第59話 ローズマリアの改心

人生というものは思い通りにはいかないものである。


全ての人ができるなら昔に戻って人生をやり直したいと思うことだろう。


テストで赤点をとった時、


好きな子に振られた時、


受験に失敗した時、


結婚に失敗した時、


病気になった時、


人生の選択を誤った時、


そんな時は皆もう一度人選をやり直せたらと思うだろう。


この物語はそんな人たちと同じ心境に陥ったある侯爵令嬢の人生やり直し物語である。


そんな上手い話しがあるかって?


それを言い出したら異世界ラノベの存在意義は無いに等しいだろう。


皆、潜在意識では人生にやり直しを求めているのかもしれない。


そんな気持ちを持っている人たちがいるからこそ、こうした物語は読まれていくのである。



アレク暗殺未遂の事件によって数多くの貴族や学園教師たちが捕まった。


多くの者たちが失脚していくなかで第二王子派の有力者の一人であるローズマリアは窮地に追いやられる状況となった。

 

しかし幸いにしてローズマリアは今回の暗殺事件には関わっていなかった。


また侯爵家の立場の父であるクラウス侯爵は第二王子派とは距離を取っていたことや兄のブライトも中立派としてどこにも関与していなかった事もあり、まだ年若いローズマリアだけの処罰も難しかろうと国王陛下の特別の恩赦によりローズマリアの罪は不問となったのである。


(これはサーシャの刑減のためでもあった)


ローズマリアもよほど懲りたのか以前より少し大人しくなっていた。


というよりもかなり別人のように大人しくなっていたのだった。


「今日も天気が良いですわね♡」


あの傲慢で感情の起伏が激しい令嬢が、突然に去勢された馬の如く大人しくなっていたのだから従者たちは驚いていた。


父であるクラウス侯爵も何事かと不思議に感じており、よほど今回の事件が懲りたのだろうと思っていたのである。


しかし、事実はすこし違っていた。




ローズマリアは死刑台の上に立っていた。


両手は鉄の鎖で繋がれており足にも鎖が取り付けられていた。


「ローズマリア!アレク第一王子暗殺の罪により其方を絞首刑に処す!」


「う、嘘よ、こんなこと認められないわ!」


「ローズマリアを殺せーーー!!!」

「罪人は死をもって償えーー!」


王国の人々はそれぞれにローズマリアに罵声を投げかける。


父のクラウスは瞑目しながらもローズマリアの最期を見届けようとしていた。


兄のブライトは部下である団員たちに引き止められて涙を流しながら「ローズぅぅ!!何故だぁぁぁ!!」と叫びながら悲しそうにローズマリアを見ていた。


第二王子であるイスタルはアレクの隣に座っており無表情のままでローズマリアをただ見ているだけだった。


「イスタル様!国王陛下!何故にこのような仕打ちを私に?」


「兄上を殺そうとしたのはローズ、君だ。せっかく仲良くなれたのに残念」


イスタルはそう言った。


(ずっと僕の世話をしてくれると思ったのに……)


憐れ、イスタルにとってローズマリアは養ってくれる優しいお姉さんでしかなかったのかもしれない。


「い、嫌、嫌よ!こんな死に方なんて!」

「黙れ!」


国王がそういうとローズマリアは絞首台に乗せられる。


首にゴツい縄をつけられた。


「ああああああ、ゆ、許してぇぇぇ、」


ローズマリアの両目からは涙が溢れている。


「もう許してぇぇぇ、は、反省しますからぁぁぁ、」


ローズマリアは泣き喚きながら国王に縋る。


「刑を執行せよ!」


ガタンッ!!


「あああああ、うっ!!」


オオオオッッ!!!


国民の歓声と共にローズマリアは絞首台にてその儚き命を潰えた。



「はっ!!!」


ローズマリアは目覚めた。


「こ、ここは?」


薄暗い周囲を見渡すとどうやら自分の寝室であることがわかった。


「ゆ、夢だったのかしら、」


あ、あれは本当に夢?


で、でも確かに私は絞首刑となって死んだはず。


不思議な感覚だった。


朝、再び目が覚めると従者たちがローズマリアの仕度にとりかかった。


「ねえ、今日は何日?」

「え?今日はルビーの月の三日でございます。

「え!?」


魔法師選別大会の次の日じゃない!


たしかこの日はヘンリー教頭に呼ばれてクレメンス先生と話をしていたはずだったわ。


ローズマリアはヘンリー教頭に呼ばれていた。


そしてクレメンスがメイドをたぶらかしてアレクを毒殺するという計画を教えてもらっていた。


そしてローズマリアは石化の魔法を使ってアイリーンたちを石化して邪魔するという役割を請け負うことになっていたのだ。


「も、もしかして時が戻ったというの?」


う、生まれ変わったのかしら。


だとすれば、神が私にやり直しの機会を与えてくださったのだろうか。


「確かに私は死んだはず」


震える手を見ると両手には鎖の跡が残っている。


「え!?」


あの日、罪人として両手につけられた鎖はローズマリアの美しい肌に食込み、血が出て痣になっていた。


そして両手の鎖の痕跡はたしかにそれが事実であったことを証明していた。


そう、確かにあれは真実の世界だったのだ。


鏡を見てみるとローズマリアの首には赤い痣が残っており、明らかに絞首刑で縛られた縄と同じところだった。


「ああ、ということは本当に時間だけが戻ったのだわ……」


この痣は自分の罪を忘れるなということ。

神よ!私をお救いくださり本当にありがとうございますわ!


ローズマリアは突如、信仰心に目覚めるのであった。


「あら、こうしてはいられないわ」


ヘンリー教頭との約束を断らなくてはならない。そして今後は一切アレク王子暗殺への関与はしないことを誓う。


「もうイスタル殿下と一緒にいられるだけで幸せですわ」


もう過ぎた欲に手を出すのは止めよう。


こうしてローズマリアは改心するのであった。





アレクが学園に行くと何故かローズマリアにばったり出くわした。


「これはこれは、アレク王子、ごきげんよう」


ローズマリアは初めてアレクに挨拶をする。

魔法師選別大会では全く無視していたのに。


「あ、ああ、ごきげんよう」

「あら、まだ私は貴方様に名乗っておりませんでしたかしら」

「父上たちには挨拶していたと思うけど」

「そうでしたわ。失礼いたしました。私はカルバン侯爵が娘、ローズマリア・カルバンでございますわ。貴方様の弟君であられるイスタル殿下の婚約者でございます。以後お見知りおきを」


それからというものローズマリアはアレクに対しては臣下としての態度を取るのである。


こうして未来は変わった。


本来死刑になるはずのローズマリアは王の恩赦により幸いにして命を永らえることができた。


「もう馬鹿な事はしませんわ」


全ては愛するイスタル様のために。


愛する者と共にいられるだけで幸せである事を悟ったローズマリアであった。


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