第53話 クレメンスの正体
サーシャが毒に侵された。
毒に苦しむサーシャにアイリーンたちは解毒薬を飲ませる。
しかし解毒されずに苦しみ続けるサーシャ。
フラン先生が持ってきた(アレクの作った)エリクサーによってサーシャは無事に解毒できた。しかしサーシャは解毒されても魅了の魔法が解けずに未だ眠り続けるのであった。
そんなドタバタのあった次の日。
アレクはサーシャの魅了解除の方法を父である国王に聞くために、フラン先生を通して学園には急用で休むと言って、急いで王城に行くことにした。
こうしてアレクは一人、馬車に乗って王城へと向かう。アレクは王城に入るとすぐに父である国王の執務室へと移動した。
「よくきたな」
アレクサンドル王はアレクを優しく出迎えてくれた。
「父上、サーシャの件ですが」
「ああ、昨晩アイリーン嬢の使いから聞いた。あのメイドには悪いがそなたを守れなかったのは残念だ。そなたはメイドにかかった魅了の魔法の解き方を知りたいそうだが、こちらとしてはあのメイドはこのまま実家に送るつもりでいる」
「ちょっと待ってください!何故サーシャを実家に戻すのですか?」
「もはやあの者の任は解いた。そなたを守れなかった以上、あのままそばに置いておくことはできぬ」
「嫌だ!サーシャは私にとって姉のような存在です。あんな状態で実家に送り返すなど私には考えられません!」
アレクがそう言うと王は困った顔をする。
「しかしな。魅了の魔法が解けたところであの者はメイドとして使い物にはならんぞ?なにせそなたを毒殺しようとした罪は消えぬのだからな」
「それは操られていたからでしょう!あいつに罪はない!」
「そなたの温情で罪を消したとしよう。しかし、そんな甘い考え方をする国の
「そ、それは」
「その甘さにつけ込む輩はそなたを利用できると思うだろうな。国王たるもの、厳しい判断をせねばならん時もある。そなたのような甘い考えだけでは通用せんぞ?」
「……わかりました。しかし、サーシャの魅了の魔法だけは解いてください。お願いします」
「何故だ?魅了の魔法を解いたらあのメイドは己の罪と失った恋に苦しむのだぞ?それでも良いのか?」
「私は構いません。サーシャなら乗り越えられると信じています。このまま眠りについたままではやはり
アレクは悔しそうに拳を握る。
国王はそんなアレクを見て深くため息を吐いた。
「そうか、わかった。今回はそなたの意思を尊重しよう。セバスを連れて学園に戻りなさい」
「え?セバスですか?」
「そうだ。今後はセバスに任せる。そなたはもう帰りなさい」
「はい、わかりました」
父王に促されて結局アレクは学園に戻る事になった。
「くそっ!」
アレクはやり場のない怒りに苦しんだ。転生してからというもの、過去世の記憶があるだけに物心はとっくについてきたが、それでも幼い頃よりサーシャにはずいぶんと世話になったのだ。あの口煩いところやキツい性格も今となって側に居なくなった途端に淋しさという感情が胸に底から込み上げてくる。
思わず涙を流しそうになりアレクは懸命に堪えた。
「ま、負けるもんか!」
これからの立ち振る舞いが自分の将来にも影響するのだ。アレクも自身の将来も含め、サーシャをどのように救うべきなのかを改めて考えることにした。
同時にこの事件はアレクにとって将来王になる身としての初めての試練だったともいえる。
♢
クレメンスはサーシャがアレク毒殺に失敗したことを知った。
それはアレク殺害の容疑者としてメサーラ学園長がクレメンスのもとに訪れたからだ。そしてクレメンスを捕獲するために王国騎士団たちが大勢押しかけてきた。
(ふふふ、残念ながら潮時ですかね)
せっかく面白くなってきたところなのにと仕方なさそうにクレメンスは逃げる準備をする。
「まあ、色々と楽しませてもらいましたからお返しをしておかないといけませんね」
クレメンスはそう言って逃げつつも、ある場所へと向かった。
♢
アイリーンはサラと共にサーシャの警護をしていた。おそらく真犯人はアレク毒殺の隠蔽のためにサーシャを殺しにくるだろう。
しかしサーシャは未だ眠りの中におり目覚めようとしない。
「まったく、困ったものですわ」
アイリーンはため息を吐きながら、アレクが戻ってくるのを待っている。しかし先に戻ってきたのはメリアの方だった。
「アイリーン様、そろそろ標的がやってくるそうです」
「やれやれですわね。まあアレク様が戻る前には早く片付けたかったと思っておりましたし、タイミングは丁度良いですわ」
メリアの背後にはガスタル辺境伯の部下たる暗殺者たちが待機していた。
「見ものですわね」
「油断は禁物かと」
「貴方たちがいる限りは大丈夫よ」
そうですか。それなら安心ですね。
!!!??
アイリーンとメリアは驚いて後ろを振り向くと側にいたはずの暗殺者たちがすでに石と化していたのである。
「こ!これは!」
「な!何!?」
「せっかくです。格の違いを見せてあげましょう」
「メリア!」
「はい!」
アイリーンは手に魔力を込めて持っていた短剣に水魔法を付与する。小声で魔法を詠唱し、詠唱による言霊は物質となって具現化する。
「ウォーターストーム!!」
アイリーンの短剣の先からは、コポコポと音を立てて大量の水の渦が現れた。
それはまるで消防士が火事の消火のために使う放水のように、アイリーンの水の魔法はクレメンスに向かって勢いよく放たれる。
しかしクレメンスは平然とした顔で立ったまま動こうともしない。
「ふふふ、面白い手品ですね」
「何ですって!?」
よく見るとクレメンスは手に何やらカードを持っていた。カードには魔法陣が刻印されており、アイリーンの水魔法が接近する直前に魔法陣が光出す。
「これをご覧ください」
クレメンスの手持ちのカードにある魔法陣の力によって、水の渦はクレメンスの手前でいともたやすく弾かれてしまった。
「な!?」
アイリーンの次にメリアが風の魔法を操りながらクレメンスの持つカードの手の甲にむけて勢いよく短剣を投げた。しかし投げた短剣はクレメンスの手の甲に刺さらずに弾かれる。
「な、何故!?」
アイリーンはメリアに続いて魔法を詠唱すると、次には別の水魔法を行使する。
「ウォーターレーザー!」
水は細く打ち出されまるでレーザーのようにクレメンスに向かって放たれるが、水のレーザーはまたもやクレメンスの手前で弾かれてしまう。
弾かれた水魔法のレーザーはそのまま勢いを止めることなく、アレクの部屋の壁を切り裂いた。それはまるで熱したナイフでバターを切るように壁は容易く切り裂かれ、同時に壁にかけてあった絵画や手前に飾ってあった花瓶なども真っ二つになってしまう。
「ふふふ、そうやって魔法の名前をいちいち言わないといけないのは不便ですね。なんなら私が指導してあげましょうか?」
「ふざけるな!」
「おお!やっと本性をだしましたか?麗しの姫君も勇ましいお転婆娘だったのですね?」
「ウォーターレーザー!」
「ふふふ、せっかくの魔法も当たらなくては意味がありませんよ」
クレメンスはクスクスと笑いながら次々と繰り出されるアイリーンとメリアの攻撃を難なくかわしている。それはまるで、あらかじめ相手の動きが予測できているかと思うぐらいに正確に動いていた。
「そろそろ潮時ですか、時間がきてしまいましたね。いやあ、楽しませていただきました。お礼に素晴らしい魔法をお見せしましょう」
クレメンスがそう言うと指先2本でポケットからもう一枚カードを取り出す。そのカードは禍々しいオーラを放っており、それはアイリーンたちに向けられた。
「ご覧ください」
二人はクレメンスの言葉につられてしまい、思わずカードを見てしまうと急に体が硬直し、身動きが取れなくなってしまう。
「油断した、わ」
フフフ……。
クレメンスの魔法によってアイリーンとメリアは一瞬にして石化してしまう。
「さあ、これで終了です」
クレメンスがそう言うと、コツコツと歩きながら眠るサーシャのもとへと近づいていく。
「そこまでだ!」
「おっと」
アレクは急いで部屋に入るとすぐに剣を抜き駆け足でクレメンスに向かって勢いよく剣を振り下ろした。しかし剣は空を斬り、残念にもアレクの攻撃力はクレメンスに避けられてしまう。
「おやおや、やっと主役の登場ですか。遅かったじゃないですか。あまりにも遅くてお二人とも石になってしまいましたよ?」
「何?」
アレクはすぐ側にあった石像を見た。よく見るとその石像はアイリーンとメリアによく似ている。
「……そ、そんな、まさか」
「せっかくです。貴方もお仲間に入れてあげましょう」
クレメンスがもう一度カードを取り出そうとした時、
「やれやれ、随分と舐められたものです」
気がつけばクレメンスの背後に一人の男がいた。クレメンスは驚いてカードを出そうとするがさっきまでカードを持っていた手が無いことに気づく。その男は手に短刀を持っており、それはクレメンスの手首を容易く斬り落としてみせたのである。
クレメンスが慌ててカードを探そうと下を見ると床にはカードを持った手が落ちている。
さすがに冷静沈着なクレメンスも急に手首を失ったためか、ずいぶんと取り乱しているように見える。
「貴様!!だ、誰だ!」
「セバス!」
「アレク様、ここはワシに任せてくだされ」
セバスはそう言うと持っていた短剣を一振りする。
それは空気をも斬り裂くような一閃。
「なっ」
セバスの攻撃にクレメンスは一言しか発することが出来ず、気がつけばクレメンスの視界は床からセバスたちを見上げているのであった。
「セバス!」
アレクが近寄ろうとするとセバスがストップといってアレクを立ち止まらせる。
「まだ終わっておりませんぞ」
セバスがそう言うとクビのないクレメンスは落ちた自分の首を手に取り自らくっつけた。
「ふふふ、驚きました。こんなに強い者がこの国にいようとはな」
「クッ!」
セバスはもう一度攻撃する。
しかしクレメンスはもはやなりふり構わずにセバスの短剣を手で受け止める。しかも先程切ったはずの手がいつの間にかもとに戻っている。
「な、何だと!?」
さすがのセバスも驚きを隠せない。
「ふふふ、このような強き者と戦うのは久しぶりだ。楽しくなってきた」
クレメンスの口調が変わり、気がつけばクレメンスの体が徐々に大きくなっていた。
細身だったクレメンスの身体はムキムキと筋肉が盛り上がり、いつのまにかマッチョなボディビルダーのようになっている。
「さあ!楽しませてください!」
歓喜したクレメンスは正拳突きとして素早く拳を突き出した。
セバスの胸には弾丸のような拳を撃ち込まれる。それをセバスは短剣で受け止めようとしたがクレメンスの拳の勢いを殺せずにそのまま壁に吹き飛ばされてしまう。セバスは壁にめり込んで気を失ったようだ。
「おや、もう気を失ったのですか?まだまだこれからですよ」
さっきまで逃亡しようとしたクレメンスだっだが戦闘で興奮したのか、鼻息を荒くしてのしのしと歩き、トドメを刺すべくセバスに近寄っていく。
「やめろ!」
アレクは魔力を込めて剣に纏わせた。
「ソニックブーム!」
衝撃波はクレメンスの体を突き抜けて吹き飛ばす。
ついでにアレクの部屋の壁も……。
いまは後片付けのことなど考えられないとアレクは魔力を込めて更に追撃する。
「ソニックブーム」
今度は三連発だ。
クレメンスは腕を組んで防御するが今度は受け止め切れない。クレメンスは吹き飛ばされて壁に背を打ち付ける。
「やりますね」
「まだまだ!」
アレクは魔力を込めまくってソニックブームを連発する。おびただしい数の衝撃波は壁に打ち付けられたクレメンスを容赦なく叩き込んだ。そして衝撃波を受けるたびにクレメンスは壁にめり込んでいく。セバスが同じ壁側にいなくて本当に良かったことだろう。巻き添えとならずクレメンスの側の壁はもはやボロボロボコボコになっている。
ボコっ!!
おびただしい衝撃波によってクレメンスの後ろの壁はとうとうガラガラと音を立てて崩れてしまった。壁は壁ではなくなり、なんと外の景色が見えるようになってしまった。
「ふふふ、仕方ないですね、もはや退くしかありませんか」
そう言うとクレメンスは壊れた壁から外に向かって逃げ出した。
「逃すか!」
アレクは風の魔法を自分自身に使い、猛スピードでクレメンスに近づくと全身を魔力で包みながら剣を振り下ろす。
「くらえ!」
アレクがクレメンスの顔を切り付けると切れた顔の皮の切れ目から別の顔が見えた。それは爬虫類のようで鱗のついた緑色の肌。目は黄色く黒くて縦に細い瞳孔がアレクに目に入る。
「おのれぇ!」
クレメンスは初めて怒りをあらわにする。
しかしタイミングが良いのか悪いのか、
「いたぞ!クレメンスだ!」
少し離れたところからメサーラ学園長と共に多数の王国の騎士団たちが駆けつけてくれた。
アレクは魔力を込めてもう一度クレメンスを斬る。ついでに特大の火魔法も付け加えた。
「メガフレア!」
アレクは巨大な火球をクレメンスに向けて放った。
クレメンスはアレクの攻撃を受け止めきれずにまともに火球を受けてしまい後ろに退いた。
火球を受けたクレメンスはブスブスと煙をあげて所々火傷をしているのか黒くなっている。
「もはやこれまでですかね」
クレメンスがそう言うと今度はフワッと浮かび上がる。
アレクが浮かぶクレメンスを見上げると上空にはなんとUFO(未確認飛行物体)が飛んでいたのだ。
「うええ!?あ、あれは、UFO!?」
「それではまた会いましょう。今度は確実にあなたを殺してあげますよ」
クレメンスはそう言ってUFOに吸い込まれるように姿を消した。
そしてクレメンスを乗せたであろうUFOは一瞬にして空の彼方に消えていったのである。
「う、嘘だろ……」
俄には信じ難い光景にアレクはただ驚くばかりだった。そしてその場に駆けつけたメサーラ学園長や王国騎士団の兵士たちも呆然となって空を眺めるだけだった。
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