第24話 授業初日
アレクは七時に起きるはずが早朝五時に起きてしまった。しかも何故かサーシャも既に支度を整えており、アレクは仕方なく起きてしまう。
「ボルト様が朝の鍛錬は怠らない様にと仰ってました」
そう言ってサーシャは剣と鍛錬用の服を差し出してくる。
学園にきても鍛錬から逃げられないアレクであった。
アレクは観念してあくびをしながら着替えを始める。
眠そうに寮の外を出て朝の鍛錬をするアレク。環境の変化もあり、久しぶりの鍛錬ではあったが幼少から習慣になっていたのですぐにいつも通りに体が動くようになっていた。
鍛錬を終えてアレクは部屋で食事を摂る。
アレクも本当は寮の食堂で皆と一緒に食事をしたいのだが、部屋に戻ればサーシャが勝手に食事を持ってきてくれるのでアレクもあきらめて仕方なく一人で朝食を食べていた。
アレクも一応は王族であり、しかも第二王子派に命を狙われている立場である。
したがってサーシャは王の命によって食事に毒が入らないようアレクを自室で食事を摂らせるようにと命じられていたのである。
食事を終え、制服に着替えたアレクは学園の校舎へ向かう。
途中アイリーンと会い、彼女は嬉しそうに手を振って挨拶してくれた。
「アレク様おはようございます!今日から授業が始まりますわね♪私も楽しみですわ♪」
アイリーンは可愛いムーブでアレクに近づく。
アレクはいつも通りだらしない顔をして嬉しそうに挨拶する。
「おはようアイリーン!僕も楽しみだよ」
側にはメリアが静かに後について来ており三人は教室に向かった。
教室の入ると半分ぐらい席が埋まっており、後ろの席が空いていたため三人は昨日と同じように並んで席に座る。
「それでは授業を始めます」
フラン先生が教室に入ってくるとすぐに授業を始めた。
(点呼とかは取らないんだな)
前世の学校と違い生徒が来ているかどうか確認するための点呼を取らないことに驚くアレクだったが、すぐにこれなら無断欠席してもバレないかもと小賢しく悪巧みをする。
しかし隣には真面目なアイリーンがいるのだ。欠席すればすぐにバレるだろうし、何より毎日アイリーンに会いたいアレクが授業をボイコットする意味もなかった。
「それでは昨日入学式で国王様からのお話でもありましたが、この国の初代国王アルテマ様がこの学園の創立者であり、この国の成り立ちと学園創立の理念を学んでまいりましょう」
フランは張り切りながら授業を始めた。
この国の成り立ち。
サトゥーラ国建国の王アルテマの伝記。
今から500年ほど昔のこと、アルテマはこの世界において最強の戦士であり全属性の魔法が使える魔法師でもあった。
当時世界には魔獣が数多く生息しており、アルテマはより強い魔獣を求めて各地も巡っており魔獣の被害に遭った地へ赴いては嬉々として魔獣を倒していた。
アルテマは強い魔獣と戦うことに生きがいを感じており生粋のバトルジャンキーであった。
そうして戦いを通じて強さを求めたアルテマに転機が訪れる。
今の王都の地に突如空から巨大な龍が現れたのだ。
背後には大群の竜族の軍勢を引き連れており、竜の軍勢は口から炎を出して多くの人々を殺し町を焼き尽くした。
そして当時あった王国は一日で滅びたのである。
竜の軍勢に怯えた周辺国は竜族との戦いに対し終始劣勢を強いられる。
困窮した人々は縋るように当時最強の戦士と名高いアルテマに竜退治を依頼したのであった。
アルテマは意気揚々として巨大な龍に戦いを挑む。しかし、空からの攻撃に対し対策がないアルテマは苦戦する。
一方的に炎で焼かれ、火傷を負うアルテマだったが、剣ではなく魔法での戦いに集中し、風の魔法で翼を切り裂き、雷の魔法で龍を地上に引き摺り下ろした。
それからは剣でもって戦い龍の首を一刀両断し、ついに龍はアルテマの手によって倒されたのである。
親玉を倒された竜族たちはやがて劣勢となり、遂には退却して空から姿を消したのである。
そうして勇者となったアルテマは当時、王族の生き残りであった王女と結婚して滅びた国を再建することを決める。
(実は王女の策略なのだが、アルテマは彼女の美貌と誘惑によって骨抜きにされ、完全に王女に絆されたアルテマは彼女との結婚を条件に国を再建するようにと誘導されたのである)
王となった勇者アルテマの影響力は次第に強くなり後には建国の王として、そして新しい国家として人々から認識されるようになったのである。
アルテマは強い武人であったが、王として政治ができる力量はなかったため、国家運営のための人材養成が課題となり、各地から有望な人材を募り、また人材養成の場として学園を創立したのであった。それから五百年、王の願いによってできた学園は、多くの有望な人材を輩出し王国の繁栄を築き上げたのである。
人材養成によって成長した人たちは国に貢献し、やがてはその褒章として貴族となり領地を与えられるようになった。そして王都は王族が治め、領地を与えられた貴族たちは領地を治め、国民からは税を徴収するようになっていった。
「このように建国の父である初代国王アルテマの偉大な功績によって私たちがいまこの学園に居られるのです!」
フラン先生は最後にはハイテンションで解説する。
その後は学園の授業科目の説明が始まった。
選択科目もいくつかあり、
貴族専門の授業と貴族用校舎の説明。
商人や文官の授業と専門校舎の案内。
衛兵や騎士団への入団希望の生徒たちが学ぶ修練場。
魔法師を目指す者たちが学ぶ魔塔。
などなど、
説明は多岐にわたり、情報が多すぎるので生徒たちは全て覚えるのはあきらめて各々自分たちが希望する授業の説明のみ覚えるのであった。
時刻はすでに正午、校舎には授業終了の鐘の音が鳴り響く。
「それでは午後からは各人の能力判定テストがあります。13時にまたこの教室に集まってくださいね」
フラン先生はそう言って慌てて教室を出て行った。
さて、昼食の時間である。
アレクはアイリーンの誘いを受け、一緒に食堂でご飯を食べることになった。アレクは一旦寮に戻り、サーシャに伝えると彼女は面倒臭そうに「わかりました。それではアレク様の食事は食堂にお運びします」といって折角用意したであろう昼食をカートに移してくれた。
食堂に行くとすでにアイリーンとメリアが座っており、アレクを待ってくれていた。
「アレク様!こちらへどうぞ!」
ウチの未来の嫁が可愛いと幸せそうな顔でアイリーンのもとへ向かうアレク。
食堂では男同士で食事をする生徒たちは殺意を込めてアレクを睨みつけるのであった。
アレクが席に座るとサーシャがカートで運んできた食事を前に並べ始める。
「まあ!アレク様いつもこんなに召し上がられるのですか?」
アレクの昼食の品数を見てアイリーンは驚いている。
サーシャはアレクに対して猫をかぶるアイリーンに対し「本当に昨日と同じ人物か?」と心の中で静かに驚く。
女は恐ろしい生き物だ。
「アイリーンは普段それだけしか食べないの?」
アイリーンの目の前にはサラダとパン一つそして簡素なスープがあるだけだった。それは庶民と同じ食堂のメニューであり貴族向けのメニューではなかった。隣のメリアも同じ食事を摂っていた。
「私は普段そんなに食べられないので……」
アイリーンがそういうとサーシャは「お前何キャラだよ」と思いながらも心に留め、何食わぬ顔でアレクの近くで配膳をし、しばらくアレクの側で待機していた。
メリアだけは知っていた。
普段、アイリーンは少食ではあるが、実は大のお菓子好きで夜にはたくさんのケーキやお菓子を食べているのだ。夜に食べるものだから当然肥る。したがって、朝と昼の食事は減らし、夜のお菓子のために我慢しているのであった。
アレクとアイリーンはにこやかに談笑し、食事を済ませた。
午後からは能力判定のテストである。
最初は答案用紙が配られ、子供の頃から習っていたことをどこまで覚えているかの確認テストのようなものだった。当然王族として教育されたアレクにとっては小学校のテストより簡単だものだった。
続いて、魔力の測定テストである。
いかにも異世界らしいイベントを前にしてアレクのテンションは上がった。
「これだよ!こういうのを待っていたんだよ!」
と1人騒ぎながらアレクは浮かれていた。
教室の教壇の上には水晶玉が置いてある。生徒たちは水晶玉に手をかざし、その光の色と強さを測り、教壇のとなりにはフラン先生が測定結果を見ながら一生懸命に記入していた。
メリアの番が来た。
メリアが手をかざすと水晶玉は緑色に光り出す。
フラン先生は風の属性だねと言いながらメリアの測定結果を記入用紙に記していた。
続いてアイリーンである。
アイリーンが手をかざすと水晶玉は水色に輝く。しかも光はメリアよりも大きい。
「あなたは水の属性ですね。光が強いので相当の魔力があるようですね」
とフラン先生が興奮していた。
アイリーンは嬉しそうにもとの席に戻る。
いよいよ俺の番だ。
アレクは教壇前に移動し、水晶玉に手をかざす。
すると水晶玉は突然に黄金色に光り輝く。それもアイリーンと比べても格段に強い光だった。あまりにも強い光のため教室中が光で満たされ、生徒たちが眩しくて目を押さえるほどであった。
フラン先生は驚きすぎて呆けた顔をしており、
「ア、アレク王子は、その、黄金色、でしたね。あ、ああの、黄金色はしょ、初代国王のアルテマ様以来いらっしゃらない、ぜ、全属性の魔力です……」
皆がアレクの判定に驚き教室は静まり返っている。
アレクはポカンとしてよくわからないけど凄いんだなと嬉しそうに席に戻った。
席に戻ると隣にはハイテンションのアイリーンが嬉しそうに話しかけてくる。
「アレク様!初代国王のアルテマ王と同じ全属性だなんて、なんと素晴らしいことでしょう!私も驚きましたわ!」
となりでメリアが静かに同意し頷いている。
前にいる生徒たちもざわざわとしていた。
(おい!全属性ってなんだよ!)
(王族の血が流れていないって誰がいったんだ?)
(ひょっとしてわざわざ水晶玉が光るように細工されていたんじゃないのか?)
などと生徒達がひそひそ話している様子が窺えた。
アイリーンはそうした会話をつぶさにチェックし誰が何を言ったのかを事細かに覚えるのであった。となりのメリアも同じである。アレクはそんな恐いアイリーンの一面には気付かずにただ単純に褒められたことに意気揚々としてだらしない顔で喜んでいるだけだった。
そして次は講堂へと移動する。
次は魔法の発現テストである。
皆、教師陣の前で魔法を出せるかどうかをチェックするのである。
生徒の多くは少し魔法を使えるだけで、小さな微風を手から放ったり、マッチの火ぐらいの小さな灯火を手から出したりとしかも疲労感が顔に出ており、とても苦労して魔法を出したようだった。
メリアもドライヤーぐらいの風を手から出してみせた。それでも発動から30秒ほどで魔法は消える。他の者たちは魔法が発動してから10秒から最長では1分程しか魔法が発現せずアレクはこんなものなのか?と少し驚くのである。
魔法の師匠であるガルシアからあんなにしごかれたので当然なのだが、知らず知らずに強くなったアレクは英才教育と過酷なトレーニングにより実はチートになっていたことを今更ながら気付くのであった。
アイリーンの番が来た。
アイリーンが手をかざし、呪文を唱えると手から消防の消化ホースから出てくる水と同じような勢いで水が出てくる。しかも3分以上も魔法は切れる事なく発動し続けていた。
それを見た生徒たちは皆驚いてアイリーンを称賛した。
アイリーンは満足そうな顔でアレクとメリアのもとに戻ってくる。
次はアレクの番である。
先程の強い光を見た生徒たちはアレクに期待の眼差しをおくる。
アレクは緊張しながらも手に魔力をこめる。
(何の魔法にしようかな)
すでに自分がチートであると自覚したアレクはどの魔法を出して皆を驚かせようかとそんな幼稚なことを考えていた。確かにアレクの魔法の威力は学園の全生徒たちと比べて圧倒的に凌駕しており、何を出しても皆驚く程の技量を持っている。
(水はアイリーンと同じだから無し、火は危ないからな、以前も倉庫を燃やして父に怒られたしな……)
色々考えるうちに時間が経っていった。周りの生徒たちはなかなか魔法が出てこないので実は魔法が使えないのではとヒソヒソと話す者も出て来たのでアレクもカチンときてそれなら見せてやるよと強気になって魔法を出してしまう。
アレクの手から放たれた強い光と共に強烈な竜巻が現れた。
いわゆる風の魔法だが、魔力を練りながら考えている間に魔力が溜まりすぎて知らず知らずうちに強烈な竜巻を出してしまったのだ。
講堂中心に出現した巨大な竜巻は勢いを増し、講堂にいた生徒たちが全員巻き込まれてしまった。
一部の生徒は竜巻の巻き込まれて上空に飛ばされた。
そしてかろうじて竜巻に巻き込まれなかった生徒は巻き込まれなかっただけで皆の制服がズタズタに引き裂かれ破けてしまったのだ。
かろうじてアイリーンとメリアは咄嗟に地面に屈んだために事なきをえる。しかし、対応が遅れた者たちはほぼ全裸になってしまった。
アレクも慌てて魔法を止めようとしたが、すでに放たれた竜巻はその魔力がなくなるまで勢いが衰えず、しばらくの間講堂を荒らし続けるのであった。
ようやく竜巻が消え去った後、
講堂の天井はすっぽりと無くなっており、外からは太陽の光が燦々と差し込んできて講堂の惨状をまざまざと照らし続けるのであった。
先生方も呆然としており、どう判定してよいものやらと頭を悩ませていた。そして魔法によって服を剥かれ全裸になった生徒たちは大事なところを押さえながら各自蜘蛛の子を散らすように寮に逃げていった。
(や、やっちまった)
アレクは自分がやってしまったことの罪の大きさに今更ながら気づき、父にこっ酷く叱られた時の事を思い出して自責の念にさい悩まされるのであった。
さすがのアイリーンも今回ばかりは素直に喜べず、ただ驚いて目の前の惨状を見渡すのであった。
当然ながら、その後アレクは学園長の部屋に呼び出されて事情聴取を受けた後、学園長に説教されるのであった。
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