第36話 侯爵令嬢の悪巧み

イスタル第二王子とカルバン侯爵家ローズマリアとの婚約の噂は貴族間の間で瞬く間に拡まった。


本当の婚約発表はイスタルが12歳になってからなので、それまでは秘匿されるはずなのだがこういった時の貴族の情報網は凄まじく、ほとんどの貴族がこの婚約の話に夢中になっていた。


ここで調子に乗ったのが第二王子派と呼ばれイスタル第二王子を王太子にしようとする派閥である。


彼らは侯爵家が味方になったと大変喜ぶのであるが、侯爵家のほうは王族との約束を守らなければ婚約の話は無くなってしまうため、なるべくならと大人しくするしかなかったのである。


しかし、そんなことを知らない貴族たちはローズマリアの婚約を期に第二王子派に引き込もうと躍起になっており、各々が侯爵家にお茶会、社交会パーティの招待状を送るのであった。


クラウス侯爵の気疲れは目に見えるように酷いものだった。


一方、ローズマリアはイスタルに逢いたいがために喜び勇んでお茶会へとくりだす。


しかもローズマリアは第二王子派と勝手に仲良くしはじめてしまったのである。


これでは約束を違えてしまうとクラウス侯爵は慌てて王族との結婚の条件を盾にローズマリアを説得するのだが、


ローズマリアは「イスタル殿下が王の跡を継ぐのは別に間違った考えではないとおもいますわ」などと完全に洗脳されてしまっていた。


クラウス侯爵も可哀想だ。


しかもローズマリアは自分が学園にいるうちにアレク王子をなんとか片付けたいと考えて勝手に仲間を募り出す。


学園内には第二王子派貴族の子弟が多く在学しており、またカインやアランなど個人的にアレクを恨んでいる人物などはあっさりと仲間に入ってくれた。


アランなどはローズマリアに憧れていたこともあり、夜蛾の如く甘い香りに誘われて吸い寄せられるようにローズマリアの下に降っていった。


他にもローズマリアに近づきたい生徒たちは男女に関わらず第二王子派として吸い込まれていったのだ。


アレクの全く知らない間に、第二王子派は全生徒の半分にまで増えてしまった。


焦ったのはアイリーンである。王とも相談したが、まだ問題が起きていない為に現状維持でしばらくは様子を見ることを指示された。


王は王で侯爵家と直接話をするそうだ。


アイリーンはアレクが殺害されぬようにメリアを通して辺境伯から暗殺部隊を呼び出し、同業者に暗殺阻止を命じるのであった。


実はアレクが入学してからすでに何回も暗殺未遂は起きており、アイリーンの手の者によって未然に防がれているだけだったのだ。


そうとも知らずアレクは呑気に学園に通い、呑気に寝ているのであった。


しかし敵もさることながら捕まえた敵は一切喋らず自害していくためアイリーンたちは証拠を捕まえられずに苦労していた。


そしてローズマリアがイスタル派になった事でそうした事件が更に増えるのであった。


ある日の事、上級生である四年生の校舎にローズマリアとカインがいた。


「そろそろですわね」


「何が?」


「剣術大会があるのでしょう?」


「ああ、そうだな」


ローズマリアはポケットから一枚の紙切れを出してカインに手渡した。


「これは?」


「ある国から取り寄せたもので呪いの魔法が描かれた紙です。そこに対象者の髪を挟んでおくことでその者が弱体化するそうですわ」


「これをアイツに?」


「ええ、そうですわ」


「……わかった。やってみよう」


「あと殺してしまっては貴方が罰せられてしまうかもしれませんから気をつけてくださいね。あとその紙は貴方が常に持っておいてください。もしバレたらすぐに燃やしてしまいなさい。証拠は残してはなりませんよ」


「そんなことはわかっている」


「そう、ではよろしくお願いね♡」


その時のローズマリアは本当に本物の悪役令嬢だった。


カインは薄気味悪い笑みを浮かべたローズマリアを見てやはりアイリーンが一番可愛いと心底思うのであった。

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