第39話 剣術大会③

次!


いよいよアレクの番である。


「よし!行くか!」


少し緊張しながらアレクは試合会場へと移動した。


相手はサラの兄であるセドリックだ。同じボルトの門派であり、アレクからすればセドリックは兄弟子にあたる。


ただし、先程の試合でサラとセドリックの闘いを観ていても、二人とも剣術の基礎は同じだが、各々自分の闘い方というものを持っているようだ。アレクの見る限り、セドリックはカウンター狙いの受けの剣が多かった。


アレクは魔法と剣術を両方鍛えていたので魔法を行使しながら剣で戦うことには長けていたが、剣だけならカインと同じぐらいの技量をもつ。


セドリックはカインには敵わないが、相性というものがある。アレクにとってセドリックが闘いやすいかどうかはわからなかった。


アレクが闘技場に入ると大きな歓声が響き渡る。音響のせいか、闘技場の真ん中に来ると観客席にいた時よりも観客たちの声が耳につんざくようにうるさく耳の鼓膜に響いてくる。


すでにアレクの目の前にはセドリックがいた。


「アレク王子、いつも妹が世話になっているようで、ありがとうございます」


セドリックは律儀に挨拶をしてきた。

アイリーンの兄とは大違いだ。


「いや、こちらこそサラには世話になっている。また私の剣の師匠はお前の父であるボルトだ。こちらこそ感謝する」


「……そうですか、それではよろしくお願いします」


そう言ってセドリックは剣を構える。

セドリックに合わせるようにアレクも剣を構えた。


始め!


アレクはすぐに攻撃を仕掛けた。


セドリックはアレクの素早さに驚きながらも冷静に剣で受け止め、隙あらば攻撃に転じている。


アレクもフェイントをかけながらセドリックに攻撃する。セドリックも上級生らしく下手なフェイントには騙されずに冷静に攻撃を受けていた。


サラと違い剣に重みがあるアレクの攻撃は確かにセドリックには効いていた。剣で受けていたものが、手が痛むのを恐れたのか、次第に剣で躱すようにあまり力を使わないように受け方を変えてきた。


アレクも無駄な力を入れないように小手先の技を小出しにして、フェイントをかけながら大事な一撃には腰を入れて剣を振り回し、相手セドリックを吹き飛ばした。


アレクの強烈な一撃によってセドリックは反撃もできずに後ろに下がらせられる。よほど強烈だったのか、セドリックは驚きの顔を隠せずにいた。


アレクはすぐにセドリックに接近して攻撃する。対してセドリックは防御に迷いが生じてきた。剣に迷いが生じてだんだんと噛み合わなくなってくる。


これはセドリックがいつもカインに負ける原因でもあった。


弱気になると臆病になる。アレクはその隙を見逃さない。果敢に攻め込みセドリックの反撃の隙を与えない。


弱気になったセドリックは苦しい表情をしながら防御一択となり、ただ剣を受けるだけで精一杯という感じだった。


「どうした!妹の前で恥を晒すのか?」


アレクはセドリックを煽る。


対してセドリックもアレクの挑発を受けて見事に立ち直った。


アレクはニヤリと笑いながらセドリックに攻撃を仕掛ける。すると今度はセドリックの方も攻撃を仕掛けてきた。互いに剣と剣を交じらせてまるで剣で会話をしているようだった。


観客は静かに二人の闘いを観ていた。


剣と剣が重なる鉄の音が闘技場に鳴り響き、

二人は互いに剣戟を繰り返す。セドリックが攻撃した時、今度はアレクが受け止める側になる。


そしてほんの一瞬のことだった。


セドリックの剣を見切ったアレクは最小限に躱し反撃する。


それはスローモーションのようにゆっくりと剣が見えたのだ。


アレクの意識はゾーンに入ったのか、セドリックが振り切った後の隙を狙い絶好のタイミングで反撃する。


「それまで!」


いつの間にかアレクの剣はセドリックの首もとを捉えていた。


セドリックは負けを知って目を閉じ、息を吐いてから「ありがとうございました」といってトボトボと試合会場をでた。


「アレク王子の勝ち!」


会場は一気に湧き上がり、多くの人たちが拍手喝采していた。


いよいよ次は3回戦である。


アレクは試合終了後、観客席に戻った。


「アレク様!素晴らしい試合でしたわ♡」


アイリーンがアレクの手を取って喜んだ。


えへへ。


アレクもだらしなく喜ぶ。


「アレク様!素早い試合を魅せてくださり本当にありがとうございます!」


サラは涙を流しながら直立敬礼してアレクに感謝の意を示すのだが、そのあまりにも仰々しい立ち振る舞いにはさすがのアレクも「お、おぅ……」と返答するしかなかった。


周りの生徒からも賞賛されたアレクは照れくさそうに席へと座る。


「それでは3回戦を始めます」


次の試合が始まった。


そんな時、アレクはふと疑問に思うことがあった。


「あれ?みんなお昼ご飯はどうしてるの?」

「みんな各自好きな時に食べに行ってますわよ」

「えっ?そうなの?」

「ええ、プログラムにもそう書いてありますし、私は簡単な食事なので適当に済ませましたわ」


「……あ、そうなのね」


アレクも出場者のくせにまったくプログラムを把握していなかったようだ。サーシャも知らずにお昼を用意しているかもしれないので後で怒られるかもしれない。


まあ、いいか。


アレクは昼食を諦めて3回戦を観戦する。

大きな歓声の中、カインの堂々とした入場である。対して、闘技場の反対側からは男たちのラブコールをうけてユランが入場してきた。


対峙する二人は観客の声とは対照に、ゆっくりとした動作で静かに剣を構える。


「それでは始め!」


ユランは素早く前に突進し、カインに向けてまっすぐ剣を突いた。


カインが攻撃を受けると女生徒たちが騒ぎ、ユランが攻撃を受けると男子生徒が騒ぎ出す。


もうどちらもうるさかった。


もはや会場と一体となった二人はお互いの剣を交わすたびに観客席が騒ぎ出すというこれまた稀な光景となるのであった。


ユランは動き回りながら隙をついて攻撃するのだが、攻守共に安定したカインには何をやっても通じずにやがてユランも焦り出す。


力も体力もユランのほうが劣勢であるためになんとか起死回生のチャンスを見出そうとユラン。


しかし、彼女も必死で頑張っているが鉄壁のようなカインの防御には通じなかった。


そして決着の時、


ユランがカインの攻撃の後、隙をつくようにハニートラップをかける。ちょっとしたチラリズムなのだが、純情なカインには効くだろうと思ったユランは隙あらばとカインに攻撃を仕掛けた。


しかし、


カインは冷静にユランの剣を躱してユランの後頭部を剣で叩いた。ユランは気を失い倒れたまま起きてこなかった。


男子生徒の叫び声が会場に木霊する。


「いやだーーー!」

「ユランちゃーーん!」

「負けないでくれーーー!!!」


「カイン様ステキーーー!」

「美しいわーー!!」

「あんな小娘の罠に引っかかるわけありませんわ!!」


などと、もはや二人が戦っているのか観客が応援合戦でやり合っているのかわけがわからない状況だった。


「それまで!」


男子生徒たちの号泣と雄叫びが響く中でユランは負けた。


カインは「お前ごときの色気に俺が引っかかると思っているのか」と言い放った。


(俺が引っかかるとしたらアイリーン、……君だけだ)


カインはアイリーンの方をチラリと見つめ颯爽として会場を去った。


ユランは悔しそうにポロポロと涙を流して会場をでていった。


男子生徒は全員カインを敵と認定した。

女子生徒は皆「ザマアミロ」とユランを罵った。


「怖っ!」


アレクは狂気じみた二人の歓声に慄いた。


俺もカインと戦ったらあんな罵声を受けるのか。


まだ次の試合があるにもかかわらずアレクは先の事を心配するのであった。

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