第42話 学園長は憤る

「あー!あのバカ王子はもう!!」


メサーラ学園長は怒っていた。


本来ならば学園長として剣術大会で優勝したアレク王子を褒めてやるべきなのだが、事態は思わぬ展開となっており、どうやら素直に喜んではいられない状況らしい。


実はアレクが優勝した際、彼が魔法を使って勝ったのではないかという疑惑の声が運営内部からあがったのだ。


しかしその証拠は見つからない。


そして魔法を使っていたのならあそこまでカインとは苦戦はしなかっただろうとメサーラは考える。


ただ魔法師の何人かはアレクの体から魔力を感じたらしく、何らかの魔法を使ったのではないかと言っている。何の魔法を使ったのかは知らないが、もし使っていたのなら優勝を取り消さなくてはならない。


しかも、それとは別にカインの方も呪いの魔法でアレクを弱体化させていたという情報まで入ってきた。


一応、犯人としてカインと何故かローズマリアの名前が挙がってきたものの、当の本人はアレクに敗れて部屋に閉じこもっており、さすがのメサーラも負けた方に不正があったのではないのかなどとカインを呼び出して問い詰めることはできずにいた。


ローズマリアの方も一応は侯爵令嬢であるため、こちらで確実な証拠を見つけ出さなければ立証する事も出来ない。


面倒この上ないことだ。


「はあ、もう放っておこうかしら」


もはや現実逃避したくなっていた。次第にメサーラの胸の内に抑えられないほどの怒りの炎が燃え上がる。


そうよ、

そうだった……、

そうだったわ……、

そもそもアイツが原因なのよ!

なぜ私があの問題児のためにいちいち気を揉まなくてはならないのよ!!


「アレク王子を呼んできなさい!」


怒りの形相となったメサーラを見た側近たちは慌て、駆け足でアレク王子を呼びに行った。


しばらくして、


「メサーラ学園長、アレクです」


扉のノック音と共にアレクの声が聞こえてくる。


「入って良いわよ」


アレクが学園長室に入るとそこにはアイリーンも一緒にいた。


「私はアレク王子だけ呼んだはずだけど?」

「私はアレク王子が決勝戦で呪いをかけられた事を知っています。その証言としてここに参りました」


アイリーンの発言にメサーラは訝しむ。


「どうしてそんなことがわかったの?」

「はい、決勝戦ではアレク王子が明らかに弱っていましたので、何かおかしいと思い調べてみると我が領地の詳しい者から呪いの類いをアレク王子がかけられていると教えてくれました。証拠はありませんが、あるとすればおそらくカイン様が所持しているはずです」

「それでは証拠としてまだ不十分ね。カインが呪いを使ったかどうかではなく、アレク王子が魔法を使ったのかを聞いているだけなのよ」


「あ、オレ、魔法使いましたよ?」


アレクの一言でメサーラ学園長は固まった。


「ええ!?あなたなんで魔法使ったの?魔法を使うと失格になるのわかってなかったの!?」

「いやあ、本当に力が出なくて、一か八かで身体強化の魔法を編み出したんです。そうしたら力が出てきたのでちゃんと闘う事が出来ました!」


なんの迷いもなく馬鹿正直に告白するアレクの発言にメサーラはすぐには理解できなかった。


「……?それは魔法なの?」

「んーーー、いやあ、まだちゃんとは出来ないんですよね。朝の鍛錬でも身体強化の魔法をやってみたんですけど、全然出来なくて」


実は全身に魔力を纏わせて呪いの効果を弾いただけなのだが、お互い真相を知らないので理解が進まない状況となった。


その場にいた三人はしばらく黙考する。


「アレク王子、ちょっと此処でその魔法を使ってみてくれない?」

「いいですよ」


アレクは身体強化の魔法を使った。


「どうですか?」

「んー、よくわからないわね。単に魔力を全身に纏わせているだけにしか見えないわ」


アイリーン「わたしもそう思います」

アレク「実はこの魔法まだ完成してないんですよ」

メサーラ「でも決勝戦では同じ魔法を使ったのよね?」

アレク「ええ、まあ、そうですね」

メサーラ「不思議ね。わかったわ。とにかく違反にならないような魔法みたいだから優勝は優勝で良いと思うわ」

アレク「あっ、そうなんですね」

アイリーン「アレク様、良かったですね!」


アイリーンは喜んでアレクの腕に抱きついた。アレクの鼻の下が伸びる。


メサーラ「まあ、私の方から運営に言っておくわ。もう帰っても大丈夫よ」

アレク「あ、はい、ありがとうございます」

アイリーン「ありがとうございました」

 

アレクとアイリーンが部屋から出ていくとメサーラは深く椅子に座り溜息を吐いた。


「はぁー、あの子は何でこんなに問題ばかり起こすのかしら」


メサーラ学園長は胃の辺りをさすりながら悩んでいた。


アレクはまだ一年生。


トラブルメーカーの学園生活はまだまだこれからである。考えただけで気が重くなるメサーラだった。



自室に戻ったアイリーンは考える。

試合中、アレクが魔法を使ったという不正というか誤解はなんとか解消された。


しかし、カインが使ったであろう呪いの原因は未だ見つかってはいない。


アイリーンは決意する。


「私が証拠を探し出してみせますわ!」


ローズマリアが証拠を持っているとアイリーンは確信しており、ローズマリアの行動を絶えず見張るように部下たちに命じていた。


そしてアイリーン自身もローズマリアの近くに行っては何かと証拠を集めようと動き出すのであった。



一方、学園の教員室は荒れていた。


「ええい!あのクソ王子めが!」


本来ならばカインが剣術大会で優勝するはずだったのに、なぜかアレク王子に敗れてしまうという予想もしなかった事態にヘンリー教頭は怒り狂っていた。怒りに任せて机の上のものを薙ぎ払い、さらには本棚の本まで投げていた。


教育者としてどうなのかとも思うが、そんな怒れる教頭にいくら周囲の者たちが宥めようとも、一向に怒りがおさまる気配は無いようだ。


ヘンリー教頭は第二王子派となったローズマリアと協力して呪いの魔道具を用いたり、更にはアレクをシード枠に入れたのも彼の仕業だ。早く自滅するようにと仕組んだのだが結果は惨敗。


それでもカインを用いてさんざん不利な条件にしたにもかかわらず、事態は思わぬ展開となり、ヘンリーはアレクを敗退させることはできなかった。


しかし、最後の悪あがきとしてアレクが優勝した際に魔法を使っていたのではないかという疑惑の声を上げさせたのもヘンリー教頭の指示だった。


直属の魔法師たちにもアレクが魔法を使ったと証言させて優勝を取り消そうとしていたが、メサーラ学園長に「私が直接確認したけど大丈夫だったわ」と言われてしまい、また失敗に終わった。


しかも、それとは別にカインの方も呪いの魔法でアレクを弱体化させていたという情報まで入ってきたのだ。


何処で情報がもれた?

ヘンリー教頭は疑心暗鬼になったが、カインはアレクに敗れて部屋に閉じこもっている。


メサーラ学園長がまだ何の動きもないということはカインが捕らえられて事情聴取されることはないとヘンリーは考えた。


ローズマリアも侯爵令嬢であるため、余程あちらが確実な証拠を見つけなければ立証する事も出来ないはずだ。


ならば、大丈夫だろう。

ヘンリー教頭は安堵した。


「ふふふ、このままでは終わらんぞ!」


次は魔法師の選別大会がある。

そこに出場するのであれば今度こそ恥をかかせてやるとヘンリー教頭は拳を握りしめて高笑いするのであった。


(ふふふ、面白くなってきましたね)


そんな高笑いするヘンリー教頭の近くには、あのクレメンスという男が椅子に腰掛けて静かに微笑わらっている。


まるで何か企んでいるかのように……。

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