第33話 魔法の授業②

伝説の秘薬を作り出したアレクのポーションはどうやら数日かけて臨床実験が行われたらしい。


その結果、


重病人があっさり完治したり、

腕が無くなった騎士の腕が生えたり、


などなどエリクサーの効果が認めざるおえないほどの奇跡が続出し、これはエリクサーに間違いない!と魔塔主を含めて多くの魔法師が嬉々として認可したようだ。


そのためアレクは魔塔に部屋を作るからそこで薬の調合しないかと魔塔主にしつこく誘われたのであった。


しかしアレクは「将来は王になる身であるので」と、魔塔主の勧誘を謹んで辞退した。それでも「国王のお立場そのままに、ついでに魔法師として活動なされれば良いのじゃよ!」などと一向に諦めない水の魔法師たちであったが、なぜかアイリーンが説得すると途端にすんなりと諦めてくれたようだ。


一体何を話したのかわからないが……、


ただし、研究室を貸すから一日に5本のエリクサーを作って欲しいと魔塔主及びフラン先生から懇願され、その勢いと必死さに負けたアレクは仕方なくエリクサーを作ることになってしまった。


魔法の授業二日目、ポーション作りは終わったので、というかアレクはエリクサーしか作れなかったので次は生活魔法と攻撃魔法の授業だ。


アレクとアイリーンが魔法科の校舎に行くと前に人集りがあった。


「ん?あれはなんだろう」


アレクが人集りの中心を見ると真ん中に金髪縦ロールのいかにも悪役令嬢みたいな超絶美人がいた。


アイリーンは知っていたらしく、学園では超人気者で知らない人はいないほどだそうだ。


(え?俺知らないんだけど)


アレクは不思議がった。


しかしアレクが知らないのも無理はない。


アレクは学園に入る前のほとんど魔法と剣術の時間に取られて夜の社交界などに行ったことはない。


またお茶会においてもイスタルが参加するお茶会には意図的にアレクは出れないよう王に調整されていたので、アレクはイスタル目当てでお茶会に参加しまくっていたローズマリアとは未だに会った事はなかったのだ。


アレクがローズマリアを見ているとたまたまなのか目が合ったような気がした。


その瞬間、


ローズマリアがアレクに対して酷く睨んできたように見えた。


ん?


アレクは身に覚えのない怒りを買ったという記憶が無い。俺なんかしたっけ?といった感じだった。


剣術の授業でいたわけでもないし、魔法の属性判定の時にもいなかったはず、アレクはあんな美女を見たら忘れるはずがないと必死に思い出そうとするが全く覚えがなかった。


アイリーンは事情を知っているためローズマリアに対し「負けませんわよ」と一人呟いていた。


魔塔に着くとフラン先生が出迎えてくれた。今回は直接フラン先生の研究室にいったのだが、こんどはフラン先生の隣に上級生が一人いた。


「アレク王子、アイリーン、今日は私が授業の担当をいたします」


そういうと上級生らしき生徒が声をかけてきた。


「お兄様!」


アイリーンは驚いてその生徒を見る。


「やあ、アイリーン。申し遅れましたが私の名はアランと申します。妹が大変お世話になっております。アレク様は憎い……いや素晴らしい王子であると妹がいつも話してくれてますので、私も上級生として、またアイリーンの兄としてアレク様のお役に立てればと思いまして、是非魔法を教えられる機会をいただきたいと今回(アイリーンがアレクを見放すために)志願をさせていただきました」


アレクはポカンとした顔をしてただ話を聞いていた。アイリーンは信じられないと言った感じで表情を隠しながらも内心怒っていた。


「さあ!それでは始めましょう!」


アランは嬉しそうだ。


「まずは生活魔法からですね。飲み水を出してコップに水を注いでいきましょう。満タンになったら手を上げて教えてください」


そう言って手本を見せる。

アランも一応はアイリーンの兄である。性格は悪いが魔法はそれなりに上手であった。


アランの手から水がちょろちょろと出てコップに水を注いであっという間に満たてしまった。


「それではやってみましょう」


アランがそう言うとアレクとアイリーンはそれぞれコップに水を注ぐ。意外にもアイリーンは余裕でコップに水を注ぐのだが、アレクは苦戦する。


何故か、


威力の調整が難しく、昔よりも魔力量が多いため小さな魔力を小出しにする調整が難しくなってきたのである。


「ほんのちょっとだ」


魔力のコントロールをしながら手からちょろちょろと水を出す。


しかしちょっと魔力の量を緩めると一気に水が出てコップの水が溢れてしまう。


くそっ!


苦戦しながらもアレクは頑張って水を入れた。


「出来た!」


アレクが喜んでそう言うと、


「いや!まだ全然ダメです!」


「いやちゃんと水を入れたじゃないか!」


「このコップにあるこの目盛りに合わせてもらわないとダメですね!」


アランはしたり顔でコップの中にある目盛りを見せる。アレクが入れた水は2ミリほど目盛りを越していた。


ふぬぬ……。


アレクは怒りを抑えて水を入れるがなかなか目盛り丁度にはならない。


アレクがなかなか上手く調整出来ずにコップの水を足そうと頑張っていると隣でアランがニヤニヤと侮蔑するかのように立っていた。


「まだ出来ませんか?まあ、一年生ですし、まだまだ魔力のコントロールはあなたには早すぎましたかねえ」


アランはそう言ってアレクを挑発する。

アレクはもちろんのこと、さすがにアイリーンもカチンときて表情が険しくなる。


「お兄様?王太子に対してその話し方は無礼なのでは?」


アイリーンの額にはイライラのマークが付いている。


「いや、アレク王子もいまは学生なんだ。上級生の私がどんな態度であろうとも無礼ではないよ」


アランはウザいほどの満悦した顔でふんぞりかえる。それを見たアイリーンの額には血管が浮き出てイライラマークが増えた。


「ただ卒業した後はどうなるかわからないでしょうけど…」


アイリーンはアランに含みのある言葉を言い放つ。


「うっ!し、しかし、未来のことなんかわからないじゃないか!


「お兄様?私はアレク王子の許嫁です。これ以上の王族の侮辱はたとえ実の兄であろうとも許しませんよ?」


「ア、アイリーン!僕は君の事を思ってだな!」


「お兄様?たとえあなたが辺境伯を継ごうとも、王族には逆らえませんのよ?もう少し先の事を考えてお話しになったら?」


「ぼ、僕だけじゃない!父も僕と同じ考えなんだぞ!母上もそうだ!君は父と母に逆らうのか?」


「私は自らの意思だけではなく、当主であるお祖父様の命を受けております。当主に逆らっているのはお兄様たちではありませんの?」


「お祖父様ももうお歳だ!!次の当主は父であり、父が当主になれば命令は変わるんだぞ!」


「あら、それまでには私は王妃になってるかもしれませんから大丈夫ですわ♪」


「そんなに先の話ではない!」


「あらお祖父様をそこまで早く亡き者としたいのかしら?」


「そうは言っていない!」


「いいえ!言ってますわ!」


アランとアイリーンが兄弟喧嘩をしている間にアレクは関係なくコップに水を足していた。


「出来た!」


アレクは嬉しそうに目盛り丁度に水を満たしたコップを掲げた。


アランは驚いてコップを確認する。


「あ、ああ、まあ、いいでしょう」


「よし!次は何?」


「あ、ああ、そうですねぇ、今度はコップからコップに水を移す魔法をやりましょう」


「ああ!それならやったことある!」


そう言ってアレクはさっさとコップの自らをとなりのコップに移した。


「さあ!出来たぞ!」


「あ、え?もう?」


「さあ!次は?」


「そうですね、水を出して水玉にします。そして水玉を浮かべて回転させてください」


「よし!それもやったことがある!」


そう言ってアレクはさっさと水玉をつくり(しかもアランの予想よりも沢山の)全ての水玉を浮かべながら円を描くように回転させた。


「どうだ?出来たぞ?」


「あーー、そうですね……、はい、大丈夫です」


「アレク様さすがですわ!」


「楽しくなってきた!次は?」


「そ、そうですね、それでは外に出て水玉をどれだけ大きくできるかをやりましょう」


アランは自分がやってきた魔法の実習をほとんどクリアされてしまい、仕方ないので自分が次のテストでやる魔法をアレクにやらせる事にした。


アランとアレク、アイリーンは外に出て校舎近くの芝生の生えた広い空き地にやってきた。


「さあ、それでは始めましょう!とにかく限界まで水を出して水の塊を宙に浮かべてください!これはかなり難易度の高い魔法です!」


アランがやれるものならやってみろと言わんばかりにアレクに指示を出した。


「よしっ!やるぞぉ!」


「アレク様!頑張ってください♡」


アレクはありったけの魔力を込めて水溜まりを宙に浮かべた。


するとアレクたちの頭上には大きな水族館の巨大な水槽ほどの大量の水が一気に空を覆うように出現した。


それはあまりに巨大でアランは一気にびびってしまい鼻の穴とズボンの真ん中から水が自動的に流れ出てしまう。


あんぐりと口を開けたまま呆然とただ立ちつくしてしまったアランは次の指示を出すことも出来ずにいたためにアレクの水溜まりはさらに増え続けた。


いつのまにか水溜まりの塊が魔塔の20階あたりまで届きそうになった時、今度は魔塔からフラン先生が慌ててやってきた。


「アレク王子!もう魔法を解いてください!」


「えっ?もういいの?」


「はい!もうこれ以上は危険です!(この辺りが)もう魔法は確認できましたから水を少しずつ消してください!」


「え?消せるのコレ?」


「え?消せないんですか?」


「やったことない」


「え?えーっっ!?」


「水よ消えろと唱えて心の中で念じてください!」


「ん、んー、……水よ、消えろ!」


ざっぱぁぁぁぁん!!!


消えたのは水を覆う魔力でできた膜の方であった。


空中にあった水溜まりは全て地面になだれ落ちる。


もはや濁流のようになった水溜まりは激しい水流となり、哀れにも魔塔に入ろうとしていた生徒やフラン先生、そしてアランを含め近くにいた生徒たちをのみ込んで皆100メートル先まで流されてしまった。


アイリーンはかろうじて水の膜をつくり水の被害から逃れられた。


アレクは自分の作った水で溺れるという悲しい経験をするのであった。


そして1時間後、学園長の執務室に再び呼び出されたアレクとアランはメサーラ学園長にしこたま叱られるのであった。


「アレク王子!あなたいつも問題を起こさないと気が済まないの?」


「い、いいえ!違います!」


「なら何故、殿下はこうも問題ばかり起こされるのかしら?」


「わかりません!」


「わかりませんじゃないわよ!しっかりしないとまた国王に知らせますよ!」


「い!いや!すみません!もうしませんからどうかそれだけは!」


「これ以上は目を瞑りませんからね!次はありませんよ!」


「ひゃ、ひぁい!」


アレクは逃げるように学園長の部屋を出た。


アランはアランでアレクとはまた別に叱られるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る