第56話 アマリアの観察日誌④

「ふぃー、今日も疲れたニャー」


自分の部屋に戻ったアマリアは猫語を喋る。


「ダンの奴め、最近コキ使いまくって本当にウザいニャ」


プリプリと怒るアマリアだが権力には弱い。所詮は下っ端である。また一部ではあるが自由に行動できるのも下っ端だからである。


こないだは海底基地に下見に行ってきたのだが基地の工事はかなり進んでおり、あとは内装や機器の設営などが残っていた。照明や上下水道関係、空調関係の設備などはしっかりと機能しており、あとは仲間たちの部屋の割り振りや調達した海底資源などの有効活用などやるべき仕事は盛りだくさんだ。


「仕事ばかり増やしてきて本当に嫌になってくるにゃ」


本日2本目のコーラをぐびぐびと飲み始めるアマリア、体はダイエットの成果もありスリムになってきているが、下っ腹はポコッと出ている。宇宙服は全身ぴっちりとしているため下っ腹は結構目立つようだ。


「次はポテチ〜♪」


うすしおのB igサイズの袋を破り、一気に五枚以上を掴んでは口に放り込む。


「うんまいにゃ♪」


最近はストレス発散を食い物で消化しようとしているアマリアだが、カロリーは消化しきれていない。余分なカロリーは地球人と同じく自然の摂理に従って脂肪として体内につくられるのであった。


「そういえばあの少年はどうしとるかにゃあ」


一応はまだ記憶に残っているアレクを観察するアマリア。しかし、今度は映像を見て衝撃が走る。


「せ、石化!?」


そんな魔法とはいえ、あの星にはまだ存在しない技術のはずだ。完全にオーバーテクノロジーであり、それは他の星の者が介入している証拠でもあった。


「あのクレメンスとかいう奴はなんなのかしら」


驚いて素にもどるアマリアはすっかりと猫語を忘れて普段の口調に戻っている。


そしてちょうどアレクがクレメンスの顔を切り付けて正体を晒したところを見た。


「あ!あいつ爬虫類型宇宙人レプタリアンじゃない!」


まさかアレクを送った星にもうレプタリアンが入っているとは思ってもいなかった。


「あっちゃーー、嫌なもの見ちゃった」


飯が不味くなる。


そう言いながらもポテチはしっかりと食べるアマリア。こんなことでも食欲が無くなることはなさそうだ。


「しかし、石化の解除はあの時代には無かったはずよね」


んーーーー。


「ちょっと規則違反だけど少し介入してあげようかしら」


そう言ってアマリアは通信機を手に取った。


空間も時代も違うのだが、宇宙技術は遥かに進んでいる。


アマリアは通信機を起動させて精神統一をしながらチャンネルを合わせる。


時代。


空間。


星。


国。


そしてアレクへと意識をつなげる。


「もしもーーし、私の声が聞こえるかにゃ?」

「え!?誰」

「うーーん、そうね、私は猫の神。猫の神様にゃ!!」

「……なんか胡散臭いな」

「にゃんだって!?せっかく私が石化を治す方法を教えてあげようってのにそんな態度で良いのかにゃ?」

「うえぇぇぇ!?そ、そうなんですか?」

「うふふん、もっと私を敬いたまえ!」

「あ!はい!敬います!ぜひ石化の解く方法を教えてください!」

「そうねーーー、それじゃあ、用意するものを言うね」


そう言ってアマリアはアレクの世界にある物を伝えて石化を解く方法を教えた。


「ふふふん♪良いことをしたら気分が良いにゃ♪」


ご機嫌のアマリア。


本日3本目のコーラを飲む。肥満もそうだが虫歯にならないのか心配だ。


「アマリアいるか?」


びくぅ!


いきなり上司のダンから通信が入る。


「な、何ですか?」

「いま通信機を使わなかったか?」

「え、ええ、それがどうかしました?」

「何故通信機を使ったのだ?」

「ちょっと久しぶりに実家に連絡したんです」


アマリアは平気で嘘をつく。


「ここでは複数の惑星から来た宇宙人が同じコロニーに居住している。むやみに通信機を使わないように気をつけなさい。それこそ違法に傍受されることもある」

「はい!わかりました」


アマリアはビシッと敬礼する。


ダンはアマリアを始終疑いの眼差しで「気をつけるように」と念を押して通信を切った。


宇宙協定というものがある。


他の惑星の者たちは安易にその星に介入してはならないという規則があるのだ。


これを守らずに他の星を侵略目的で介入しているのがクレメンスのような爬虫類型宇宙人レプタリアンたちである。


普通なら介入することなどないのだが、今回は他の宇宙人が勝手に介入していたためにアマリアも仕方なく助け舟を出したということだった。


しかし、アマリアのこのアドバイスが後々この星の歴史を大きく変えてしまうということになるとは今の彼女は知るはずもなかった。


つまりバッチリ介入しちゃったのである。


もうしばらくするとそれが明るみになるのだが当の本人はそんなことも知らずに呑気にポテチとコーラを嗜むのであった。

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