食べてる)
(カエル王子もドン引きしてるね)
(あれは仕方ない)
(しかしあれだけ食べて気持ち悪くならないのかな)
(普通なるでしょ)
(よね)
ユランとアリスはヒソヒソと話している。
どうやら特大パフェはカップルで食べる代物だったようだ。
(どうりで)
アレクも納得の量である。
しかし、目の前にいる超美少女は単独でペロリとひとつのパフェを食べ、また次のパフェを食べている。しかも、もう半分ぐらいは食べているようだ。
ちなみにアレクはようやくパフェ3分の2程に達したところだ。パフェ三口を食べたら口直しに紅茶を飲むというサイクルをひたすら続けており、今のところ何とか食べているところだ。
「美味しいですわね♡」
ご満悦のアイリーンは可愛い。
しかし、目の前の巨大パフェを平らげるところ見ればまるでフードファイターのようだ。
アレクは初めて見る大食いにただ驚くばかりである。
(……すげえな)
周りの客も驚いた顔をしている。
アイリーンが幸せそうにパフェを2つ完食した時にはアレクもようやくパフェを食べ切ることができた。
(ま、間に合った……)
アイリーンと競争していたわけではないが、さすがにアイリーンがあの巨大パフェを2つも食べているのに自分はひとつ分も食べられないというわけにはいかない。
彼なりの意地であった。
アレクは「当分甘いものはいいや」と思うのであった。
しかし、アイリーンは「また次も一緒に行きましょうね♡」と言ってくれたのでアレクも覚悟を決めるしかないのであった。
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