第41話 宴の後

剣術大会が終わった日の夜。


王城ではアレク王子の優勝祝いが開催されていた。


「かんぱーい!」


師匠のボルトは宴がはじまる前から既に酔っぱらい顔を真っ赤にして上機嫌だ。アレクサンドル王もボルトと共に久しぶりの酒を愉しんでいる。


「いやあ!アレク王子も強くなりましたな!」


陽気なおっさんになっているボルトは瓶を片手に持ってアレクサンドル王に語りかける。アレクサンドル王は嬉しそうに微笑むとグラスを手に酒を呑んだ。


「そうだな。そなたのおかげだ。」

「いやあっはっは!わしも鼻が高いわい!本当に良い弟子を持ったもんだ!いやはや、これで陛下との約束の一つは守ることができましたな!」

「うむ、そうだな、本当に感謝する。後はまあ、魔法師の選抜試験ぐらいか」


「ああ!そういえば、そんなのもありましたな!ワシには関係ありませんが、ガルシア殿にしごかれたアレク王子ならまあ大丈夫でしょうな!わっはっは!」


酔っぱらいはとりあえず笑う。


アレクサンドル王は嬉しそうに酒をちびりと飲んだ。対してボルトの方はお酒を浴びるように飲み、持っていた杯の酒を飲み干した。


宵のうちとはいえ、すでに酒樽の中はすっからかんのようだ。


「しかし、アイリーン嬢が妙な事を言っておったな」

「なんですかな?」

「いや、決勝戦でアレクが弱体化の呪いかけられておったと申しておったのよ」

「ふーむ、まあ、それでも勝ったのなら良いではないですか!がぁはっは!」


一応深刻な話なのだが酔っぱらいには全く理解してもらえない。


「そなたは呪いの類いには詳しくはないのか?」

「うーむ……。そうですなあ。たしか、マケドリア帝国に呪術に長けた一族がいることは聞いた事がありますな。」

「それはどういう一族なのだ?」

「いやあ、それがさっぱりわからんのですわ。なにせ皇帝お抱えの者たちですからな。下手に調べようとすると生きては帰ってこれませんわ」


「では何故そのような情報を知っているのだ?」


「いやあ、わしが傭兵時代に何度か帝国で働いた事がありましてな。その時の雇い主だった貴族の者が皇帝に刃向かったとして呪い殺されたと聞いたので、こちらは依頼主が殺されたんでなんとか金を取り返そうと意地になってしまいましてなあ。その時依頼主を殺した者を色々調べてたんですが、まあ段々と危ない状況になってしまいましてな。結局命よりも大事なものはないってことで仕方なく金をあきらめてこの国に逃げてきたんですわ。いやー、はっはっはっ!!」


ボルトは話し終えると再び酒を飲んだ。


「わしの知っとるのはそれだけですな」

「ふーむ、なるほどな」

「まあ、どの国にも暗殺に長けた者はおりますからな。ほとんどの貴族が暗殺に長けた者を雇っているのも事実。呪いに詳しい話を聞きたいのならそうした世界と関わっている者たちに聞けばよろしいでしょうな」


「……そうだな」


ボルトはそう言って新しい酒を取りに行った。


アレクサンドル王はしばらく考える。


「セバスを呼べ」


王は側近にそう言うと、しばらくして執事長のセバスがやってきた。


「セバスでございます。王よ、御用命は何でしょう」

「いや何、そなたの過去ついて少し教えてほしくてな。呪いの類いには詳しいか?」

「私は武器を扱う方でしたから、魔法の類になりますと昔の知り合いに聞けば何か解るかもしれません」

「そうか、それでは頼む」

「御意に」


セバスは直ぐさまその場を離れた。

アレクサンドル王は溜息を吐きながら酒を仰いだ。


一方、ローズマリアは悔しそうにイスタル王子の等身大抱き枕を力強く抱きしめていた。


「おのれ〜!あの◯◯王子が〜!」


麗しい令嬢も怒り狂うときは美しさを失うようだ。その形相は凄まじく人様に見せられないため従者たちは全員もれなく部屋から追い出されている。


よほど悔しかったのか、歯をぎりぎりといわせて何度も親指の爪を噛んでいた。どうやら幼少からの癖のようだ。美しい爪が割れてしまうため、最近は気をつけていたローズマリアなのだが今日に関してはそうもいっていられない様子だ。


ローズマリアは横に寝転がり、天蓋にあるイスタル王子の姿絵を見つめた。


「次こそは失敗しませんわ!」


実はアレク暗殺計画は他にもあったのだがアイリーンの手の者が全て未然に防いでしまったためにローズマリアの方も手の内があまりにも少なくなっていた。


「次こそは成功させますわよ!」


それでもローズマリアは性懲りも無く次の計画プランを考えるのであった。

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