第34話 フラン先生は忙しい

「ふぇぇぇ!!私が二人の担当ですかぁぁ!」


フラン先生は魔法師の先生たちが集まる会議の中で大声で叫んでいた。


ライトグリーンでふわっとした癖っ毛のあるショートボブの髪型に大きな目と小さな口、顔半分はあるぐらい大きな丸いふちの眼鏡、見た目は14歳ぐらいにしか見えないほどの童顔(実は32歳)、身長は145センチと小柄ながらにも大きくたわわに実った胸に男子学生の多くは釘付けとなっていた。


「いやらしい……」

「男子サイテー」


と年頃の女子生徒はさんざん男子を見下して言っておきながら、自分たちは「どうすればそんなに胸大きくなるんですか?」などと真剣にフランに相談をするのであった。


「あはは、そうねえ、どうしてこんなに大きくなったのかしらねえ」


フラン先生は笑って誤魔化す。


「メサーラ先輩!胸を大きくする方法を教えてくださぁい!」


「そんなの知らないわよ!知ってたらとっくに自分で使ってるわ!!」


「生徒たちが質問してくるんですぅぅ!」


「自分でお考えなさい!あんたは魔法師なんだから自分で開発すれば良いじゃないの?!」


「自分だと実験の確認が出来ないんですぅぅ!」


「あんた私に喧嘩売ってるの!?」


「ふぇぇぇん!!違いますぅ!」(泣)


こうして大好きなメサーラ学園長に質問するも、いつも冷たくあしらわれるフラン先生なのであった。


しかしながらフラン先生ことフラン・オズワルトは若くして国に認められ、この王国の魔法師、そして学園の教師となった才媛である。


フラン先生は魔塔に自分の工房を持っており、普段は水属性の魔法の研究に勤しんでいる。


その成果は水魔法による生活環境改善の方法を編み出して国家に貢献したこと。


特にポーション作りにおいては品質の改良と品質安定に貢献し、今までポーションの出来にはムラが多かったものを一定の品質を維持できる仕組みを作った。ポーション品質においては革命を起こすほどの成果を成し遂げたほどだ。


そこで学生の時の先輩でもあったメサーラ学園長の口利きで学園での教授席を得ることになる。


当時、女性の教授はほとんどおらず王族であったメサーラが学園長だったからこそ栄えある教授席に抜擢されたのだ。


フランの将来の夢は伝説の秘薬とも呼ばれ、今は作り出すことのできない万能薬「エリクサー」の開発、その作り方を発見すること。そのためにフラン先生は今日も研究に没頭するのであった。


そうした華々しい過去をもったフラン先生だが教授会にて突然の命令が下る。


冒頭の件であるが、フラン先生は教師としてはまだキャリアも浅いにもかかわらず、多くの華々しい成果を誇る若手エリートとして今回の任務の責任者として白羽の矢が当たったのだ。


それは栄えあるお役目として、アレク第一王子と婚約者であるアイリーンのクラス担任及び、魔法科の担当になったというわけだ。


その背景として、他の先生たちが面倒事を恐れて二人の担当をやりたがらなかっただけであって、それを若手のフランに押し付けただけなのだが……。


こうしてフラン先生はアレク王子の担当になったのだが、予想通りというべきか予想以上にアレクは色々と騒ぎを引き起こしてくれた。


「フラン先生!アレク王子が魔法で修練場を壊しました!」


「フラン先生!アレク王子が剣術の授業で上級生たちを全員大怪我させたそうです!」


「フラン先生!アレク王子が!」


などなど……。


こうしてフラン先生はトラブル王子に振り回される日々を送ることになった。


そして今日もまたアレク王子が何か問題を起こすと必ずフラン先生が呼び出されるのであった。


ただ真面目なフラン先生の日頃の行いが良かったのかわからないが、今のところアレクがしでかした事件コトの中でも一番大きなもので修練場の施設の一部破損ぐらいで済んでいるだけだったのでまだ良かった方なのかもしれない。(王城ではアレクの火魔法で倉庫が燃えた)


そんなフラン先生にも思わぬ事件が発生する。


なんと自分の生涯の目標である「エリクサー」の開発をアレク王子があっさりと成し遂げてしまったのだ。


「な、なんでぇぇぇ……」


訳がわからない。


過去いくつもの難解な問題を解き明かしたフラン先生だが、今回限りは全くもって見当がつかない。しかし、エリクサーの実証のためにさまざまな実証実験を行うが、ことごとく万能薬としての効果を立証してしまう。


「どうしてぇぇぇ……」


エリクサーであることは証明できたが、どうやって作ったのかの原因がわからない。


フラン先生は一日、また一日と徹夜を重ねた。


目の下にクマをつくってフラフラと授業をするフラン先生は講義をしながらも頭はエリクサーのことでいっぱいだ。しかし寝不足だけど考え事をしながら普通に授業をこなすフラン先生は確かに異常であった。


そして三日経った日のこと。


「ひょっとしてアレク王子の魔法属性が全属性なのと関係しているのでは」


ついにキッカケを掴めたように感じたフラン先生はアレク王子にエリクサー作りのヒントを得るのである。


しかし、問題があった。


エリクサーを作れるのはアレク王子しかいない。


ということは何かしらアレク王子がエリクサーを作る際にヒントを得なければならない。


特に全属性の魔法使いであるので、魔法を生み出す源泉がどこから発生するかを突き止めなければならないのだ。


全属性は初代国王以来存在しないため、希少な存在であり、カエルと違いおいそれと解剖することは出来ないのだ。


「アレク王子の体の一部を調べてみたら……、血、皮膚、髪の毛、唾液、爪ならどうかしら……」


徹夜続きのせいか、思考が危ない方向に逸れていく。


「でも運良く爪を切っている時に立ち会えるわけもないし……」


んー……。


「ちょっと血をください♡なんて言ったらどうなることか……でもぉ、研究のためなら仕方ないかもぉ…」


「やっぱり人類全体のためなら一人の犠牲ぐらいどうってことないよね」


マッドサイエンティストの血が騒ぐフラン先生であった。


その後、メサーラ学園長に相談に行ったところいつも以上に怒られて、しまいには解雇処分寸前までいきそうになった。


結果としてアレク王子にエリクサーを作ってもらい成分分析から始めることで話しはまとまった。


「ざんねぇん……」


意外にも狂気な一面を持つフラン先生だった。

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