第30話 剣術の稽古②

サトゥーラ国には三つの騎士団がある。


青銅ブロンズ騎士団は入りたての見習い、若手や古参でも指導役の人たちで構成されている。ちなみに入団したてのサラの兄が在籍している。


その上は鋼鉄アイアン騎士団と呼ばれ、歴戦の猛者、戦闘のプロ集団たちが揃っている。元傭兵も多く、サラの父ボルトが鋼鉄騎士団の団長を務めている。


白金プラチナ騎士団、

主に貴族で構成されており、魔法が使えて剣で戦える魔法剣士が主体。

白金騎士団の団長は侯爵家の嫡男が務めており、美しさと強さを兼ね揃えた聖騎士として令嬢たちからは大人気である。

他の団員たちも容姿が整っており女性にモテる者が多いため、むさくるしい男衆が多い鋼鉄騎士団とは相性が悪く、妬み嫉みなどが原因なのかどちらかが厄介事を起こしてですぐに喧嘩する。


要するに仲が悪い。


カインの祖父ヨーゼフは伯爵であり父ダルタニアンは白金騎士団の副団長である。


ヨーゼフの治める領地と辺境伯の領地が近いのとアイリーンの祖父ガスタルとヨーゼフは仲が良かったためにカインが小さい頃は祖父と共に連れられて辺境伯の領地に赴くことが度々あった。


アイリーンは小さい頃から天使のように可愛らしいと評判であったためにカインはアイリーンに一目惚れをしてしまい、アイリーンをよく誘っては屋敷の庭などで遊んでいた。


アイリーンにとってはもう一人の兄のような感じではあったが、恋愛感情の好き嫌いとかは特に無くカインがしつこく遊びに誘うものだから仕方なく付き合ってあげている程度だった。


ただアイリーンも小さい頃は結構お転婆だったのでカインと共に野原を駆けめぐり泥粘土をつくったり木の枝でチャンバラごっこをやったりといつもはしゃいで遊んでいた。


カインがアイリーンを好きだったこともありアイリーンをかなり甘やかしていたのが災いだったのか、アイリーンはよくカインに悪戯をして遊んでいた。


落とし穴をつくってカインを落としたり、池に突き落としては浮き輪を近くに投げるだけで助けようとしなかったり、泥団子で雪合戦みたいなことをしたり、雪合戦では雪の中に石を入れてみたりなどなど……。


遊んでスッキリした後、夕方になって屋敷に戻るとアイリーンの母キャサリンは鬼のような形相で待ち構えており服を汚して泥だらけで帰ってくるアイリーンを厳しく叱っていた。


そんな時アイリーンはすかさずカインのせいにしてそそくさと逃げるように自分の部屋に戻るのであった。


アイリーンが7歳の頃、祖父ガスタルとカインの祖父ヨーゼフが急に口論となり喧嘩をはじめた。二人は徐々にヒートアップして、しまいには歳も考えずに殴り合う始末。そして挙句の果てには互いに絶交を言い渡し、それ以降は二度と互いの領地をまたぐことは無かった。


可哀想なカインは大好きだったアイリーンとそれ以降は全く会えなくなり、ついには学園に入学するために王都に行くことになる。


初恋を拗らせてしまったカインはアイリーンに執着し、学園に入っても他の令嬢に想いを寄せることなく剣術の稽古に励むのであった。


しかし、そんなカインにとって信じられないというか、受け入れられない知らせがきた。


それはアイリーンが婚約したという知らせだった。


しかもお相手は、あの貴族内では不人気で凡愚な顔をしたダメ王子だった。


「許せん!」


カインは憤慨する。


「なぜあのような者と婚約したのだ!俺の方が彼女に相応しいのに!」


しかし王族の婚約に一貴族が反対するはずもない。ましてや未だ学園に通う一学生でしかないカインが二人の婚約を破談にし、さらに横恋慕することなど出来るはずもなかった。


しかしカインはあきらめない。


思ったよりしつこい男はどうすれば良いかを考える。


「そ、そうだ!アイリーンが直接あいつに婚約破棄を申し込めば良いのだ!来年には二人が学園に入学する。その時に俺があのダメ王子を叩きのめしてアイリーンに愛の告白をすれば良いのだ!」


名案を得たとばかりにほくそ笑むカインは女性が引くぐらいに薄気味悪い笑みをしていた。

アレクの強さとアイリーンの想いも知らずに……。



修練場ではアレクとカインが戦っていた。


実力はどっちもどっちで一見互角には見えたが若干アレクの方が連戦の疲れもあり不利な状況だった。


カインはアイリーンに良いところを見せたいとばかり張り切って歳の差も考えずに全力を出してアレクと戦っていた。


アレクの方もアイリーンの前で負けるわけにはいかないと必死で応戦していた。


女を賭けた男と男の意地の戦いである。ただカインの方が圧倒的に有利な条件での試合であったために全くもってフェアな戦いではなく、客観的にはただの後輩いびりだった。


しかし上級生のクラスで(アレクは何年上の先輩かをドルトン先生からは知らされていない)実は学園では騎士団への入団予定が決まっているエリートクラスと戦わされていることをアレクは知らない。


実は四年生であり最高学年である。


本当はサラの兄もいるはずだったのだが、サラが自分の剣術の授業に受けに来るとわかって慌ててボイコットしていた。


そして今アレクが戦っている相手であるカインはサラの兄が唯一勝てない相手だった。

つまりそれだけの実力なのである。


にもかかわらずカインは上級生でありながら私情をはさみ本来剣を向けてはならない相手に対し本気で戦っているのだ。


大人気ない。


アレクはもうヘトヘトで剣を受けるだけでも精一杯だった。カインは己が優位に立っていることで更に調子に乗っていた。


「ははは!これでもくらえ!」


ブレードスラッシュ!


剣に風の魔法を纏わせて衝撃派をくりだすカインの得意技だ。


ちなみに剣術の稽古では魔法の使用は禁止である。

完全に出来上がってしまったカインはもはやルールなどは完全に忘れており、やりたい放題だった。


しかし、それが自らの首を絞めることになる。


(え?魔法使っても良かったの?)


カインの剣技を見てアレクも魔法を行使する。


ソニックブーム!


ブレードスラッシュの上位版。威力はソニックブームが上であり、カインが放ったブレードスラッシュを掻き消し、その衝撃波はさらにカインを襲う。


どっかーーーーん!!!


アレクが出した技はカインだけでなく他の上級生も巻き込んで全員もれなく吹き飛ばしてしまった。


修練場の壁にはアレクの技によって大きく抉られた痕が残り、その惨状は応援していたアイリーンも目を覆うほどのものであった。


かろうじて死者を出さずには済んだものの、その場にいた上級生たちは全員怪我を負ってしまい、アイリーンが気を使って先生を呼んでくれたおかげで怪我した生徒たちは全員、無事、救護室へと運ばれていった。


アレクはまたもや学園長に呼び出されて事情聴取を受けた。


一応今回はアレクに非がなかったため注意だけにとどまったが、ただ二度と剣術の稽古では魔法は使わないようにと学園長から念を押された。


そして同級生たちからはアレクが上級生を残らず救護室送りにしたとして更に恐れられるようになったそうな。

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