第29話 剣術の稽古①

アレクとサラは同年代と比べて剣術のレベルが遥かに高いため、ドルトン先生の指示で上級生と一緒に剣術の授業を受けることとなった。


ただ、授業の時間が同学生と違うためアレクはアイリーンとは分かれて授業を受ける。(ことにアレクは嫌がった)


サラはアイリーンの護衛騎士となったが、アイリーンには「このままで満足してはなりません。さらに、今以上に強くなりなさい」と言われているため、サラはもっと強くなりたいと鼻息を荒くして張り切っている。


二人は鍛錬場に向かう。


「アレク様!いよいよ剣術の授業ですね!私、嬉しくて昨日はあまり寝れませんでした!」


「それって危なくない?寝不足で怪我したら洒落にならないよ?」


「いや!怪我なんてポーション飲んどけば大丈夫です!はやく上級生たちと戦いたいです!」


寝不足で目は血走っており息をハアハアとしながら興奮するサラを見てドン引きするアレク。


サラのその姿はまるでバトルジャンキーだった。


(こんな危なそうな奴だったっけ?)


出会ってそんなに経っていないはずなのだが、こんなんだったっけ?とアレクも不思議がる。


興奮したサラは急ぎ足で修練場に向かう。


「よく来たな!」


上級生たちが迎えてくれた。

しかし、アレク王子を喜んで迎えてくれているような感じはしない。むしろ逆に敵陣に入ったような危機感を覚えた。


そんな中、上級生たちの後ろから長身で美丈夫な男が前に出てきた。


「ようこそ!アレク王子!そしてサラだったかな?私はカインという。ドルトン先生から聞いたが二人ともかなり実力があるそうじゃないか。是非我々と手合わせをしていただこう!」


カインは木剣を持ち、周りの生徒たちもニタニタと笑みを浮かべながら木剣を持っていた。


サラは息を呑み、木剣を構える。

アレクも武者震いをしながら木剣を構えた。


「で、カイン先輩たちの誰と戦えばいいんですか?」


サラは質問した。


「そうだな。それじゃあ俺たちと一対一で手合わせしてもらおうか」


(こっちが圧倒的にキツいじゃん!)


アレクとサラは上級生全員と手合わせしろということだ。

空手の百人組手みたいなものだ。


とりあえずサラから先に手合わせすることになった。


上級生の一人が出てきた。


ちょっと強そうな感じだが、こいつら本当に俺と歳近いのか?とアレクが疑いたくなるほど老けた外見で、少なくとも十代半ばには見えないおっさん達ばかりだ。


サラはよろしくお願いします!と一礼し、剣を構える。


相手は先に攻撃を仕掛けてきた。

サラは冷静に剣で受け止めて反撃する。

相手はサラの動きについていけずに剣をモロにくらった。


「それまで!サラの勝ち!」


それからサラは難なく五人抜きをした。


では次!


次の相手は丸坊主で体格の良い男だった。こちらを舐めているのかヘラヘラと笑いながら前に出てきて本当に態度が悪い。


サラはよろしくお願いします!と一礼し、剣を構える。


対し、対戦相手の上級生はだらしなく剣を持ちニヤニヤと半笑いでサラを値踏みするように睨め付けるのであった。


サラも侮辱されているのが分かった様で自身から攻撃に出る。


すぐに袈裟斬りから入ったのだが、剣で受け止められながら上手く絡め取られる。


サラも今まで戦ってきた事のない相手だったためか相手のフェイントを混ぜた攻撃とラフプレーに翻弄される。


サラはサラで実力はあるのだが、攻撃が素直すぎて相手にすぐに見切られているように見えた。


攻撃が当たらないサラは焦ってしまい無理に攻撃してしまう。


そこを狙われたのか上級生に足をすくわれたサラはひっくり返ってしまう。


地面に背中を打ちつけたサラは咳をして苦しんだ。そんなサラの姿を見て、見下しながらニヤける上級生たちの姿にアレクはカチンときた。


(あの野郎!)


「おいおい、もう終わりか?」


サラは苦しそうに立ち上がり剣を構える。

しかし、そんなサラを制して庇うようにアレクが前に出てきた。


「それじゃあ次は私と手合わせ願おうか」


アレクが剣を構えると相手も構える。


アレクは素早く相手に近づき上段から剣を振り下ろす。


相手はニヤリと剣で受けようと構える。


アレクはすぐに剣筋を切り替えて下から上に振り抜くと相手はかろうじて避けた。しかしアレクはすぐさま追撃する。


また上段から剣を振り下ろすと同じように構えるが相手はもう騙されないと警戒している。


アレクは次に目線のフェイントで剣筋を切り替えるようなフリをすると相手はまんまと引っかかり、慌てて構えを変えた。


結局アレクは上段のまま剣を振り下ろすと相手は防御が間に合わず頭上に木剣が強烈な勢いで当たった。


「ア、アレク王子の勝ち!」


アレクは息を吐き、呼吸を整えて次の相手に備える。


サラは関心しながら二人の試合を観ていた。


「サラ!お前の剣筋は正直過ぎて相手に読まれやすい!フェイントを含めた駆け引きができるように私の戦い方を観ておけ!」


アレクがそう言うとサラは涙を流しながら「はい!」と答えた。


次の相手はまたゴツい奴が来た。ただ背が低く固太りタイプの生徒だった。


はじめっ!


ゴツっ!!


「ア、アレク王子の勝ち……」


「す、すごい!」


サラは関心しっぱなしだ。


「次!」


ゴツっ!!


「次」


ドスン!!


「つ、次……」


ドスっ。


最初に強い奴ばかりが出てきたからか後半の相手は大した事がなかった。あっという間に三十人抜きしたアレクを恐れはじめた上級生たちは次誰がでるかで揉め始めるのだった。


そうして最後になってやっとカインが出てきた。


「アレク王子がこんなに出来るとは思いませんでしたよ。ただ、大分お疲れのようですが……、フフ!それでは私が最後にお相手しましょうか!」


カインがそう言うとお互い木剣を構えた。


ちょうどその時、


「アレク様〜♡頑張ってください♡」


アイリーンが授業を終えて見学に来た。


「「アイリーン!!」」


なぜかアレクだけではなくカインまでもがアイリーンの名を呼んだ。


「アイリーン!僕だ!カインだ!もちろん覚えているだろう?」


「んん?どなたですか?」


アイリーンは首をかしげる。


「君とは昔からからよく遊んでいたじゃないか!隣の領地にいた時からよく遊びに来てたカイン兄さんだよ!」


「すみません。あまり小さい頃のことは覚えていないので」


カインはショックで項垂れる。


「アレク様頑張ってくださいね♡」


アイリーンは誤魔化すかのようにニコリと笑った。

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