第37話 剣術大会①

学園では毎年剣術大会を行なっている。

ルールは以下の通り。


①剣術大会は学年の差は関係なく、ただ強い生徒達を戦わせて競わせるものである。


②先に剣術の授業の中で選抜試験を行い、クラスから二名選出する。


③剣術大会はトーナメント制となっており、代表者である生徒たちが戦うことになる。


以上の内容で剣術大会は催される。


優勝者の特典としては、騎士団入団の際に出世コースに入れる。


というわけで、騎士団への入団を希望、または内定している者達にとって優勝を目指すメリットがあるのだ。


アレクのクラスの代表選手はもちろんアレクとサラに決まった。


そして大会の当日、いつもの修練場ではなく学園敷地内にある闘技場に全生徒が集まっていた。


この日は騎士団の団長たちも大会を観に来ており、サラの父であるボルトやローズマリアの兄(最近意気消沈している)ブライトも来賓として来ていた。


ファンファーレの鳴り響く音と共にメサーラ学園長が入ってきた。そして今年は王族のアレクがいるからか国王のアレクサンドル王も大会を観に来ていた。


「これより剣術大会を開催する!諸君の日々の鍛錬と研鑽の成果をここで示してほしい!頑張りたまえ!」


アレクサンドル王は大きな声で開幕の挨拶をした。


大きな拍手が会場に鳴り響き、選手たちは試合の準備に取り掛かる。


アレクはサラと共に闘技場の外で準備運動をしていた。


「アレク様〜♡」


アイリーンはアレクのそばに走ってきた。近くには久しぶりにメリアの姿があった。


「アイリーン!おはよう!メリアも久しぶりだね!」


「アレク様お久しぶりでございます」


メリアも静かにお辞儀する。しばらくアイリーンの側に居なかったので理由を聞いてみると親の都合でしばらく辺境伯の領地に戻っていたそうだ。

(実はアレクの暗殺防止のため暗殺部隊の召集役として辺境伯の領地に行っていた)


メリアの父は暗殺部隊を管理しており、メリアの一族は辺境伯の影として活動している。メリアはまだ若く暗殺の仕事はできないため実家から精鋭部隊を呼んできたのである。


「アイリーン様おはようございます」


サラはアイリーンにお辞儀をして挨拶する。


「サラも今日は頑張ってくださいね。私の護衛騎士として恥ずかしくないように」


「はい!」


「それでは私たちは会場席から応援しておりますわ!アレク様頑張ってくださいませ♡」


アイリーンがウィンクするとアレクは「うん!わかった!」とだらしない表情で応えた。


「サラは一回戦で誰と戦うんだ?」


サラは大会の運営本部から持ってきたトーナメント表を取り出して見ると急に驚いた。


「え!?わ、わたしの相手は……、あ、兄です」


「えぇぇぇ!?」


アレクは大きな声で驚いた。


「サラは兄さんに勝った事あるのか?」


「い、いいえ、未だに勝った事はありません。さすがに兄も四年生ですからもっと強くなっている事でしょう」


「うへぇ……サラ、大丈夫か?」


「は、はい、もうやるしかありませんから」


「そ、そうだよな」


「ええ……」


「ま、が、頑張れよ」


「はい」


いつもなら元気いっぱいのサラなのだが、今回はいつも以上に緊張しており少し表情も暗かった。アレクもそんなサラを励ましてあげればよいものを自分も緊張しているため微妙な言葉しか掛けられなかった。


「よ、よしそろそろ行くか!」


「は、はい!」


二人は緊張感をもって二人は闘技場へと向かった。


側から見るとその後ろ姿は非常に頼りなく見えた事だろう。


アレクたちが闘技場の観客席に行くとすでに試合は始まっており、以前アレクと戦っていた上級生の一人が下級生と戦っていた。


こないだの上級生との手合わせの時にサラに勝った相手だった。


変則的な攻撃やフェイントを織り交ぜた技は相手を翻弄しており、圧倒的に上級生の優位だった。


「それまで!」


「ダレンの勝ち!」


初めて知る上級生の名前。二人はほぅ、と感心して試合を観ていた。


「次!」


今度は図体が2メートルぐらいあるデカい男が入ってきた。


聞くと三年生らしいがこの世界の年齢とは?と問いたくなるほどの年齢不詳な外見で、いかにも強そうなガタイの良い筋肉ムキムキ大男だ。


彼が片手に持つ剣は刃を潰してあるにも関わらず一振りで相手を殺しそうなほどの大きな剣だった。


「す、すげー」


「お、大きいですね」


俺たちこんなのと戦うの?とさすがのアレクもビビっていた。


対する相手は逆に小柄な男の子だ。二年生で身長は160センチほどに見える。

(アレクは168センチほど)


「小さいな」


「ええ、そうですね」


サラも頷く。


「それでは始め!」


試合が始まった。


巨人のような三年生は体格を活かして大きな剣を振り回して間合いを取る。


対して二年生はなかなか近づけないようで三年生の原が届かないあたりで様子を見ながら相手の攻撃をかわしていた。


三年生はガタイは大きいが無駄な動作が多く、隙を見せないように果敢に攻撃してあったが、5分程で疲れが出てきたようで攻撃の間に隙が出来た。


その隙を二年生は見逃すことなく素早く相手に接近し、相手の死角から攻撃する。


まず足を狙った。


思わず片足をやられて膝をついたところを頭の上に剣を振り下ろす。


「それまで!」


「ブレイクの勝ち!」


小柄な二年生が大柄な三年生に勝った。

観客はまさかのジャイアントキリングに戸惑い観客席周囲はざわざわとしていた。


ブレイクのクラスの同級生たちは歓喜のあまり大声で叫びながら喜んでいた。


「す、すげえ」


「大したものですね……すごい」


二人とも上級生の強さにビビっている。


「次!」


「あ、私です」


サラは慌てて試合に向かう。


サラの目の前には兄であるセドリックがいた。


「サラ久しぶりだな」


「ええ、兄上もお元気そうで」


「まさかお前と戦うとはな」


「本当に」


「まあ、どれだけお前が強くなったのか見てやろう」


「よろしくお願いします」


はじめっ!


サラは速攻でセドリックに近づき上段から斬りつける。セドリックは慎重に受け止めて切り返してくる。それを避けてまた攻撃、二人はひたすら攻撃と反撃を繰り返していた。


観客たちが驚いたのはその剣戟の応酬の速さだ。皆、息をするのも忘れてしまうぐらいに二人の攻撃の応酬は苛烈だった。


セドリックはどちらかというとカウンター狙いが多く攻撃を受けてからの反撃を得意としていた。サラは力はないものの持ち前の素早さで相手を翻弄させるほどの多角的な攻めを得意とする。


二人はお互いの闘い方を知っておりもう五分以上同じような剣戟を繰り返していた。お互いに汗だくになりながらもなぜか嬉しそうに戦っている。


セドリックもサラの成長を喜んでいるようだった。


しかしサラは更に成長していた。


たった一度、いつもの攻撃にフェイントを仕掛けたのだ。


いままでフェイントをしなかったサラが突然仕掛けてきた攻撃にセドリックは驚いた。慌てて体勢を整えようとしたが、間に合わずさサラの剣を横腹に受ける。


「うっ!」


やった!


サラは初めて兄に攻撃が当たったことを喜んだ。


しかし、


知らぬうちにサラの後ろに自分の剣が落ちる。


気がつけば持っていた剣は振り払われており、セドリックの剣が目の前に突きつけられていた。


「それまで!」


サラは油断してしまった。攻撃が当たった時に力を抜いてしまい、その隙を狙われて剣を振り払われてしまったのだ。


「セドリックの勝ち!」


サラは負けた。


一瞬の隙が命取りである。それをサラは痛切に感じた。


呆然と立ち尽くしたサラに兄であるセドリックは剣を拾いサラに返した。


「サラ、強くなったな」


「あ、兄上……、う、うう」


「さっきのフェイントは良かったよ。ただそれが敗因だったな。次は気をつけろよ」


そういってサラの肩をポンポンと叩いてセドリックは去っていった。


サラがアレクのもとに戻ると周りからはサラを褒め称えた。


「サラ様凄かったです!」


「上級生にあそこまで闘えるってすごいです!」


「ビックリしたよ!息をするのも忘れるぐらいに凄い試合だった!」


サラは周囲の反応に驚き、「いやあ、ははは」と言って負けたことを引きずっていた。


アレクとアイリーンがサラに近づきサラを慰める。


「上級生によくやったよ!あのフェイントは良かった!」


「皆があのように言っているのです。負けたとしてもあなたはまだ一年生。確かな実力は示せたと思いますわ」


サラは「はい、ありがとうございます」と答えて気落ちしたまま観客席に座った。


アレクもアイリーンもこれ以上のフォローは無理だと判断してサラの隣に座る。


それでは二回戦に入ります。


ん?


アナウンスに驚くアレク。


あれ?俺まだ一回戦も出てないよ?

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